労災保険とは何か
労災保険は、業務災害(仕事中の事故など業務に起因するケガ・病気・死亡などの災害)や、通勤災害(通勤途中の事故などによるケガ・死亡などの災害)について保険給付を行い、労働者やその遺族の生活を救済することを目的とする国が運営している保険制度で、正式には「労働者災害補償保険」といいます。
労働基準法75条では「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」として、業務に起因する災害が起きた場合は労働者に対する災害補償を事業主の責任において行うように定めていますが、労災保険に加入することにより労災保険からその補償が行われ、事業主の労働基準法上の災害補償義務はその範囲において免責されるとしています。
労災保険は法人・個人経営を問わず従業員を一人でも雇えば「強制適用事業」とされ、労災保険の加入手続の有無にかかわらず、法律上当然に労災保険が適用されます。
労災保険における事業単位の考え方
労働保険の保険関係は、個々の事業ごとに成立するとしますから、原則として、一の会社であっても、支店や営業所などの各事業所単位ごとに保険関係成立届が必要となります。
□ 労災保険における事業単位の考え方
● S62.2.13 発労徴第6号、基発第59号
1 事業の概念
労災保険において事業とは、労働者を使用して行われる活動をいい、工場、建設現場、商店等のように利潤を目的とする経済活動のみならず社会奉仕、宗教伝道等のごとく利潤を目的としない活動も含まれる。
2 適用単位としての事業
一定の場所において、一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体は、原則として一の事業として取り扱う。
(1) 継続事業
工場、鉱山、事務所等のごとく、事業の性質上事業の期間が一般的には予定し得ない事業を継続事業という。継続事業については、同一場所にあるものは分割することなく一の事業とし、場所的に分離されているものは別個の事業として取り扱う。ただし、同一場所にあっても、その活動の場を明確に区分することができ、経理、人事、経営等業務上の指揮監督を異にする部門があって、活動組織上独立したものと認められる場合には、独立した事業として取り扱う。
また、場所的に独立しているものであっても、出張所、支所、事務所等で労働者が少なく、組織的に直近の事業に対し独立性があるとは言い難いものについては、直近の事業に包括して全体を一の事業として取り扱う。
(2) 有期事業
木材の伐採の事業、建物の建築の事業等事業の性質上一定の目的を達するまでの間に限り活動を行う事業を有期事業という。有期事業については、当該一定の目的を達するために行われる作業の一体を一の事業として取り扱う。
労災かくしとは何か
「労災かくし」とは、その名のとおり労災事故が起こったのに事故を公にせず、労働基準監督署へその旨を申告しなかったことをいいます。建設業などでは、親会社や元受などへの遠慮から往々にして虚偽の労災申告を行うことがあります。これらの虚偽申告も、労災事故を申告しなかったことと同様に「労災かくし」となります。
労災かくしには、労災保険法上では「6か月以下の懲役又は20万円以下の罰金」、安全衛生法上では「50万円以下の罰金」に処せられるとしています。
(参考)労災かくしの送検事例/厚労省のサイト
□ 労災かくしの例
(1) 労働者私傷病報告を故意に労働基準監督署に報告しない
(2) 虚偽の内容を記載した労働者私傷病報告を労働基準監督署に提出する
(3) 労働基準監督署に虚偽の陳述および報告をする
【解説】労災保険法施行規則23条では「@保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。A事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」としています。
労災保険の請求用紙には事業主の証明欄がありますが、事業主が証明欄を記載しない場合は、被災労働者は会社に証明をして貰えなかった事情を記載した書面を添えて労災保険給付請求できることになっています。請求書を受理した労働基準監督署は、会社に対して事情聴取等を行うことになりますますが、証明をしない理由があれば、会社は「証明拒否理由書」を労働基準監督署に提出することができます。
労災保険未加入中の労災事故にはペナルティがある
労災保険は、原則として労働者を一人でも使用していれば、労災保険の加入の有無ににかかわらず、法律上当然に適用されることになっています。したがって、会社等が労災保険に未加入であっても、労働者は労災保険の給付を受けることができます。
労災保険の加入手続きを怠っていた期間中に労災事故が発生した場合には、まず未加入期間の保険料を2年に遡って徴収されます。さらに「労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度」により、次のようなペナルティが課せられます。
(1) 労災保険の加入手続について労働基準監督署から指導等を受けたにもかかわらず、手続を行わない期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合 →事業主が「故意」に手続を行わないものと認定し、当該災害に関して支給された保険給付額の100%を徴収
(2) 労災保険の加入手続について労働基準監督署から指導等を受けてはいないものの、労災保険の適用事業となったときから1年を経過して、なお手続を行わない期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合→ 事業主が「重大な過失」により手続を行わないものと認定し、当該災害に関して支給された保険給付額の40%を徴収
(詳細)厚労省のサイト
【注】当該災害に関して支給される保険給付(療養(補償)給付および介護(補償)給付は除く)の額に100%または40%を乗じて得た額が費用徴収の徴収金額となります。(ただし、療養開始後3年間に支給されるものに限ります。)
労災保険の被保険者とは
労働基準法9条では労働者の定義を「職業の種類を問わず、事業に使用されるもので賃金を支払われるものをいう。」としています。労災保険の被保険者は労働基準法の労働者の概念と同義としていますので「事業に使用されるもので賃金を支払われるもの」であれば、正社員のみならず、パート、アルバイト、外国人労働者など全ての労働者が労災保険の被保険者となります。
