1998年三陸海岸旅行記・7日目

8月23日


 盛岡駅前を7時10分に出発する久慈行きのバスに乗る予定なので,出発準備をすばやく済ませ,ホテルをチェックアウトする.まずは駅前のローソンで朝食を調達する.それから駅のコインロッカーに余分な荷物を預ける.今日は帰りにもう一度盛岡を通る予定であるが,その時の新幹線への乗り継ぎ時間がわずか14分しかないので,できるだけ新幹線乗り場に近いコインロッカーを選んだ.久慈行きバス乗り場に並ぶがそれほど混みそうではない.ほどなくしてバスが到着し乗り込む.展望の良く利く通称「バスちゃんシート」と呼ばれている最前列左側の座席を確保する.この久慈行き特急バス「白樺号」はJRバスが運行しているので,周遊きっぷをもっている私はバス急行料金のわずか100円だけを追加で払うだけでよい.これから約3時間にわたるバス旅となる.
 バスは定刻に盛岡駅前を出発した.盛岡市内はこまめに停車し乗客を拾っていくが車内は空いている.私は買い込んだパンを食べた.観光路線にもなっているので車内の案内放送で随時ガイドもしてくれる.ここは石川啄木の何とかだとか言われたがあまり興味がないので忘れてしまった.バスは北上し約1時間で沼宮内駅前に到着した.ここでトイレ休憩があった.沼宮内を出るとバスは進路を東よりに変える.沼宮内から約50分で葛巻に到着,2回目のトイレ休憩が行われる.この葛巻にはJRバスの駅がある.葛巻を出発すると白樺林の中を走り平庭高原に着く.ここでは休憩もなくすぐ出発する.平庭高原からは下り坂になり一路久慈を目指す.白樺林を抜けて,久慈渓流と呼ばれる川沿いの道を下っていく.久慈到着予定時刻に近づいてきてもなかなか久慈市街に入らないので焦ってきた.というのは久慈での列車への乗り継ぎ時間がわずか10分しかないためである.乗り遅れても後の予定を立てられるようにはしていたが,やっぱり予定していた列車に乗りたい.遅れはかなり取り戻し,結局5分遅れ位で久慈駅前に到着した.私は速攻でバス急行料金100円を支払い駅へ向かう.
 まず見つけたのがJR八戸線の久慈駅であったが,目指すは三陸鉄道北リアス線の久慈駅であったので探すが見つからない.仕方なくJRの駅係員に聞いてすぐ隣の建物であることがわかったが,JRは久慈より北へ,三陸鉄道は南へ向かうので,三陸鉄道の駅はJRのものより南にあると思いこんでいたのが間違いで,北側にあるとは予想しなかった.なんとか発車には間に合い事なきを得た.乗る列車は宮古行きでレトロ調車両で運転されている.車内の室内灯や座席がレトロ調のしゃれたものになっておりなかなか雰囲気がよい.海側の座席を確保し,列車は発車した.三陸鉄道は海岸近くを走る路線であるが,リアス式海岸特有の地形でトンネルが多く,あまり展望は良くない.本日の予定は北山崎の観光であるが田野畑12時発のバスに乗る予定なので,時間があるため田野畑を通り過ぎ,小本で折り返すことにする.小本は5年前に東北旅行した時に龍泉洞へ行くとき乗り換えたことがあり,2度目である.小本まで乗車したことで私は三陸鉄道全線を完乗したことになる.
 小本で引き返し,来た路線を北へ戻る.次の島越からは北山崎を海から観光する遊覧船が出ているが今日は時間の関係で陸上からの観光だけとする.島越から昨日岩泉で見かけたご夫婦が乗車してきた.今日も同じコースになるのかと思っていたら,次の田野畑で私は下車したがご夫婦は降りなかった.駅前には2台の田野畑村営バスが停まっていたが,前のバスには大きく「回送」と書いてあったので後ろのバスに乗車した.すると運転手に北山崎へは前のバスだと教えてくれたので移る.良く見ると回送と書かれた下に小さく「北山崎行き」と書いてあった.さらに驚くことに田野畑村営バスはナンバープレートが白地のいわゆる「白バス」であった.確か白バスでは営業目的の運行は駄目なはずなのに,何か特別な許可でももらっているのだろうか,それとも村営だからよいのか,それとも法律違反しているのか.理由はよくわからないが,白バスの乗客は私一人で出発した.案内放送はないものの車内にはちゃんと運賃表があり,一応普通の路線バスの雰囲気はある.村内の何カ所かの集落に寄るが全く乗り降りがなく,結局終点の北山崎展望台まで私一人であった.運賃箱らしいものがなかったので,運転手に直接運賃を支払った.
