1998年三陸海岸旅行記・6日目

8月22日


 目覚めると外は快晴である.まずホテルのレストランで朝食を取る.安いホテルなのでそれほど大したものではないが,バイキング形式で1050円であった.今晩も同じホテルに泊まるので,余分な荷物はすべて部屋に置きっぱなしにして身軽になり出発する.
 乗車するのは花巻経由の釜石行き急行陸中1号である.発車までかなり時間があったためかまだ入線しておらず,乗るであろう人も全く見られなかった.並ばなくても余裕で座れそうである.暇なので特急はつかり号の485系3000番台の写真を撮ったりした.しばらくしてようやく陸中号のキハ110形3両編成が入線してきた.キハ110形はJR東日本の非電化ローカル列車のほとんどに使用されている列車であるが,この陸中号のキハ110形は回転式のリクライニングシートを備えており,特急並の座席で豪華である.そのキハ110形にわずかの乗客を乗せて,盛岡駅を出発した.次の花巻までは東北本線の架線下を疾走する.約30分で花巻に到着.ここで進行方向が変わるので座席の向きを逆転させる.
 花巻からは釜石線に入り,進路を東向きに変わる.約10分で東北新幹線との接続駅新花巻に到着し,まとまった乗客がありようやく車内が賑やかになる.賑やかになったのもつかの間,新花巻から約40分の遠野で大半の乗客が下車した.遠野は「遠野物語」で有名になり,訪れる観光客が多いという.列車はここで3分停車し,上り列車と交換する.駅舎もかなりしゃれたものになっている.遠野を出ると車内は再び閑散とし,途中「上有住」というなんでこんな駅に急行が停まるねんという駅に停車し,約50分で終点釜石に到着した.隣のホームからは上りの陸中号がちょうど発車するところであった.ここで宮古行きの普通列車に乗り換える.
浄土ヶ浜
▲浄土ヶ浜
 山田線釜石〜宮古間は5年前に乗車しており,海が見える区間もあるもののそれほど美しい車窓ではないので,それほど印象に残らない.途中「吉里吉里(きりきり)」というおもしろい駅名の駅があった.車内は地元の乗客と青春18切符を使った旅行者が混じっている.釜石から約1時間20分で宮古に到着した.5年前に東北旅行したときにも宮古に来て宿泊もしたのだが特にどこへも行かなかったので,今回は浄土ヶ浜を観光することにした.次に乗る予定の列車まで約2時間しかないので,それほどゆっくりはできない.浄土ヶ浜行きのバスは適当な時間になかったのでタクシーを利用して移動する.タクシーの運ちゃんによると,今年の夏はじめて晴れたという.ニュースで東北地方の悪天候は聞かされていたが,そこまでとは驚いたと共に私の運の良さを感じた.わずかな距離と思っていたが,最低運賃の区間を過ぎるとメーターの上がり方がやけに早い.タクシーは奥浄土ヶ浜まで乗り入れることができると言われたが,メーターの料金もかなり上がってきたのでバスターミナルで降ろしてもらった.結局1300円位かかった.さてバスターミナルから奇景のある奥浄土ヶ浜までは遊歩道が設けられている.2つの小さなトンネルを抜けるとガイドブックでお馴染みの浄土ヶ浜の奇岩が現れた.確かに美しい風景であるのだが,そこは海水浴場にもなっており,この夏一番の天気ということで大勢の海水浴客がおり,写真を撮るには邪魔な存在となってしまった.昼食は近くの食堂でとることにする.名物の「海鮮ラーメン」を注文した.値段もかなりのものだったがなかなかのものであり,カニ,エビ,ホタテなど海の幸がたっぷりのっていた.食後,パンフレットに載っていた写真に浄土ヶ浜を上から見たような構図のものがあったのでそこへ行きたくなり,それらしい方向へ歩き出した.しかしそれらしいところにはたどり着かない.途中ヘビと対面した.結局上の駐車場に到着した.その近くに展望台があったので行ってみるが,浄土ヶ浜はまったく見えなかった.しかし穏やかなリアス式海岸の風景には満足できた.汽車の時間が迫って来たので再び浄土ヶ浜へ戻る.今度は下り坂だから楽である.そして先ほどの遊歩道でバスターミナルへ向かう.途中ウミネコにパンを投げている人がおり,ウミネコは見事にキャッチして食べていた.バスターミナルで土産物を買い,今度も適当な時間にバスがないのでタクシーで移動しようとしたが,...なんとタクシーが一台も止まっていない.汽車の時間が迫ってきており,かなり焦った.タクシー会社に電話しようか,そこらの一般車に乗せてもらおうか,と悩んでいるとちょうどその時タクシーが一台到着し,事なきを得,汽車の発車15分くらい前には駅に到着した.