また、労災保険は法人・個人経営を問わず従業員を一人でも雇えば「強制適用事業」とされ、労災保険の加入手続の有無にかかわらず、法律上当然に労災保険が適用されます。労災保険料は、全額事業主負担です。
□ 労災保険強制加入の唯一の例外
個人経営であって、常時使用する労働者が5人未満の農林水産の事業については、暫定任意適用事業として労災保険は任意加入とされます。
□ 事業主やその家族従事者などは労災保険に加入できるか
中小企業の事業主やその家族従事者、一人親方などは「事業に使用されるもので賃金を支払われるもの」ではありませんので、労災保険には加入できないのが原則ですが、労働保険事務組合を介して労災保険に特別加入する道が開けています。
労災保険の加入手続
労災保険と雇用保険を総称して「労働保険」といい、どちらか一方の加入は原則としてできません。一般的な「一元適用事業(注)」の加入手続は以下の通りです。
【注】一元適用事業とは、労災保険料と雇用保険料の申告・納付等に関して、両保険を一元的に取り扱う事業をいいます。一方、二元適用事業とは、労災保険と雇用保険の適用の仕方を区分する必要があるため、保険料の申告・納付等をそれぞれ別個に二元的に行う事業をいいます。一般に、農林水産業、建設業等が二元適用事業で、それ以外の事業が一元適用事業とされます。
(詳細)厚労省のサイト
□ 加入手続
(1) 事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に「労働保険関係成立届(様式第1号)」と「労働保険概算保険料申告書(様式第6号)」を届出・申告します。
(2) 申告済みの労働保険関係成立届の控えを持参し、所轄のハローワークへ「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)」を届出ます。
(3) 労働保険関係は各事業場ごとに成立することが建前ですから、支店等がある場合は本社・支店ごとに加入手続が必要です。しかし、労務管理や給与計算を本社でまとめて処理するような場合は、保険料納付事務を本社で一括して処理することも可能です。
この場合は、まず支店等の所在地を管轄する労働基準監督署に、上記(1)により届出・申告します。次に、本社を管轄する労働基準監督署に「労働保険継続事業一括許可申請書(様式第5号)」により一括処理の申請します。
(4) 同様に、雇用保険の被保険者に関する処理も本社で一括処理できます。この場合は、支店等を管轄するハローワークへ「雇用保険事業所非該当承認申請書」により申請を行います。
新たに支店や営業所等を開設したときの手続はどうする
労災保険でいう事業とは、一定の場所、一定の組織のもとに有機的に関連性をもって行う作業の一体、すなわち、業として反復継続して作業を行う一つの経営組織として独立性をもった経営体をいい、一つの企業であっても、本社、支店、工場などに分かれている場合、原則として各々が独立の事業として取り扱われます。
□ 新たに支店や営業所等を開設したときの手続
(1) 支店等の所在地を管轄する労働基準監督署に「労働保険関係成立届(様式第1号)」を届出ます。支店等について労働保険番号が付与されます。
(2) 本社と支店等について、事業主が同一で労務管理や給与計算を本社でまとめて処理するような場合であって、本店と支店等が、労災保険率表による事業の種類が同じである場合は、本社を管轄する労働基準監督署に「労働保険継続事業一括許可申請書(様式第5号)」を提出します。
この場合の支店等の労働保険料は本社で一括処理しますので、本社の年度更新の際に一緒に労働保険料の手続を行います。労災保険率が異なり一括許可されないような場合は、保険関係が成立した日から50日以内に、支店等の所在地を管轄する労働基準監督署に「労働保険概算保険料申告書(様式第6号)」を申告のうえ、概算保険料を納付する必要があります。
(3) 次に雇用保険の被保険者に関する処理も本社で一括処理できますので、支店等を管轄するハローワークへ「雇用保険事業所非該当承認申請書」により申請を行います。この場合、労災保険料率が異なっていても雇用保険料率が同一であれば、非該当承認申請は可能です。
(4) 最後に本社を管轄するハローワークへ、非該当事業所の社員分の資格取得届等を提出します。
労災保険の特別加入とは何か
労災保険は「労働者の業務上の災害に対する補償」を目的としていますから、法人の代表者等(事業主・役員・家族従事者など)は加入できません。
一方で、健康保険においては法人代表者等もその加入を義務づけていますが、健康保険の保険給付の対象は「業務外の事由による疾病又は負傷」であって、業務上の疾病や負傷を除外しています。このため、法人代表者等が業務上災害で負傷すると、労災保険からも健康保険からも保険給付を受けられず、自由診療(全額自己負担)で治療を受けざるを得ない状況が発生します。
このような中小事業主のリスクを軽減するために、労災保険の「特別加入」の道が開けています。具体的には、常時300人以下(金融・保険業、不動産業、卸売業、小売業、サービス業の場合は50人以下)の労働者を使用する中小事業主は、一定の条件のもとに労災保険に特別加入することができるというものです。その条件とは次の3つです。
(1) 一般の労働者に対して、労働保険の保険関係が成立していること
(2) 労働保険事務組合に対して労災保険の処理を委託すること
(3) 事業主とその家族従事者全員(法人の場合は役員全員)を包括して加入すること
【解説】
(1) ほかに、一人親方(大工、左官など)の自営業者とその者が行う事業に従事する者や、海外派遣者なども労働保険事務組合を介して労災保険に特別加入することができます。
(2) 常時使用する従業員が5人未満の法人代表者等については、通達(H15.1保発第0701001号)により、業務上の災害であっても健康保険での診療を認めています。また、常時使用する従業員が5人未満の個人経営の事業等は健康保険の加入を免除されますが、このケースでは、業務上災害であっても国民健康保険が適用されるとしています。
(3) 特別加入の場合、加入者自身が「給付基礎日額」を選択し、それに所定の保険料率をかけて算定された保険料を支払います。
(参考)厚労省のサイト
兼務役員と労災保険の関係
兼務役員と労災保険の関係は、以下の通達をご参照ください。
