私の提案

近藤貞二

REMの例会は、午前は主にパソコンをはじめとしたハイテク関連の情報交換を中心に、時には視覚障害者を取り巻く話題など、パソコンにとらわれず何でもありの雑談的な話し合いの時間です。

その中で先日、点字ブロックについての話題がありました。
ご存じの通り点字ブロックは、視覚障害者がまちを安全に、また安心して歩くための助けとなる目印です。
通常点字ブロックは歩道部分に敷設されるのが普通ですが、REMの例会で出された話題は、歩道のない道路への敷設はできないものだろうかというものでした。

この場合の「歩道」というのは、白線で車道と歩道とを区別されている形式ではなく、段差やガードレールなどで、完全に車道と分離された形式の歩道をさします。

私が知るかぎり、歩道のない道路に点字ブロックが敷設してあるのは東京の高田馬場にある日本点字図書館周辺で見かけたことがあるだけで、ほとんどが舗道上に敷設されているのが普通だと思います。

しかし、高田馬場のように、限られた視覚障害者関連の施設周辺ならともかく、また歩道であったとしても、日本中の道路や歩道に点字ブロックを敷設するなどというのは、現実的ではありませんしナンセンスな話です。
また、もし点字ブロックがそこら中の道路に敷き詰められていたとしたら、それはそれで混乱してかえって危険かもしれません。

しかし、私も全盲の視覚障害者の一人…。毎日の通勤は歩道のない道路を歩いており、その危険性も感じていますので、「歩道のない道路にも点字ブロックを…」という気持ちはよく理解できます。

そこで私の提案ですが、その前に点字ブロックについておさらいしておきましょう。

歩道や横断歩道口、駅のプラットホームや階段口、公共的な施設など、最近はいろいろな所で見かけるようになった「点字ブロック」ですが、そもそも点字ブロックって、いつごろ誰が考案したのでしょう?

私が調べたところでは、岡山市の三宅精一という、当時旅館を営んでいた男性によって考案された物だということが分かりました。
彼の友人の失明が、点字ブロック発明のきっかけとなり、昭和42年(1967年)3月、岡山県立岡山盲学校近くの横断歩道口に、三宅氏の寄贈した点字ブロック230枚が世界に先駆け初めて設置されたのが最初といわれています。
しかし、全国に普及するまでには時間がかかりました。それが一躍脚光を浴びたのは、点字ブロックがない駅のプラットホームから視覚障害者の転落死傷事故が相次いだ昭和48年(1973年)でした。
以来、駅のプラットホームを中心に、各地で点字ブロックが設置されるようになったようです。

つまり、決して望ましいことではありませんが、多くの視覚障害者の犠牲のもと、現在のような視覚障害者の歩行環境ができたと言えます。

この「点字ブロック」の正式名称は「視覚障害者誘導用ブロック」といいます。
誘導用ブロックではありますが、これには平行した線が並んでいて歩く方向を示す「線状ブロック(誘導ブロック)」と、格子状の点が並んでいる「点状ブロック(警告ブロック)」の2種類に大別できます。

線状ブロックは、目的位置への経路誘導をするためのものです。つまり、線状ブロックは、その上を歩けば安全であることを意味します。

これに対して点状ブロックは、通路の入り口などの位置を標示し、または線状ブロック経路の途中で、方向転換をする箇所、一時停止を必要とする箇所および、段差を伴う個所を予告するなどの目的で敷設されるものです。 つまり、注意をうながす目的で敷設されるのが点状ブロックです。

つまり点字ブロックの持つ意味は、「誘導」と「警告」の二つです。

また特殊なものとして、鉄道駅のプラットホームには、点状ブロックの内側に1本の線状ブロックを配置して、ホームの縁と内側が認知しやすくしたものもあります。

また、横断歩道の手前だけでなく、車道の横断歩道部分にも誘導を目的とした「エスコートゾーン」と呼ばれる点字ブロックの一種も増えてきています。

以下の写真は、左から「線状ブロック」、「点状ブロック」、プラットホームのブロック」です。

※なお、写真は私が写したものですので、きちんと撮れていないかもしれないことをお断りしておきます。

しかしよく見ると、点状ブロックにも線状ブロックにも、場所によって形状や大きさ、色や材質などに違いがあることに気づきます。
現在日本全国には、数十種類の多様なタイプの点字ブロックが混在し、使用されているといわれています。
これは、点字ブロックの製作メーカーが多数できた結果、それぞれのメーカー独自の基準で製作され、また敷設する自治体や鉄道事業者も横の連携がないまま、全国に多種多様な点字ブロックが普及してしまった結果なのです。

しかし、それでは視覚障害者には混乱し危険ですので、点字ブロックの統一化を望む声に応えるかたちで、2001年にはJIS(日本工業規格)化され、やっと国の基準が示されました。しかし、改修費用などがネックで今なお混在は解消されないままなのが現状です。

さて前置きが長くなりましたが、私は先でも書きましたように、毎日片道30分ほどの道のりを歩いて通勤しています。距離にして1600から1700メートルくらいでしょうか。
その間、信号を渡るために迂回している部分を除けば、車同士がすれ違えるほどの道路幅しかありませんので歩道はありません。もちろん点字ブロックなんてありません。
そんな狭い道路であっても、通勤時間帯には結構交通量は多くて危険はいっぱいです。

そのような道路でも、途中200メートルくらいでしょうか、走ってもいいと思えるような所があります。もちろん走ったりしませんが、それくらいストレスなく歩くことができるのです。
それはどのような所かといいますと、この道路、何年か前に200メートルほどの区間だけ、両側の側溝の取り替えが行われ、下の写真のようにその側溝のふたに特徴があるのです。

側溝のふたの写真

普通側溝のふたはコンクリートか鉄板でできている物が一般的だと思いますが、このふたもコンクリート製ですが、写真のようにふたの中央が金属の網目になっているのです。
網目の部分は少しへこんでいて、その幅は7・8センチほどでしょうか。 そのふたが連続していますので、側溝のふたの中央に連続した溝ができているような感じなのです。

このふたにできた溝は、足の裏や白杖の先で容易に確認できますし、白杖の先が網目にはまってしまうこともありません。
ですので、この200メートルほどの区間の側溝のふたが、私にとっては点字ブロック代わりになっているというわけなのです。

つまり私の提案は、点字ブロックを敷き詰めることは無理でも、側溝のふたを工夫すれば点字ブロック代わりになるのではないかということです。

しかし、これとて既存の物と取り替える訳にはなかなかいきません。また点字ブロックがあったとしても完全とはいえません。
やはり自分なりのランドマークとなるものを手がかりとして、イメージマップを構築していくことが、少しでも不安を解消してくれるのかもしれません。