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新潟市|佐藤正社会保険労務士事務所/TEL:025-277-0927

休業・休職Q&A

休業/休職Q&A


 休業とは休業手当休職制度休職の実務


 休業とは

 使用者の責めに帰すべき事由による休業とは何か

 自然災害時の労働基準法や労働契約法の取り扱いはどうなる

 休業手当

 休業手当とは何か

 休業手当は賃金か

 地震等の天災事変により休業した場合でも休業手当は必要か

 土曜日など勤務時間の短い日に休業させる場合でも1日分の休業手が必要

 休日と定められている日には休業手当を支給しなくてもよい

 労働時間の一部を休業した場合の休業手当はどうなる

 採用内定者を自宅待機させても休業手当は必要か

 休業が介在する場合の平均賃金の算出はどうする

 休職制度

 休職制度を設けるか否かは会社の任意

 私傷病休職制度とは何か

 休職の実務

 欠勤や休職を繰返すケースに対応するにはどうすればよいか

 医師の受診を拒否する場合はどうすればよいか

 職場復帰した従業員が元の職種に就けないときはどうする

 休職期間を満了しても復帰が見込めないときはどうする

 休職期間満了による退職と解雇の違い

 休職中の従業員は年休請求できない

 休職期間中も社会保険料は必要


 使用者の責めに帰すべき事由による休業とは何か

 労働基準法26条では「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなくてならない。」と規定しています。不可抗力による休業の場合は使用者に休業手当の支払義務はありませんが、不可抗力による休業と言えるためには、
① その原因が事業の外部より発生した事故であること
② 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という要素をいずれも満たす必要があります。
 ①に該当するものとしては、例えば、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応が取られる中で、営業を自粛するよう協力依頼や要請などを受けた場合のように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。  
 ②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、 
・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
といった事情から判断されます。

 なお、1類感染症~3類感染症については、感染症法等により就労制限を義務付けられていますので、休業手当は必要ないとされます。

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 自然災害時の労働基準法や労働契約法の取り扱いはどうなる

 自然災害による被災時に休業する場合などの法的な取扱いついて、厚労省で「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」を発出しており参考となります。

□ Q&Aで取り上げている項目
1 地震、洪水等の自然災害の影響に伴う休業に関する取扱いについて
2 派遣労働者の雇用管理について
3 地震、洪水等の自然災害の影響に伴う解雇について
4 労働基準法第24条(賃金の支払)について
5 労働基準法第25条(非常時払)について
6 労働基準法第32条の4(1年単位の変形労働時間制)について
7 労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)について
8 労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について
9 労働基準法第39条(年次有給休暇)について

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 休業手当とは何か

 労働基準法26条では「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなくてならない。」と規定しており、これを休業手当と呼びます。
 休業手当の未払いに対しては、労働基準法120条に罰金刑の規定があると共に、同法114条で、裁判所による付加金(未払いの休業手当の他に同一額の付加金)の支払いを命ずることができる旨も規定されています。
(参考Q&A)平均賃金の算出方法 

 なお、休業手当の支払いは休日を除いた就労予定日に対して支給します。
【計算例】休業期間7月1日から7月31日(1日の所定労働時間8時間/休日は9日/平均賃金6,521円の労働者の場合)
・(6,521円×60%)×22日=休業手当86,086円

●(参考通達)S24.3.22基収第4077号
 休業手当は「休業期間」に対して支払われるが、労働協約、就業規則又は労働契約により休日と定められているに日ついては、休業手当を支給する義務はない。

○ 労基法26条と民法536条2項の関係
(労働基準法26条)使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなくてならない。
(民法536条2項)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。
【解説】民法536条2項は任意規定のため、就業規則等で労基法26条による規定を定めていれば、100分の60以上の休業手当で足りるということになります。