●労災保険法における法人の重役の取扱いについて(S34.1.26基発第48号)
1 法人の取締役、理事、無限責任社員等の地位にある者であっても、法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する取締役、理事、代表社員等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対象として賃金を得ている者は、原則として労働者として取り扱うこと
2 法令又は定款の規定によっては業務執行権を有しないと認められる取締役等であっても、取締役会規則その他内部規定によって業務執行権を有する者がある場合には、保険加入者からの申請により、調査を行い事実を確認したうえでこれを除外すること。この場合の申請は文書を提出させるものとする
3 監査役及び監事は、法令上使用人を兼ねることを得ないものとされているが、事実上一般の労働者と同様に賃金を得て労働に従事している場合には、労働者として取り扱うこと
4 労災保険法第25条の賃金総額には、取締役、理事、無限責任社員、監査役、監事等(以下「重役」という。)に支払われる給与のうち、法人の機関としての職務に対する報酬を除き、一般の労働者と同一の条件のもとに支払われる賃金のみを加えること
労災保険料の仕組み
■ 労災保険保険料は全額事業主負担
保険料の算出方法は、過去1年間に事業主が使用する全ての労働者に支払った賃金(出張旅費などの実費弁償的なものや、退職金などの恩恵的なものを除いた全ての賃金)の総額に労災保険率を掛けて算出します。
■ 労災保険の保険料は前払い制
具体的には、4月1日から3月31日までの1年間に労働者に支払うと予想される賃金の総額に、労災保険率を掛けた金額を「概算保険料」として申告・納付します。翌年、実際に支払った賃金をもとに計算した保険料を「確定保険料」として申告し、過不足を清算します。同時に新たな1年間の概算保険料を申告・納付します。これの繰り返しです。
■ 労災保険率
賃金総額に掛ける労災保険率は事業の種類により異なり、年度ごとに見直されます。労災事故の可能性の高い事業は保険率を高く、低い事業は保険率を低くという考え方です。
■ 継続事業と有期事業
労災保険は「継続事業」と「有期事業」という使い分けをしています。「有期事業」とは、土木建設の事業や立木の伐採・搬出の事業などの工期の期間が決まっているなど事業の期間が予定できる事業をいい、それ以外の一般の事業を「継続事業」といいます。
労働保険料は分割納付もできる
労働保険料を分割納付することを「延納」といいます。
□ 延納の条件
延納できる場合は、概算保険料の額が40万円以上(労災保険または雇用保険の一方のみ保険関係が成立している事業は20万円以上)に限ります。なお、労働保険事務組合に労働保険事務を委託しているときは概算保険料の額に関係なく延納が可能です。
分割は、@4月1日から7月31日まで、A8月1日から11月30日まで、B12月1日から3月31日までの3回に分けて行うことができます。それぞれの納付期限は原則として、@7月10日、A10月31日、B1月31日となっています。なお分割して出た1円未満の端数は、最初の期に合算し納付します。
□ 延納の申請
「労働保険概算・増加概算・確定保険料申告書(様式第6号)」の「延納の申請」欄に納付回数を記入し、「期別納付額」欄に期ごとの保険料額を記入することにより行います。
(参考)厚労省のサイト
メリット制とは何か
労災保険料率は、事業の種類により定められています。その保険料率は、労災事故の可能性の高い事業は高く、そうでない事業は低く設定されていますが、「メリット制」という制度は、同じ事業の種類でも、実際の災害の発生が高い事業と低い事業で不公平にならないように考え出された制度です。
メリット制の適用は、連続する3年度の最後の年度の翌々年度です。例えば、令和元年度から令和3年度までの3年間に、会社の通勤災害を除く労災事故発生率が高かったとします。このような場合に、収支率に基づき、令和5年度の労災保険料の額が上がるという仕組みです。
メリット制は全ての企業に適用されるわけではなく、以下の適用要件があります。
□ メリット制の適用要件
連続する3年度中の各年度において、次の(1)(2)(3)のいずれかを満たす事業であって、その3年度中の最後の年度に属する3月31日(基準日)現在で、労災保険に係る保険関係が成立した後3年以上経過している事業場
(1) 100人以上の労働者を使用する事業場
(2) 20人以上100 人未満の労働者を使用する事業場であって、その労働者数に事業の種類ごとに定められた労災保険率から非業務災害率を減じた率を乗じて得た数が0.4
以上であるもの
【労働者数×(労災保険率−非業務災害率)≧0.4】
(3) 一括有期事業(建設の事業及び立木の伐採の事業)で確定保険料の額が100万円以上であるもの
(参考)厚労省のリーフレット
出向労働者の労災保険料はどうする
●(参考通達)S35.11.2基発第932号「出向労働者に対する労働者災害補償保険法の適用について」
【解説】通達によれば、一義的には、出向元事業主と出向先事業主の出向契約、出向先における出向労働者の労働実態等に基づき判断するとしていますが、出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事している場合には、出向契約等により出向元事業主から賃金を受けている場合であつても、出向先事業主の支払う賃金としての賃金総額に含め、出向先事業に関する労災保険法第25条に規定する賃金総額に含めたうえ、保険料を算定し、納付するとしています。
労災保険の給付の種類
労災保険による給付の種類は次の通りです。なお、業務上災害の場合は、療養補償給付のように「補償」の文字が入りますが、通勤災害の場合は、療養給付のように「補償」の文字が入りません。
□ 療養(補償)給付
業務上または通勤による傷病のため療養を必要とする場合に給付されます。通勤災害の場合は200円の一部負担金が必要な以外は、自己負担はありません。
(参考)療養(補償)給付の請求手続
□ 休業(補償)給付
業務上または通勤による傷病の療養のために休業した場合に、賃金を支給されない日の4日目から「給付基礎日額の6割の休業(補償)給付+休業給付日額の2割の休業特別支給金」が支給されます。
(参考)休業(補償)給付、傷病(補償)年金の請求手続
□ 傷病(補償)年金
