法による母性保護にはどんなものがあるか
女性労働者に対しては母性保護の観点から、労働基準法などにより以下の保護規定が設けられています。
□ 労働基準法
● 労働基準法64条の2(坑内業務の就業制限)
使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない。
(1) 妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性…坑内で行われるすべての業務
(2) 前号に掲げる女性以外の満18歳以上の女性…坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの。
● 労働基準法64条の3(危険有害業務の就業制限)
使用者は、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない。
2 前項の規定は、同項に規定する業務のうち女性の妊娠又は出産に係る機能に有害である業務につき、厚生労働省令(女性労働基準規則3条)で、妊産婦以外の女性に関して、準用することができる。
3 前2項に規定する業務の範囲及びこれらの規定によりこれらの業務に就かせてはならない者の範囲は、厚生労働省令(女性労働基準規則2条)で定める。
(参考)女性労働基準規則
● 労働基準法法65条(産前産後)
使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
3 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
● 労働基準法66条(妊産婦の労働時間等)
使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第32条の2第1項、第32条の4第1項及び第32条の5第1項の規定にかかわらず、1週間について第32条第1項の労働時間、1日について同条第2項の労働時間を超えて労働させてはならない。
2 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第33条第1項及び第3項並びに第36条第1項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
3 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。
【解説】具体的には、妊産婦から請求があったときは、時間外労働・休日労働・深夜労働をさせることはできず、また妊産婦から請求があったときは、1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定形的変形労働時間制を導入している場合でも、1日8時間・1週間40時間を超えて労働させることはできません。
● 労働基準法67条(育児時間)
生後満1年に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
2 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
● 労働基準法68条(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
□ 男女雇用機会均等法
● 男女雇用機会均等法12条(保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保)
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
(参考)健康診査等を受けるために必要な時間の確保の回数等については、厚労省の「女性労働者の母性健康管理のために」3ページを参照。
● 男女雇用機会均等法13条(指導事項を守ることができるようにするための措置)
事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
(参考)妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針
● 男女雇用機会均等法9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
□ 労働安全衛生法
● 事務所衛生基準規則20条、21条
事業者は、夜間、労働者に睡眠を与える必要のあるとき、又は労働者が就業の途中に仮眠することのできる機会のあるときは、適当な睡眠又は仮眠の場所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。
事業者は、常時50人以上又は常時女性30以上の労働者を使用するときは、労働者がが床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。
産前産後休暇とは
□ 産前休暇
労働基準法65条は「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。」と規定しています
(1) 実際の分娩日が6週間を超えた場合は延長した期間についても産前の休暇に含めます(短縮した場合は、その短縮した期間が産前の期間となります。)
(2) 分娩の日は産前に含めます
(3) 産前休暇については「女性が休業を請求した場合」となっていますので、請求しなければ、就業させることも可能です
□ 産後休暇
(1) 同条で「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合においては、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない。」と規定しています
(2) 産前休暇と異なり、産後6週間経過後に労働者が就労を請求した場合を除いて、産後休暇は必ず与えなければなりません
■ その他
産前産後の休暇については、他に次のような規定があります。
(1) 産前産後の休業期間中とその後30日間は、解雇することはできません(労働基準法19条)
(2) 年次有給休暇の出勤率(8割)の計算にあたっては、産前産後の休業期間中は出勤したものとみなされます(労働基準法39条)
帝王切開により出産日が早まった場合の産前休業の基準日はどうなる