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 休業手当は賃金か

 休業手当は賃金とされます。実務上は、社会保険料控除および所得税控除などは通常の賃金と同様に行い、所定の賃金支払日に支払いを行います。

●(参考通達)S25.4.6基収207号、S63.3.14基発150号
(問)使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合における休業手当については支払期日に関する定めはないが、休業手当を賃金と解し法第24条第2項に基づく所定賃金支払日に支払うべきものと解釈してよいか。
(答)貴見のとおり。

(関連Q&A)解雇予告手当は賃金ではない

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 地震等の天災事変により休業した場合でも休業手当は必要か

 平成30年10月4日付の厚労省Q&Aが参考となります。

平成30年北海道胆振東部地震による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A
1 事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合
 天災事変等の不可抗力の場合は使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けるこできない事故であることの2つ要件を満たすものでなければならないと解されています。
 今回の地震により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けるこできない事故に該当すると考えられますので、原則して使用者の責に帰すべき事由よる休業には該当しないと考えられます。

2 事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていないが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合
 原則として「使用者の責に帰すべき事由」よる休業に該当すると考えられます。ただし、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けるこできない事故であることの2つ要件を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰べき事由」よる休業には該当しないと考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合に勘案し、判断する必要があると考えられます。

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 土曜日など勤務時間の短い日に休業させる場合でも1日分の休業手当が必要

 例えば、土曜半ドンで勤務時間を午前中の4時間としている会社で、この日を会社都合で休業する場合、勤務時間の短い日の休業であっても、1日分の平均賃金の100分の60以上の休業手当の支払いが必要とされます。

●(参考通達)S27.8.7基収3445号
 労働基準法第26条は、使用者の責めに帰すべき休業の場合においては、その休業期間中平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないと規定しており、従って1週の中ある日の所定労働時間がたまたま短く定められていても、その日の休業手当は平均賃金の100分の60に相当する額を支払わなければならない。

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 休日と定められている日には休業手当を支給しなくてもよい

 労働日として指定された日について、事業主都合で休業した場合は休業手当を支払う義務がありますが、休日として定められた日については休業手当を支払う義務はありません。例えば、週3日勤務のパート労働者を1週間休業させる場合は、労働日とされる3日分の休業手当を支払うことで足ります。

●(参考通達)S24.3.22基収4077号
 法第26条の休業手当は、民法第536条第2項によって金銭請求し得る賃金の中、平均賃金の100分の60以上を保障せんとする趣旨のものであるから、労働協約、就業規則又は労働契約により休日と定められている日については、休業手当を支給する義務は生じない。

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 労働時間の一部を休業した場合の休業手当はどうなる

 1日の所定労働時間の一部を休業した場合でも、平均賃金の100分の60以上の休業手当が必要です。例えば、所定労働時間が1日8時間の事業所で事業主都合により4時間休業した場合は、4時間分の休業手当を支払えば足りるということではなく、1日分の平均賃金の100分の60以上の休業手当が必要となります。

●(参考通達)S27.8.7基収3445号
 1日の所定労働時間の一部のみ使用者の責めに帰すべき事由による休業がなされた場合にも、その日について平均賃金の100分の60に相当する金額を支払わなくてはならないから、現実に就労した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の100分の60に相当する金額に満たない場合には、その差額を支払わなくてはならない。

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 採用内定者を自宅待機させても休業手当は必要か

 例えば、新入社員の入社日が4月1日の場合で、この4月1日を就労の始期として一定の事由による解約権を留保した労働契約が成立したとみなされます。
 このように、採用内定者であっても労働関係は成立したとみなされますので、採用内定者に対して4月1日以降に自宅待機を命じた場合、使用者の責に帰すべき事由による場合は平均賃金の100分の60以上の休業手当の支給が、使用者の責に帰すべき事由によらない場合は通常の賃金支給が必要となります。
● 労働基準法26条
 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中、当該労働者にその平均賃金の100分の60以上の手当を支給しなければならない。

