1999年立山黒部アルペンルート旅行記・2日目

10月1日


 朝目覚めて,山の方を見ると昨日同様どんよりと曇っている.ホテルの食堂で朝食を済ます.テレビでは昨日の東海村の事故が思ったより深刻な臨界事故であることを報じていた.信濃大町駅前のバス乗り場から8:20発の扇沢行きバスに乗る.混むかと思っていたが,乗ったのは私のほか軽装のおばちゃん2人の計3人だけ.途中の大町温泉郷からはかなりまとまった乗客があり,バスも賑やかになってきた.終点の扇沢には9時前に到着した.扇沢には団体旅行の観光バスが何台も停まっており,駅は多数のおばちゃん連中でごったがえしていた.扇沢の天気はすぐ近くの山も見えない曇り空で,これでは山の上まで行っても全く眺望は期待できそうになかった.
黒部ダム駅に到着した関電トロリーバス
▲黒部ダム駅に到着した関電トロリーバス
 黒部ダム行きのトロリーバス改札口は大勢の人でごったがえしていた.駅の案内表示には『黒部ダム:晴れ,室堂:霧』と出ていたが,どうせ晴れているわけないだろうと思った.改札が始まり乗り場へ行くと,5〜6台くらいのトロリーバスが並んで停まっており,どれに乗ってもよいということだった.私は一番前の車両に乗った.トロリーバスの日本語は無軌条電車であり,バスではなく鉄道(電車)の仲間である.外国(特にヨーロッパ)では多数採用されている交通システムであるが,日本ではここの関西電力が運行する関電トンネルトロリーバスとこの先のアルペンルートで乗ることになる立山黒部貫光が運行する立山トンネルトロリーバスの2カ所のみである.いずれも山岳トンネルの排ガス対策であり,市街地を走るものではない.走り始めるとバスのような振動や騒音はなく電車のような音はするもののかなり静かな乗物であった.ここ関電トンネルトロリーバスは扇沢付近を除いてトンネル内で景色は何も見えない.トンネル掘削時に苦労した破砕帯を過ぎ,さらに長野・富山県境を越え富山県に入る.しばらくすると行き違いのできるトンネル幅の広い場所に出た.ここで逆向きのトロリーバスとすれ違いを行う.向こうは5台運行だった.5台運行の最後のバスの運転手からタブレットを受け取り,また発進する.扇沢から約15分でトンネル内の黒部ダム駅に到着した.
黒部湖と放水中の黒部ダム
▲黒部湖と放水中の黒部ダム
 220段あるという地中階段をゆっくりと登る.地上へ出ると,...青空が出ているではないか.黒部峡谷沿いの山がきれいに見えるではないか.やったあ.はやる気持ちを抑えて,ダム展望台へと行くと,パンフレットなどでお馴染みの黒部湖と放水中の黒部ダムの景色が見られた.しかし残念ながら黒部湖は濁っていてきちゃなかった.大観峰までははっきりと望めたが,その向こうの立山連峰は雲が多く雲の間から時折顔を見せるだけだった.黒部ダムを歩いて渡るとその先にトンネルがあり,そのトンネル内にケーブルの黒部湖駅がある.このケーブルから大観峰までのロープウェイそして室堂までのトロリーバスまでは,「立山黒部貫光」という会社が運行しており観光ではなく貫光という字を使うところがおもしろい.ここのケーブルは全国で唯一の全線が地下を走るものである.ケーブルの待ち時間,駅員さんがユーモアたっぷりにアルペンルートを紹介するので,おばちゃん連中の笑い声が絶えなかった.私も思わず「ここでしか買えない」という言葉にだまされて,千円する立山の本を買ってしまった.ケーブルはわずか5分で上の黒部平駅に到着,地上へ出ると大観峰が良く見える展望台へと出た.曇り気味で立山連峰はあまり見えなかったが,大観峰までの眼下に広がるタンボ平は紅葉には早いものの黄色がかってきていた.
大観峰から見た黒部湖とロープウェイ
▲大観峰から見た黒部湖とロープウェイ