業務災害または通勤災害による傷病の療養開始後、1年6か月経過後において次の各号のいずれにも該当することとなったときに、給付基礎日額の313日〜245日分の年金が支給されます。併せて障害の程度により、傷病特別支給金および傷病特別年金が支給されます。
(1) 傷病が治っていないこと
(2) 傷病による障害の程度が傷病等級の1級から3級までに該当すること
(参考)休業(補償)給付、傷病(補償)年金の請求手続
□ 傷害(補償)給付
傷病が治癒したときに、身体に一定の障害が残った場合で、傷害等級の1級から7級までは給付基礎日額の313日〜131日分の年金が、8級から14級の場合は給付基礎日額の503日〜56日分の一時金が支給されます。併せて障害の程度により、傷病特別支給金および傷病特別年金が支給されます。
(参考)傷害(補償)給付の請求手続
□ 遺族(補償)給付
労働者が、業務上または通勤により死亡した場合に支給されるもので、遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金があります。死亡した労働者により生計を維持されていた一定範囲の遺族がいる場合は年金が支給され、いない場合はそれ以外の遺族に対して一時金が支給されます。更に、年金の場合は、障害の程度により遺族特別支給金と遺族特別年金が、一時金の場合は、遺族特別支給金と遺族特別一時金が支給されます。
(参考)遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)の請求手続
□ 葬祭料(葬祭給付)
葬祭を行ったものに対し、315,000円+給付基礎日額の30日分、もしくは給付基礎日額の60日分のいずれか高い金額が支給されます。
(参考)遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)の請求手続
□ 介護(補償)給付
傷病(補償)年金または傷害(補償)年金を受給しており、現に介護を受けている場合に介護の費用として支出した額について、月額104,290円を上限として支給されます。
(参考)介護(補償)給付の請求手続
休業(補償)給付とは何か
労働者が業務上や通勤途上の傷病により労働できない場合は、労災保険から「休業(補償)給付」が支給されます。
□ 休業(補償)給付の支給要件
「業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため」「労働することができず」「賃金を支給されない」という3つの要件を全て満たす必要があります。
□ 支給額
「(休業(補償)給付(給付基礎日額の60%)+休業特別支給金(給付基礎日額の20%))×休業日数」が、休業した日の4日目から支給されます。最初の3日間は「待期期間」といって労災保険からは補償されず、事業主が休業補償しなければなりません。
【注】給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
□ 待機期間
(1) 待期期間の3日間は継続しても通算してもかまいません。
(2) 待期期間の初日とは、@仕事の途中にケガをして仕事を中止しすぐに診療機関で受診した場合はその日が、A仕事の途中でケガをしたがそのまま仕事を続け終業後に診療した場合は翌日が、待期期間の初日になります。
(3) 待期期間中については、事業主が休業補償(平均賃金の60%以上)を行う必要があります。
(4) 通勤災害の待期期間については、事業主の休業補償義務はありません。
(5) その他、参考通達
(S28.5.7基収第1825号)
三交替制の番方で、両日にわたり引き続き労働に従事する者の休業期間の計算は暦日で行なう。
(S40.7.31基発901号)
休業最初の3日間について使用者が平均賃金の60%以上の金額を支払った場合には、特別の事情がない限り休業補償が行なわれたものとして取り扱うこと。
■ 待期期間中に公休日が介在する場合の取扱い
(1) 待期期間中に休日等が介在する場合、当該日も待期期間としてカウントします。
(2) 完全月給制では、労働の有無に関わらず公休日を含め全ての日が賃金支給対象日ですので、待期期間中の更なる休業補償は必要ありません。
(3) 日給制や時給制では、公休日を含め労働しない日は賃金が支給されませんので、待期期間中の休業補償が必要となります。
(4) 日給月給制の場合、公休日については賃金が支給されませんので、公休日の休業補償が必要となります。
(5) 休業補償については、本人が請求すれば年次有給休暇で対応することも可能です。
□ 支給期間
休業(補償)給付は、療養の必要がある限り支給期間に限度はありません。退職後であっても支給されます。ただし、療養開始後1年6か月経過後に傷病が治っておらず、かつ傷害等級に該当する場合は休業(補償)給付は打切られ、傷病(補償)年金に切替えられます。なお、傷病等級に該当しない場合は引続き休業(補償)給付が支給されます。
□ 請求期間及び時効
請求の際に、全休業期間について一括請求するか数回に分けて請求するかは自由です。休業が長期間となる場合は、1か月や2か月分毎に分けて請求する例が多いようです。なお、休業(補償)給付の請求権は、労務不能のため賃金を受けない日ごとに、その翌日から2年を経過すると時効により消滅します。
□ 請求手続
厚労省のサイト
(参考Q&A)傷病手当金と休業(補償)給付は併給できるか
休業(補償)給付の対象者が年休を請求してきた場合はどうする
労働者が業務上や通勤途上の傷病により労働できない場合は、労災保険から「休業(補償)給付」が支給されますが、年次有給休暇は賃金の100%支給であり、年休が余っているから等の理由から、労働者が当該期間について年休を請求する場合があります。
本人が請求したのであれば年休で対応することは可能ですが、当然のことながら当該期間については「休業(補償)給付」は支給されません。また、労働者が最初の数日は年休で、残りは「休業(補償)給付」でというような請求をすることもあります。この場合、様式8号または様式16号の6の「災害の原因及び発生状況」等の余白に「本人の申出により〇月○日から○月○日まで年休処理」の例により追記しておけば、労基署も分かりやすいと思います。
第三者行為災害とは何か