 この場合の算定の基礎となる賃金額については、以下により推算します。
(1) 採用内定の賃金額があらかじめ定められている場合は、その賃金額
(2) 自宅待機が採用内定者の一部に対して実施された場合は、自宅待機とならなかったものの賃金額
(3) 自宅待機が採用内定者全員に対して実施された場合は、労働契約の成立時に参考的に示された賃金の額

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 休業が介在する場合の平均賃金の算出はどうする

 労働基準法12条では、平均賃金の算定において「使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間については、その日数とその期間中の賃金は除いて計算する。」としています。更に通達では、短時間休業をした日があった場合の取扱いについて以下のように追記しています。
(1) 短時間休業をした日があった場合は、その日を休業日としてその日とその日の賃金を除いて計算する。
(2) 休業の開始日から終了日までの間の休日は、平均賃金の算定から除いて計算する。
(参考Q&A)平均賃金の算出方法

【解説】休業期間中の休日を除いて計算すると分母が減るため平均賃金額が上昇することになりますが、通達は、労働者に有利に取り計らったものではないかと思われます。なお、新型コロナウィルス感染症による休業では、一斉休業よりもシフトを組みながら短時間休業も介在させながら休業させるケースが多いと思われますが、所轄労基署に確認したところ、このような場合でも当該期間の休日は除いて計算するとの回答でした。

●(参考通達)S25.8.28基収2397号
(問)平均賃金を算定すべき事由が生じた場合その算定期間中に一部休業即ち数時間労働した後使用者の責に帰すべき休業をした日があった場合、平均賃金の算定に当ってはこの日を労働日として取扱うべきか否かによって算定方法が異るが次の何れによるべきものか。
1 労働日であると解する場合
 イ、その日を労働日として算入しその日に支払われた賃金を算入し休業手当に該当する部分を除く。
 ロ、その日を労働日として算入しその日に支払われる賃金及び休業手当の合算額を算入する。
2 その日に支払われた賃金が平均賃金の100分の60即ち休業手当額を基準としこれを超える場合は労働日とし、下る場合は休業日として計算する。
3 休業日であると解する場合
 その日の労働に対して支払われた賃金が平均賃金の100分の60を超えると否とに拘らず一部休業があった場合はその日を休業日とみなしその日及びその日の賃金を全額控除する。
(答)貴見三の通り。

●(参考通達)H22.7.15基発第0715号第6号 
(問)労働基準法第12条第3項第3号において、平均賃金の算定期間中に使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間がある場合は、その日数及びその期間中の賃金は、平均賃金算定の基礎となる期間及び賃金の総額から控除することとされているが、休業の開始日から終了日までの間に、労働協約、就業規則又は労働契約により休日と定められている日が含まれている場合、当該休日の日数は、休業した期間の日数に含むものと解してよろしいか。
(答)貴見のとおり。なお、休業の開始日及び終了日は、当該休業に係る労使協定や就業規則の規定に基づく使用者の指示等により、個別の状況に応じて客観的に判断されるものであること。

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 休職制度を設けるか否かは会社の任意

 休職制度についての法律上の規定はありませんので休職制度を設けるか否かは会社の自由です。ただし、制度を設ければ就業規則にその旨を定める必要があり、就業規則の定めとおりの運用を義務づけられます。

 休職事由については以下が考えられますが、定め方は会社の事情によります。大企業などは細かく規定しているところもありますが、中小企業では「私傷病休職+その他の休職」程度にしているところも多いようです。
(1) 私傷病休職
(2) 私事休職(業務外の交通事故など)
(3) 起訴休職
(4) 公務休職(地方議員に当選など)
(5) 組合専従休職
(6) 出向休職
(7) ボランティア休職
(8) 自己啓発休職
(9) 伝染病休職など