●(参考通達)産前6週間の期間は自然の分娩予定日を基準として計算し、産後8週間の期間は現実の出産日(又は人工流産を行った日)を基準として計算する。(S26.4.2婦発113号)
【解説】労働基準法65条は「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。」と規定していますが、帝王切開による手術日が、出産予定日より早まるケースがあります。
この場合、産前でカウントする基準日は出産予定日か、帝王切開による手術日かという問題がありますが、通達では「自然の分娩予定日を基準として計算」としていますので、基準日は分娩予定日となります。ただし、会社の裁量により労働者に有利に取扱うことは可能です。
一方で、健康保険の出産手当金の場合は実際の出産日を基準としますので、このケースでは帝王切開による出産日が基準日となります。
産前産後休暇中は年休請求できない
産前産後休暇期間中に健康保険から支給される出産手当金は、標準報酬月額の3分の2に相当する額の支給ですが、年次有給休暇は賃金の100%支給ですので、女性従業員の中には年休を取得した方が有利と考える人がいます。
しかし、産前産後の休暇は労働基準法で就労を禁止している期間ですから、就労を禁止している期間に有給である年休取得や付与することはできません。
ただし、産前産後期間であっても次の期間については労働義務が生じますので、年休付与は可能です。
(1) 女性労働者が産前休暇を請求しない場合(産前については労働者が請求した場合に休暇を与えればよいとされています。)
(2) 産後6週間を経過した以後、女性労働者が就労を請求した場合
妊産婦に時間外労働をさせられるか
使用者は、妊産婦(妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性)が請求した場合には以下の労働をさせることはできません(労働基準法66条)
(1) 変形労働時間制により法定労働時間を超える労働
(2) 時間外労働
(3) 休日労働
(4) 深夜労働
請求がなければ就労は可能です。また、請求の範囲内での就労制限となります。(例えば、深夜労働のみ労働しないことを請求した場合は深夜労働のみが制限されます。)
妊産婦の就業制限は女性管理監督者にも適用か
労働基準法66条は、妊産婦(妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性)が請求したときは、時間外労働・休日労働および深夜労働を命じることができないと規定していますが、妊産婦である女性管理監督者については、時間外労働・休日労働を命じることは可能です。
ただし、深夜労働については女性管理監督者が請求したときは命じることはできません。(S61.3.20基発第151条、婦発第69号)
女性労働者から請求があれば育児時間を与えなければならない
労働基準法67条では、育児時間について「@生後1年に満たない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる。A使用者は、前項の育児時間中はその女性を使用してはならない。」と規定しています
□ 実務ポイント
(1) 育児時間中の賃金については、有給でも無給でも構いません。
(2) 育児時間をいつ与えればよいのかについては具体的な定めはありません。したがって、当事者が決定することになりますが、会社が一方的に育児時間を指定することは禁止されます。
(3) 1日の労働時間が4時間のような場合には、1日1回30分でも可能とされます。
(4) 生児とは、実子だけでなく養子も含みます。
(5) 労働者が請求しなければ与えなくても構いません。
(6) 1日1回、1時間にして欲しいとの女性労働者の請求があった場合については、一律ではなく、個々の労働者の事情により一度にまとめて請求できることもあるということであれば、差し支えないとされます。
生理休暇に上限を設けることはできない
労働基準法68条では、生理休暇について「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。」と規定しています。
□ 生理休暇の日数制限の是非
解釈例規では「就業規則その他によりその日数を限定することは許されない。」としていますので、生理休暇は2日までなどの上限を設けることはできません。ただし、就業規則に「生理休暇は原則として2日までとする。ただし、やむを得ない場合は2日を超えて請求することができる。」程度の表記は許容範囲と思われます。
□ 生理日の就業困難の挙証の是非
「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは…」ですから、生理日の就業が著しく困難でなければ休暇を認めなくてもよく、かつ本人から請求がなければ与える必要もありません。しかし、こうした苦痛は主観的なものですから、何をもって「生理日の就業が著しく困難」かの証明は困難です。
解釈例規では「原則として特別の証明がなくても女性労働者の請求があった場合には、これを与えることにし、特に証明が求められる必要が認められる場合であっても、医師の診断書のような厳格な証明を求めることなく、一応事実を推断するに足れば十分である。」としていますので、医師の診断書などの厳格な証明を求めることは不可能と思われます。
□ 生理休暇は暦日単位か
生理休暇は必ずしも暦日単位にこだわることなく、半日単位や時間単位で請求することも可能とされています。
□ 休暇中の賃金
生理休暇を有給とするか無給とするかは使用者の自由とされています。トラブル防止のため、就業規則などで有給か無給かをキチンと規定しておくべきでしょう。
□ 出勤率の計算
行政解釈では、生理休暇の取得に際して、これを精皆勤手当や賞与査定のマイナス材料とすることは、法の趣旨に照らし好ましくないとしています。
就労証明書の様式を統一
○ 2023年9月改正
就労証明書とは、認可保育所等の入所を申し込む際に保護者が市区町村に提出する書類で、被用者が申し込む場合、事業主が作成する書類です。従来、市区町村ごとに異なるフォーマットが使用されていましたが、こども家庭庁により様式が標準化され公開されました。ただし、今回は事業主によるオンライン提出は見送られたため、従来とおり紙ベースでの提出となります。