第三者行為災害とは、労災保険給付の原因である災害が交通事故などの第三者の行為によって生じたもので、労災保険の受給権者である被災労働者または遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有しているものをいいます。
第三者行為災害に該当する場合には、被災者等は第三者に対し損害賠償請求権を取得すると同時に、労災保険に対しても給付請求権を取得することとなります。この場合、同一の事由について両者から二重てん補することはできませんので、労災保険法12条の4において、第三者行為災害に関する労災保険給付と民事損害賠償との支給調整を次のように定めています。
(1) 被災者等が第三者から先に損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で労災保険給付をしないことができる(控除という。)。
(2) 先に政府が労災保険給付をしたときは、政府は、被災者等が第三者に対して有する損害賠償請求権を労災保険給付の価額の限度で取得する(求償という)。
(参考)労災保険第三者行為災害のしおり
第三者行為災害による労災給付と示談の関係
第三者行為災害による労災保険の保険給付と示談との関係は、以下になります。
(1) 保険給付を受ける前に示談を行なった場合
労災保険の保険給付額から示談により受領した損害賠償額を差し引いたものが支給されます。
(2) 保険給付完了後に示談を行った場合
労災保険の保険給付の完了後に示談を行った場合は、政府がその金額につき当該第三者に対して求償しますので、支給された保険給付には影響しません。
(3) 保険給付の継続中に示談を行った場合
労災保険の保険給付のうち、療養(補償)給付、休業(補償)給付など継続的に支給されるものを受給中に示談を行った場合は、示談成立日までに支給された給付については上記(2)により取扱い、示談成立日以降に支給される給付については、上記(1)のように差額支給となります。
労災保険の受給権者である被災者等と第三者との間で、被災者が受け取る全ての損害賠償についての示談(全部示談)が成立し、受給権者が示談額以外の損害賠償の請求権を放棄した場合、政府は、原則として示談成立以後の労災保険給付を行いませんので、全部示談は慎重に行った方がよいと言われています。
労災保険と自賠責保険の関係はどうか
第三者行為災害とは、労災保険給付の原因である災害が交通事故などの第三者の行為によって生じたもので、労災保険の受給権者である被災労働者または遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有しているものをいいます。
この場合、加害者が任意保険に加入していれば、労災保険で不足する損害額が生じた場合は任意保険で補填されますので特に問題は生じませんが、問題は加害者が任意保険に加入していない場合です。
自動車事故の場合、労災保険給付と自賠責保険による保険金支払いのどちらか一方を先に受けるかについては、被災者等が自由に選べることになっています。
この場合、自賠責保険からの保険金を先に受けた場合(自賠先行)には、自賠責保険等から支払われた保険金のうち、同一の事由によるものについては労災保険給付から控除されます。また、労災保険給付を先に受けた場合(労災先行)には、同一の事由について自賠責保険等からの支払いを受けることはできません。
加害者が任意保険に加入していない場合は、労災先行が有利と言われていますが、保険会社等に相談し手続きされることをお勧めします。
脳・心臓疾患の労災認定基準の改正
○ 2021年9月14日改正
□ 改正ポイント
(1) 長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
(2) 長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し
(3) 短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
(4) 対象疾病に「重篤な心不全」を追加
(詳細)厚労省のサイト
精神障害の労災認定基準はどうなっている
過労死などの仕事によるストレスが関係した精神障害による労働基準監督署の労災認定は「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき労災認定が行われます。
□ 心理的負荷による精神障害の認定基準
(詳細)R5.9.1基発0901第2号
セクハラと労災認定の関係はどうなっている
セクハラによる労働基準監督署の労災認定も「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき労災認定が行われます。
□ セクシュアルハラスメントが原因で精神障害を発病した場合の心理的負荷の評価
発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事について、心理的負荷の程度を「強」「中」「弱」の3段階で総合評価し、心理的負荷が「強」と評価される場合に認定要件を満たすとします。
■ 心理的負荷の総合評価が「強」となる場合とは
1 認定基準に示す「特別な出来事」がある場合
強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた。
2 認定基準に示す「特別な出来事」がない場合
「心理的負荷の総合評価の視点」を考慮して心理的負荷の総合評価を行います。
【具体例】
(1) 胸や腰などへの身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、
@ 継続して行われた場合
A 行為は継続していないが、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった、または会社へ相談などをした後に職場の人間関係が悪化した場合
(2) 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、
@ 発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた場合
A 性的な発言が継続してなされ、かつ会社がセクシュアルハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合
(参考)厚労省のサイト
腰痛は労災になるか