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 私傷病休職制度とは何か

 私傷病休職制度は、従業員がケガや病気などで労務提供が不可能な場合に直ちに解雇するのではなく、一定期間休職させることにより、再び就労するチャンスを与えることを目的とする制度です。
 一般に、従業員が私傷病等のために労務不能になった場合は、就業規則の解雇事由の一つである「精神又は身体の障害により勤務に耐えられないとき」などの規定を使い、労働契約を解除(解雇)することも可能と思われますが、解雇はリスクも伴います。
 休職制度では、就業規則に「休職期間満了時に復職できないときは、休職期間満了の日をもって退職とする」という規定を置くケースが一般的ですが、休職期間満了時に復職不可能なときは、解雇によらず自動退職となるというメリットもあるようです。
 
□ 制度のポイント
(1) 休職期間の長さの設定は自由
 休職期間の長さについて特に決まりはありません。例えば、入社5年目までは○か月、入社10年目までは○か月、入社10年以上は○か月など段階を設けているケースもあります。健康保険の傷病手当金の支給が最長で1年6か月であることから、最長は1年6か月程度としているところも多いようです。

(2) 休職期間中の賃金は無給でも有給でもよい
 休職期間中の賃金支給の有無は会社の自由ですが、賃金を支給すると傷病手当金が支給停止になります。ノーワークノーペイの原則からしても無給がよいのではと思います。無給とするなら就業規則に「休職期間中は賃金を支給しない」と記載します。併せて、休職期間中は勤続年数に通算するか否かも明示します。

(3) 制度を設けたら、会社は制度とおりに運用しなければならない
 制度を設けたら、労働基準法89条の規定により就業規則に定める必要があります。また就業規則へ定めれば、制度とおりの運用を義務付づられます。

(4) 休職前に欠勤を設ける理由
 一般に私傷病の場合、従業員はまず年次有給休暇を使い、次に欠勤し、最後に私傷病休職の順になると思いますが、仮に事前の欠勤制度がなければ、年次有給休暇のない従業員には直ちに休職制度を使わざるを得ず、また短期間の病欠であっても休職発令と休職解除を行うなどの事務処理上も煩雑ですから、休職前に欠勤を認めることが普通です。
 欠勤期間をどの位とするかは任意ですが、30日程度とする例が多いようです。なお、ノーワークノーペイの原則から、欠勤期間についても無給としておいた方がよいと思われます。

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 欠勤や休職を繰返すケースに対応するにはどうすればよいか

 昔、奈良市の職員が休職期間満了による解雇を免れるため、休職期間が切れそうになると数日出勤して休職期間の継続を中断し、次の休職期間満了まで新たな休職を繰返し不正に給与を得ていたという休職制度の不備を悪用した事例がマスコミで騒がれたことがありました。

 このような事象の防止策として、就業規則に「同一傷病又はこれに関連して発症した傷病により欠勤するときは、欠勤期間を通算する」と規定し、欠勤の悪用を防ぐのが一般的です。
 更に「休職期間の満了前に復職した従業員が、同一傷病又はこれに関連して発症した傷病により欠勤する場合は、第○条に定める休職期間から既に休職した期間を差引いた期間を限度に再度休職を命じる。この場合の欠勤日数は休職期間に通算し、残余の休職期間がゼロとなった場合はその日をもって退職とする」などを規定をしておくことで、リスクを軽減できます。

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 医師の受診を拒否する場合はどうすればよいか

 たとえ就業規則上の根拠があったとしても、一方的に受診を強要することはできないとする判例(最判S61.3.13 電電公社帯広局事件)があります。とは言うものの、会社は従業員に対する安全配慮義務もあります。誰が見ても健康状態に問題があることが明らかであれば、休職を命じて様子を見るということも必要かと思われます。

 このような場合に備え、就業規則に「従業員の勤務時の状態等から、業務の遂行により健康状態が悪化することが懸念される場合であって、当該従業員が医師の診断書の提出を拒んだとき又は健康状態の正確な把握に協力しない場合には、第○条の欠勤期間を経ることなく直ちに休職を命ずる」などの規定を置くことも一考です。
 更に、復職を希望する休職中の従業員に対しては「会社は健康状態の正確な把握のため、会社が指定する医師への受診を求めることがある。この場合、従業員が正当な理由なく受診を拒んだ場合は、会社は復職命令を行わない。」などを規定をしておくことで、リスクを軽減できます。