なお、当該就労証明書は令和6年度入所分からの使用となりますが、様式は次のサイトからダウンロードできます。
次世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」の届出とは何か
「次世代育成支援対策推進法」とは、次代の社会を担う子供が健やかに生まれ育成される環境の整備を図ることを目的とした法律で、国や地方公共団体が講ずる施策や、事業主が行う雇用環境の整備その他の取組みなど次世代育成支援対策を推進するための必要な事項を定めています。
特に、企業における従業員の仕事と家庭の両立等に関しては、事業主による取組みが欠かせないため、従業員数が101人以上の企業には「一般事業主行動計画」を作成し、労働局へ届出を行う義務が課せられています。
(参考)厚労省のサイト
くるみんマークとは何か
次世代育成支援対策推進法に基づき、行動計画を策定した企業のうち、行動計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けることができます。この認定を受けた企業の証が「くるみんマーク」で、全国で3,000を超える企業が認定を受けています。
次世代育成支援対策推進法に基づく認定は、一定の要件を満たせば、規模・業種等にかかわらず、申請することができます。
(参考)厚労省のサイト
父親のワーク・ライフ・バランスガイド
厚生労働省で「父親のワーク・ライフガイド」ハンドブックを作成しています。主な内容は以下となっています。
(1) わかる育休
(2) とる育休
(3) 子育て書き込みノート
(4) 参考になる情報源と相談窓口
(参考)厚労省のサイト
児童扶養手当は父子家庭でも支給される
「児童扶養手当」は、父母の離婚などで、ひとり親家庭の生活の安定と自立の促進に寄与し、子どもの福祉の増進を図ることを目的として支給される手当です。母子家庭に限らず父子家庭へも「児童扶養手当」の支給が行われます。
「児童扶養手当」を受給するには、住所地を管轄する市区町村への申請が必要です。詳しくは、お住まいの市区町村へお尋ねください。
□ 児童扶養手当の父子家庭への支給要件
次の(1)〜(5)のいずれかに該当する子どもについて、父がその子どもを監護し、かつ、生計を同じくしている場合に支給されます。
(1) 父母が婚姻を解消した子ども
(2) 母が死亡した子ども
(3) 母が一定程度の障害の状態にある子ども
(4) 母の生死が明らかでない子ども
(5) その他(母が1年以上遺棄している子ども、母が1年以上拘禁されている子ども、母が婚姻によらないで懐胎した子どもなど)
(参考)厚労省のリーフレット/Q&A
2024年10月から児童手当制度が変更へ
児童手当制度の改正点は、以下のとおりです。
(1) 支給対象
現行:中学生まで⇒ 改正:18歳に達する日以後の最初の3月31日まで
(2) 所得制限
現行:あり⇒ 改正:所得制限なし
(3) 支給時期
現行:年3回⇒ 改正:年6回(偶数月)
(4) 支給額
第3子以降の支給額を30,000に増額
【解説】新たに支給対象となる児童がいる場合は、令和7年3月31日までに市区町村へ申請を行うことで、令和6年10月分からの児童手当を受給することができますので、早めの手続きをお勧めします。
(児童手当の詳細)こども家庭庁のサイト
均等法による間接差別の対象範囲の拡大について
従来は、総合職の労働者を募集、採用する際に、合理的な理由がないにもかかわらず転勤要件を設けることを「間接差別」として禁止されてきましたが、2014年7月から、男女雇用機会均等法で禁止している「間接差別」の対象範囲が拡大され、すべての労働者の募集・採用・昇進・職種の変更をする際に、合理的な理由がないにもかかわらず転勤要件を設けることは「間接差別」として禁止されています。
(詳細)厚労省のリーフレット
女性活躍推進法とは何か
「女性活躍推進法」は、女性が、職業生活において、その希望に応じて十分に能力を発揮し、活躍できる環境を整備することを目的として制定された法律です。現在、常時雇用する労働者を101人以上を雇用する企業は、女性の活躍推進に向けた行動計画の策定などが義務づけられています。また、常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として「男女の賃金の差異」が情報公表の必須項目となりました。
(参考)厚労省のサイト
女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・届出、情報公表が 101人以上300人以下の中小企業にも義務化へ
○ 2022年4月1日改正
一般事業主行動計画とは、次世代育成支援対策推進法に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって(1)計画期間(2)目標(3)目標達成のための対策及びその実施時期を定めるものです。
○ 一般事業主行動計画の策定・届出の進め方
・ステップ1 自社の女性の活躍状況を、基礎項目に基づいて把握し、課題を分析する
・ステップ2 一般事業主行動計画を策定し、社内周知と外部公表を行う
・ステップ3 一般事業主行動計画を策定したことを都道府県労働局に届け出る
・ステップ4 取組を実施し、効果を測定する
(詳細)厚労省のサイト
常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として「男女の賃金の差異」が情報公表の必須項目となりました
○ 2022年7月8日改正
常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として「男女の賃金の差異」が情報公表の必須項目となりました。
□ 情報公表と状況把握
2022年7月8日以降に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要があるほか、情報公表を行った後の一般事業主行動計画の策定・変更にあたり、状況把握を行う必要があること。
● 公表方法等の資料
(参考通達)男女の賃金の差異の算出及び公表の方法について(R4.7.8雇均発0708第2号)
(解説資料)男女の賃金の差異の算出方法等について
男女間賃金格差分析ツール&ツール活用パンフレット
● 栃木労働局のサイト