当該腰痛が業務に起因するか否かが重要となりますが、「業務上腰痛の認定基準」によれば、業務上腰痛を次の2種類に区分し、医師により療養の必要があると診断されたものに限るとしています。
1 災害性の原因による腰痛
(1) 腰の負傷またはその原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
(2) 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
2 災害性の原因によらない腰痛
突発的な出来事が原因でなく、重量物を取扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業時間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの
(詳細)腰痛の労災認定
【解説】当該腰痛が労災になるか否かについては、医師の診断内容や労働基準監督署による本人および上司・同僚等への聴取などで判断されることになると思われますが、事前に所轄の労働基準監督署労災課に確認してみることも一考と思われます。なお、厚生労働省では「職場における腰痛予防対策指針」を策定し、企業に腰痛予防対策を呼びかけています。
休憩時間中の事故は労災か
休憩時間は自由利用が認められていることから、休憩時間中に外出しレストランなどで食事をすることがありますが、これらは私的行為とされますので、その間に起きた事故は業務上災害とされません。
一方、会社施設内において弁当を食べる際に給湯器で火傷をしたような場合は、事業主の支配下においてケガをしたと判断されますので、業務上災害となります。
また、休憩時間中以外にも、更衣室で着替え中など業務の前後における行為中や、作業中にトイレのため席を離れた際の事故なども、業務上災害とされます。
出張中に起きた事故はどうなる
出張中の災害については、事業主の支配下にあるとして業務遂行性が認められ、かつ、積極的な私的行為、恣意行為にわたるものがないかぎり業務起因性も広く認められるとしており、出張中の食事や移動中の列車内での事故、ホテルなどでの宿泊中の事故でも、業務起因性が認められて業務上の災害になるとしています。
ただし、労働災害になるか否かの判断は労働基準監督署が行いますので、個々の事案につては所轄の労働基準監督署でご確認ください。
□ 業務上の災害ではないとされた例
(1) 出張中、旅館に食事の準備がなかったために外出し飲酒した後の死亡事故
同僚とともに出張し、宿泊先の旅館に到着した。しかし、旅館には食事の用意がなかったため、同僚とともに外出して近くの食堂で飲酒し、その後、同僚と別れた後行方不明となり、20日ほど経過した後に、海上で水死体となって発見された。
旅館を出て近くの食堂に行き飲酒したことを 旅館に食事の支度がないための行為(業務に付随する行為)として有利に解したとしても、それより後の行動は、同僚も得意先も誰も同道しておらず、自由時間中の私的行為と解される。よって、業務上の死亡ではない。
(2) 出張先において会社の指定する宿に宿泊せず、同伴ホテルに宿泊し、ホテル火災によって死亡した場合
出張命令を受け、会社の指定する旅館に宿泊していたが、被災当日の勤務終了後、同僚とともに飲食した。その後、女性を同伴してホテルに投宿し、その夜に発生した同ホテルの火災により焼死した。
会社から指定された旅館がありそこに泊まることになっていたにもかかわらず、街で知り合った女性と、別の場所に宿泊した際に被災したものであり、出張から逸脱した恣意的行為であって、業務上とは認められない。
出向労働者に対する労災保険の適用はどうなる
出向労働者に対する労災保険の適用は、以下の通達が参考になります。
● 出向労働者に対する労働者災害補償保険法の適用について(S35.11.2基発第932号)
単身赴任先の住居間移動中の事故も通勤災害か
以下の2つのケースも、通勤災害とされます。
■ 単身赴任者の住居間移動
単身赴任者(転任に伴い、転任直前の住居から転任直後の就業の場所に通勤することが困難となったため住居を移転し、やむを得ない事情により、同居していた配偶者等と別居している労働者)が、赴任先住居と帰省先住居との間を移動している途中に災害に遭った場合は通勤災害となります(一定の要件あり)。
■ 複数就業者の事業場間移動
2か所の事業場で働く労働者が、1つめの就業の場所で勤務を終え、2つめの就業の場所へ向かう途中に災害に遭った場合は通勤災害となります(3か所以上の事業場で働く場合についても同様。一定の要件あり)。
(参考)厚労省のHP
会社の運動会に出場中のケガは労災か
会社の運動会等に出場中のケガに対して労災保険の業務上災害と認定されるには、その運動会等の出場が業務と見なされる必要があります。競技会等の出場が業務と認められる要件は以下の通りです。
(1) 会社を代表して出場する対外的運動競技会
その運動競技会が定例的に開催され、労働者を出場させることが会社の宣伝などの営業施策に効果があると一般的に認められる場合で、出張命令が出され旅費・日当等が支払われている、あるいは出勤として取扱われているなどの事業主の積極的特命がある場合。
(2) 各支店、営業所相互など同一企業間の運動競技会
その運動競技会が定例的に開催され、労働者を出場させることが労務管理に効果があると一般的に認められる場合で、会社の業務命令として支店や営業所の長に示達され、支店長や営業所長の積極的特命がある場合。
(3) 会社の運動競技会
その運動競技会が定例的に開催され、その運動競技会に労働者を出場させることが会社運営に社会通念上必要と認められる場合で、その会社や事業所内の労働者全員を参加させるものであり、当日は出勤と扱われ、不参加者は欠勤扱いとする場合。
(4) 出場のための準備練習
その準備練習が事業主の積極的特命の下で就業時間中に行われる場合。また、時間外労働として所定の取扱いを受けての準備練習も上記に準じて取扱われることもあります。
企業スポーツ選手の競技中のケガも労災認定される
企業スポーツ選手については、通常、競技大会に出場して競技を行うことが労働契約の内容になっています。このような企業選手が競技大会に出場することは、業務命令に基づいての出場とされ、競技中のケガについては原則として労災事故として扱われます。
天災事変により被った災害は労働災害になるか