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 職場復帰した従業員が元の職種に就けないときはどうする

 判例では「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務についての労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められるほかの業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があるべきである(最判H10.4.9片山組事件)」が有名です。

【解説】当該判例は「職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合」において、元の職種に就けない状態であっても「労働者が配置される現実的可能性があると認められるほかの業務について労務の提供をすることができ」かつ「労務の提供を申し出ているならば」復職に応じるべきとしています。
 ただし「当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして」としているように、企業規模等によって対応が異なるであろうことも認めています。したがって、中小零細企業などにおいて、復職しても他に転換する職種がない場合などは、復職拒否もあり得ろうかと思われます。

 また「職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合」と限定していますので、専門職や技能職など職種を限定して採用している場合で、職場復帰後に当該職務に就けないような状態であれば復職拒否も可能と思われます。
 念のため、就業規則に「会社は復職を決定した場合には、原則として原職に復帰させる。但し、必要に応じて別の職務、職場に配置することがある。前項の但し書きについては、職種を限定して採用した者を除く」などを規定しておくことが必要と思われます。

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 休職期間を満了しても復帰が見込めないときはどうする

 最初から、休職期間を満了しても復帰不可能という医師の診断があれば、就業規則の解雇事由中の「精神又は身体の障害により勤務に耐えられないとき」などの規定を適用して解雇することも可能と思われます。判例でも可能と判断しているケースもあります。

 上記のように、休職規定による休職期間を満了しても最初から復帰が見込めない場合を想定し「従業員が、休職期間内に通常業務に復職が見込まれない就業困難ないし労務不能状態にあると会社が認める場合には、休職期間を置かないで解雇規定により解雇する。」などと規定しておくことも一考かと思われます。

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 休職期間満了による退職と解雇の違い

 就業規則に「休職期間満了時に復職できないときは、解雇する」という規定を見かけることがあります。
 この場合は、労働基準法20条に規定する解雇予告手当の問題が生じます。すなわち、30日以上前に解雇予告を行なうか、30日分の解雇予告手当が必要という条文です。
 このような場合に備え「休職期間満了時に復職できないときは、休職期間満了の日をもって退職とする」の例により、休職期間満了時に自動退職とする旨の規定にしておきます。

○ 離職証明書の離職理由欄
 後段の場合の雇用保険被保険者離職証明書の(7)離職理由欄には、6その他欄の具体的理由欄に「休職期間満了による退職」と記載します。

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 休職中の従業員は年休請求できない

 休職期間中は無給とする会社が多い、健康保険の傷病手当金は2/3支給であることなどから、100%支給である年次有給休暇を労働者が請求する場合がありますが、年次有給休暇の付与義務はないとされます。

●(参考通達)S24.12.28基発1456号、S31.2.13基収489号
 休職発令により従来配属されていた所属を離れ、以後は単に会社に籍があるにとどまり、会社に対して全く労働の義務が免除されることとなる場合において、休職発令された者が年次有給休暇を請求したときは、労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地がないことから、これらの休職者は、年次有給休暇請求権の行使ができないと解する。

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 休職期間中も社会保険料は必要

 社会保険(健康保険・厚生年金保険)料は、病気などで休職中であっても納付義務があります。
 この場合、休職期間中の賃金が無給の従業員については、当該従業員と話し合って決めることになります。トラブル防止上、あらかじめ就業規則などに、休職期間中の社会保険料の従業員負担分の支払方法・支払日等を規定しておけば万全です。
 なお、産前産後休業期間中および育児休業期間中の社会保険(健康保険・厚生年金保険)料については、会社負担分、従業員負担分ともに免除されます。また雇用保険料については、無給であれば会社負担分・従業員負担分共に支払う必要はありません。