岩泉駅に停車中のディーゼルカー
▲岩泉駅に停車中のディーゼルカー
 宮古14寺46分発の岩泉行きに乗車する.キハ52形単行の非冷房車である.この汽車は途中の茂市から岩泉線に入る.岩泉線はJR屈指のローカル線で1日わずか3往復しか運転されておらず,代替道路未整備路線として廃止を免れてきたが,道路も整備されたので廃止は時間の問題と思われる.実は5年前に東北を旅行した時も岩泉線に乗って龍泉洞に行く予定があったが,大雨の影響で不通となっており三陸鉄道小本経由で行った経緯がある.この時から廃止になる前にぜひとも乗りたい路線と思っていたがやっと乗る機会ができた.岩手和井内まではどこにでもあるローカル線の雰囲気であったが,そこからがえらい山奥を走る.建物など何もなくひたすらトンネルと山間を走る.押角という駅に到着,周りには何もなくなぜこんなところに駅があるか疑問に思う.その次の駅からはまた普通のローカル線の姿に戻った.宮古から約1時間30分で終点岩泉に到着した.かつてはさらに小本まで延長される計画もあったので線路はさらに少し延びている.岩泉の駅舎はかなり立派なものである.観光案内所や売店もかつてあったようだが現在は閉鎖されていた.岩泉駅の発車時刻表は単純で,7:58発宮古行き,17:20発茂市行き,19:32発宮古行きの3本のみである.折り返しの茂市行きまで1時間あるので駅前をぶらぶらする.
 龍泉洞からのJRバスが駅前に到着し,駅が賑やかになってきた.旅行者,鉄道ファン,そして地元の客を乗せ茂市行きの列車は発車した.岩泉線の定期券を持った地元の学生も乗っていた.こんな路線にも定期券があるのかと驚いてしまった.地元の客は皆,一駅か二駅で降りてしまい,残ったのは旅行者のみである.先ほどと同じどえらい山奥を走って,汽車は岩泉線の起点茂市に到着した.茂市は山田線と岩泉線の分岐駅ということで駅の構内はかなり広いが,駅前は数軒の民家しかない.宮古方面,盛岡方面の列車がほぼ同時に到着し,岩泉線の乗客はそれぞれ乗り換える.私は盛岡行きの列車に乗り込む.茂市を発車して山田線を西へ向かうのだが,この路線は岩泉線に勝るほどのどえらい山奥を走っているようである.あたりが暗くて確認はできないのだが,明かりらしい明かりは全く見られず,ただ列車の走行音だけが響く.茂市を発車して約1時間で峠の区界駅に到着した.ここで列車交換のため約20分停まるという.駅前に出てみると幹線道路沿いにあるということでコンビニが一軒あった.ちょうどお腹も空いてきたことなので,お菓子と飲み物を買う.夕食用の弁当を購入することも考えたが盛岡まであと少しなので我慢することにする.区界駅を発車して数駅で大志田という駅に到着,この駅もまた付近に何も見あたらず,誰が利用するねんと思うような駅であった.駅の時刻表を除いてびっくりした.上りの盛岡行きは7:08発と今乗っている20:15発の2本のみ,さらに下りの宮古行きは19:37発のわずか1本のみと岩泉線より本数が少ないではないか.もともと本数の少ない山田線なのに快速列車が通過し,普通列車の中にも大志田通過のものがあるためである.
 終着駅盛岡が近づいてきたところでようやく周りに明かりが見え始めた.列車は定刻に盛岡に到着した.先程までの山田線がうそのような大都会である.駅の地下の食堂街がまだ営業中であったので,そこでハンバーグ定食を食べ,ホテルに戻る.明日の朝が早いこともあり,風呂に入り,荷物の支度をして,おやすみなさい...

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