天災事変は自然災害ですので、自然災害による災害は業務起因性が認められず、労働災害ではないとするのが一般的ですが、行政の見解では、被災労働者が危険環境下にあることにより被災したものと認められる場合には業務災害とするとしています。
東北地方太平洋沖地震の際にも、通達により、労災給付の事務処理方について改めて同様の考え方を示しています。なお、兵庫県南部地震の際に「地震による災害の業務災害又は通勤災害の考え方」についての災害事例も示していますので、以下をご確認ください。
● 東北地方太平洋沖地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務処理について(H23.3.11基労補発0311第9号)
・兵庫県南部地震に伴う労災保険給付の請求に係る事務取扱いの留意点について(H7.1.27業務連絡第3号)
・兵庫県南部地震における業務上外等の考え方について(H7.1.30業務連絡第4号)
・地震による災害の業務災害又は通勤災害の考え方(H7.1.30業務連絡第4号別添)
● 業務上外等の基本的な考え方について(H7.1.30業務連絡第4号抜粋)
天災地変による災害に係る業務上外の考え方については、従来より、被災労働者が、作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより被災したものと認められる場合には、業務上の災害として取り扱っているところであり、昭和49年10月25日付け基収第2950号「伊豆半島沖地震に際して発生した災害の業務上外について」においても、この考え方に基づいて、個々の事例について業務上外の考え方を示したものであること。
したがって、今回の地震による災害についても、従来からの基本的な考え方に基づいて業務上外の判断を行うものであること。
なお、通勤途上の災害についても、業務災害と同様、通勤に通常伴う危険が現実化したものと認められれば、通勤災害として取り扱うものであること。
また、個々の労災保険給付請求事案についての業務上外等の判断に当たっては、天災地変による災害については業務起因性等がないとの予断をもって処理することのないよう特に留意すること。
● 伊豆半島沖地震に際して発生した災害の業務上外について(S49.10.25基収第2950号)
労災保険における業務災害とは、労働者が事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められる場合をいい、いわゆる天災地変による災害の場合にはたとえ業務遂行中に発生したものであっても、一般的には業務起因性は認められないが、当該被災労働者の業務の性質や内容、作業環境あるいは事業場設備の状況からみて、かかる天災地変に際して災害を被りやすい事情にある場合には、天災地変による災害の危険は同時に業務に伴う危険としての性質を帯びているといえるため、これら業務に伴う危険が天災地変を契機に現実化したものと認められる場合に限り、業務起因性を認めることができる。
労災事故があったときの会社の手続
従業員が労働災害や通勤災害にあったときの会社の対応は以下です。
1 労災病院や労災指定病院(ほとんどの病院や医院は労災指定医療機関となっていますが、有無を確認します。)に行かせ、労災事故による怪我や病気である旨を伝えます。
2 治療後、速やかに「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)」「通勤災害の場合「療養給付たる療養の給付請求書(様式16号の3)」を労災指定病院や労災指定薬局を経由し、所轄の労働基準監督署に提出します。
(参考)新潟県の労災指定医療機関
3 医療機関から預かり金を徴収されていた場合は、領収書を持参し預かり金を返還してもらいます。
4 労働者私傷病報告を所轄の労働基準監督署へ提出します。
休業補償給付における休業日のカウント方法
(1) 仕事の途中にケガをして仕事を中止しすぐに診療機関で受診した場合はその日からカウント
(2) 仕事の途中でケガをしたが、そのまま仕事を続け終業後に診療した場合は翌日からカウント
(参考Q&A)労働者私傷病報告における休業日のカウント方法
仕事中のケガで健康保険を使うとどうなる
仕事中や通勤途中の事故による傷病の場合、労災病院や労災指定病院などで、仕事中や通勤途中の傷病である旨を申告し治療を受けます。これを労災保険では「療養(補償)給付」といいます。労災保険は、通勤災害の場合は200円の一部負担金が必要である以外は一部負担金はありません。一方、私傷病による場合は健康保険を使い治療を受けますが、3割の一部負担金が必要です。
業務上や通勤途中の労災事故であっても深く考えずに、健康保険証で治療を受けるケースがあります。その場で医療機関が気づいて指摘してくれればよいのですが、そのままですと、医療機関はその費用を健康保険の保険者あてに請求します。
請求を受けた健康保険の保険者が労災事故であることを発見すると、保険者が支払った医療費(7割の額)を本人に返還請求します。請求を受けた本人は健康保険の保険者に請求額を返還します。一方で「療養補償給付たる療養の費用請求書」に事業主の証明を貰い、健康保険の保険者へ支払った領収書と病院の診療明細書等を添付して、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に請求します。後日、労災保険の保険者から本人が支払った額の医療費(全額)が返還されます。
このように後処理が厄介ですので、仕事中や通勤途中の事故による場合は、医療機関にその旨をキチンと申告のうえ治療を受けるべきでしょう。なお、早めに間違いに気がついた場合は、すぐに医療機関に労災扱いに切り替えてもらうよう連絡し、間に合うようであれば、健康保険で治療を受けた際の領収書を持参し、医療機関から費用を返還してもらいます。
労災かどうか分からないときはどうする
うつ病やセクハラを起因とする精神疾患などの場合、労災認定されるかどうかは不明で、かつ認定の可否に時間がかかります。
このような場合は、取りあえず健康保険を使って療養の給付および傷病手当金の申請を行い、併せて労災申請を行って、後日労災認定された場合に健康保険の保険者に費用を返還するという流れが一般的です。
近くに労災指定医療機関がないときはどうする
労災保険では、その地域内に労災病院や労災指定医療機関がない場合、特殊な医療技術や医療施設を必要とする傷病であるが最寄の指定医療機関等にこれらの設備がない場合、緊急のため指定医療機関等を探す余裕がなかった場合、重傷者を取合えず近くの医院に運んだ場合などは、労災病院や労災指定医療機関以外の医療機関での治療も可能としています。