 大観峰までのロープウェイは頻発していたが,これは団体ツアー客のためであって,一般客は20分間隔に運転される定期便にしか乗ることができない.ここのロープウェイは途中に支柱が一本もないワンスパン方式である.このロープウェイは,トンネル区間の多いアルペンルートの中では数少ない景色の楽しめる乗物である.眼下には紅葉が始まりかけたタンボ平が広がり美しい.大観峰からの眺めは後立山連峰が雲に隠れ気味であまり良く見えず残念だったが,先程見た黒部湖が眼下に見える.むしろ展望台すぐ横の草木が黄色く色づき始めていて美しい.ここ大観峰で昼食にしようと思ったが,適当なレストランがなかったので,売店で「おやき」だけを買って食べ,室堂へ移動することにした.大観峰から室堂までもトロリーバスである.こちらのトロリーバスは数年前に普通のバスから変更になった新しいものである.こちらは団体客とは別のバス(電車?)が一般客用に用意されていたのでそれほど混雑しなかった.こちらのトロリーバスは全区間トンネル区間で全く眺望は望めない.こちらでもすれ違い区間がありすれ違いが行われたが,タブレット交換は行われず,信号による確認だけだった.約10分で地下の室堂ターミナルに到着,ここは標高2450mで日本最高所の鉄道駅となっている.階段を上り,室堂平へ出る.曇っているものの,なんとか立山連峰が見えた.見えるうちに写真を撮っておく.もう一度,室堂ターミナルへ戻り昼食とする.ちょっと高かったが,適当なところがなかったので,ホテル立山のレストランを利用する.昼食を食べ終わり再び室堂平へ出ると,...ガス20m先も見えないくらいのひどいガスである.道もすぐ前しか見えず方向感覚をとりにくい.立山自然保護センターを簡単に見学した後,みくりが池温泉を目指す.昼食前の晴れている間にある程度方角を確認しといたことと山道と違いかなり広い道だったため,迷ったりしなかったが,先が見えないため山のガス道は恐ろしいと感じた.本来ならずっとみくりが池を見ながらの道であるがその池すら全く見えなかった.室堂平から20分くらいでみくりが池温泉に到着した.もともと今日はここに泊まろうと思っていたので,宿のおねえちゃんにいろいろ聞いてみて,今日はここに泊めてもらうことにした.こんな天気では納得しない.明朝晴れることを期待してである.1人旅ということで相部屋だった.同じ部屋には写真を撮りに来た人とか登山客がいた.朝から室堂にいる人によると,今日は昼間ちょっとガスがなくなっただけで,朝からずっとガスだったようだ.私が昼間立山連峰を見れたのは幸運だったのだろうか.
 ちょっと横になって寝たがまだまだ夕食まで暇なため,もう一度外へ出てうろうろすることにする.相変わらずガスである.室堂平へ向かう途中,なぜか人だかりができているところがあった.何だろうと覗いてみると,雷鳥が一羽いるではないか.お腹のところが白くなっているものの,動かなければ岩と区別がつきにくい.(→雷鳥探しクイズへはここをクリック!)室堂ターミナルへ行き,お土産ショップなどをのぞいてから,再び宿の方へ戻る.もうすでに雷鳥はいないのか人だかりはなくなっていた.ちょっとガスが晴れてきて,みくりが池がやっと見えた.宿に戻り,楽しみにしていた温泉に入る.みくりが池温泉は日本最高所の温泉らしい.ちょっと熱めだったが気持ちいい〜〜♪温泉らしい温泉に入ったのは久しぶりだった.長風呂の後しばらくして,夕食があった.山小屋にしては豪華で満足だった.特にすることもなく,またちょっと疲れがあったのでかなり早めに寝た.明日晴れますように,...おやすみなさい.

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