この場合、いったん治療費の全額を自費で支払い、後日その還付を請求することになります。請求は「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式7号)」、通勤災害は「(様式16号の5)」で行います。
労災保険から通院費が支給されることがある
一定の条件のもと、労災保険から通院費が支給されることがあります。申請は被災した労働者が行います。なお、申請様式は「様式7号(1)」を使用しますが、領収書等の添付が必要です。
通院費の詳細は以下の通達をご参照ください。
● H20.10.30基発第1030001号、「移送の取扱いについて」の一部改正について
● H20.10.30基労補発第1030001号、移送のうち通院を取り扱うに当たって留意すべき事項について
労災保険における「治ゆ」とは何か
労災保険における「治ゆ」とは、傷病の状態が安定し、これ以上医療効果が期待できなくなった状態をいいます。したがって、労災保険における「治ゆ」とは、必ずしも健康時の状態に完全に回復した状態(完治)を指しません。
(参考)厚労省のリーフレット
労働災害により、療養(補償)給付や休業(補償)給付を受給していたとしても、労働基準監督署が「治ゆ」の判断を下すと、以降は同給付の支給はなくなります。ただし、障害が残って障害等級に該当する状態であれば、障害(補償)給付が支給されます。
複数の事業所で働いている場合の給付基礎日額の算定はどうする
複数の会社に雇用されている労働者への労災保険給付について、2020年9月から、現行の「災害が発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等を決定」から「すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等を決定」に変更になりました。
(参考)厚労省のリーフレット
(詳細)複数事業労働者への 災保険給付 わかりやすい解説(2020年9月施行)
日雇労働者の平均賃金の算定はどうする
休業(補償)給付の算定の基礎となる給付基礎日額は、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいいますが、日日雇い入れられる者(日雇労働者)の平均賃金の算定は、以下の通達によるとされます。
●(参考通達)S38.10.11 労働省告示第52号
(1) 平均賃金を算定すべき理由の発生した日以前1箇月間に当該日雇労働者が当該事業場において使用された期間がある場合には、その期間中に当該日雇労働者に対して支払われた賃金の総額をその期間中に当該日雇労働者が当該事業場において労働した日数で除した金額の100分の73
(2) 前号の規定により算定し得ない場合には、平均賃金を算定すべき理由の発生した日以前1箇月間に当該事業場において同一業務に従事した日雇労働者に対して支払われた賃金の総額をその期間中にこれらの日雇労働者が当該事業場において労働した総日数で除した金額の100分の73
(3) 前2号の規定により算定し得ない場合又は当該日雇労働者若しくは当該使用者が前2号の規定により算定することを不適当と認め申請した場合には、都道府県労働基準局長が定める金額
(4) 一定の事業又は職業について、都道府県労働基準局長がそれらに従事する日雇労働者の平均賃金を定めた場合には、前3号の規定にかかわらず、その金額
この場合、休業(補償)給付請求書の「平均賃金算定内訳欄」には、上記通達に基づき「日日雇い入れられる者の平均賃金欄」に平均賃金額を記入します。
労災保険の給付金を担保や差押さえすることは原則できない
労災保険法12条の5では「1 保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。2 保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、年金たる保険給付を受ける権利を独立行政法人福祉医療機構法の定めるところにより独立行政法人福祉医療機構に担保に供する場合は、この限りでない。」としています。
したがって、労災保険の給付金を担保や差押さえすることは原則として禁止されます。
労災給付の決定に異議がある場合の不服申立とは何か
傷害(補償)給付等の支給決定通知書には、決定に不服がある場合は不服申立できる旨の記載が付記されていますが、労災保険の不服申立制度は特別の行政不服審査制度とされ、「審査請求」と「再審査請求」の2種類があります。
□ 不服申立の流れ
(1) 傷害等級の認定等の保険給付の決定は、所轄の労働基準監督署長が行います。この処分(決定)に不服がある場合は、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に、都道府県労働局の「労災保険審査官」に「審査請求」することができます。請求は、原則として文書(審査請求書)で行いますが、口頭でもできることになっています。また、不服申立の意思を電話などで伝え、その後文書で不服申立をすることも認められています。審査請求書の郵送も認められています。
(2) 審査機関が不服申立を受理すると、審査機関による審理が行われます。審理は通常は書面で行われますが、場合によっては申立人に出頭を求めたり報告を求めたりすることもあります。審理の決定がなされると申立人に結果(審査決定書)が郵送されます。
(3) 審査決定に不服がある場合は、審査決定書の交付を受けた日の翌日から2か月以内に、厚生労働省内にある「労働保険審査会」に対し「再審査請求」することができます。また、再審査請求を経ずに直接裁判所に取り消しの訴えを提起することも可能です。
【注】不服申立は裁定を受けた労働者の当然の権利とされていますから、申立の有無は自由ですし、申立には費用もかかりません。なお、雇用保険や健康保険・厚生年金保険も同様に不服申立ての制度があります。
労災保険の相談窓口
直接相談したい場合は、最寄りの労働基準監督署労災課が窓口となっていますが、厚生労働省で「労働保険相談ダイヤル」を開設し労災保険に関する電話相談にも応じています。
□ 労働保険相談ダイヤル/電話:0570-006031、受付時間:9:00〜17:00(土・日・祝日、年末年始は休み)
(参考)厚労省のリーフレット