北山崎の断崖絶壁
▲北山崎の断崖絶壁
 バスの乗客は私一人であったが,自家用車で来たのかバスを降りるとそれなりの人がいた.天気は霧で展望があまり良さそうではないが,とりあえず展望のきくところまで行く.予想通り霧で何も見えなく,すぐそばの岩が時折ガスのすき間から見える程度であった.とりあえず先に昼食を取ることにし,近くの食堂に入る.海鮮ラーメンが名物のようだったが昨日食べたこともあったので,やや高かったが磯定食を注文した.しかしイカにすじがたくさんあるなどあまりおいしくなかった.食べ終えてもう一度展望の利くところに行ってみると,今度はかなり霧が晴れており,かなり遠くの方まで見ることができた.そこから遊歩道が続いており,約700段あるという階段で磯辺まで歩いて行くことができる.山登りと違い最初に下りなので帰りの方が時間がかかると予想されるので,帰りのバスの時間を計算に入れて歩かないといけない.階段を一段一段降りていくと,しだいに霧が晴れてきて,北山崎の見事な風景が見られた.降りはじめてから15分くらい経っただろうか,ようやく水際までたどり着くことができた.下から見る断崖絶壁も見事である.足が震えてきた.
 少し休憩して来た道を戻ることにする.かなり急な階段なのでかなりきつい.急ぐとばてるのでマイペースでゆっくり登った.途中で前日岩泉で見かけ今日も島越から三陸鉄道に乗ってきたご夫婦とまた出会った.やはり北山崎にも来ていたのだ.普代からタクシーで来たのだろうか.ご夫婦は昨日田老で一泊し,今日はこのあと山田線経由で新幹線で静岡の自宅に帰宅するという.かなり上まで戻ってきたところに分かれ道があったのでそちらへ行ってみると,北山崎の眺望が見事な見晴らし台があった.ここからはガイドブックやパンフレットでお馴染みの光景が見られ,私は夢中で写真を撮った.天気は曇っていたものの霧は完全に晴れ,かなり遠くまで見通すことができた.ちょうどそのとき北山崎の観光遊覧船が下を通っていった.満足いくまで展望を楽しんでから,もとのレストハウスに戻った.しかし階段の登りにはかなり疲れた.20階建てのビル以上の高さがあったのではないだろうか.土産物店で土産を買い,さらに名物の田野畑アイスクリームを購入した.バスの出発時間が迫ってきたので,バス停に戻る.静岡のご夫婦は田野畑駅行きのバスに乗ったようだが,私は先程と変え普代駅行きの普代村営バスに乗る.田野畑村営バスはご夫婦だけの2人,こちらの普代村営バスは私1人だけの客である.こちらの普代村営バスは田野畑村営バスよりは路線バスらしく,ちゃんと停留所の自動案内放送が行われており,両替機や運賃受領箱が備えつけられていた.約30分で普代駅に到着した.結局ずっと私一人っきりであった.
 ほどなくして久慈行きの三陸鉄道ディーゼルカーが到着した.車内ではなぜか地元のテレビ局の人がカメラを回して海側の景色を撮影しているようであったが,トンネルが多くあまり良いものはとれなかったようだ.普代から30分で久慈に到着した.行きしな迷った三陸鉄道久慈駅の改札を出る.次に乗るJR八戸線の列車まで1時間以上あるので駅前をぶらぶらするが,特に何もすることなく暇である.
 ようやく八戸線の改札が始まった.ここから明日の朝までは乗り継ぎ時間がわずかの乗り継ぎばかりである.八戸線は比較的海に近いところを走る路線であるが,また霧が深くなってきて少し先はまったく見えなくなってしまった.八戸線は古きローカル線の姿を残している路線である.腕木式信号,手動のポイント,タブレット交換など,現在ではこのようなシステムを使い続けている路線はほとんどない.交換可能駅では駅員が運転士からタブレットを受け取ってから新区間のタブレットを渡し,手動ポイントを切り替えると腕木式信号が「進行」を示すといった具合である.久慈から約1時間半で鮫に到着,ようやく市街地に入ってきたようだ.本八戸は八戸市の中心で東北本線の八戸は市中心部から離れている.鮫から30分で終点八戸に到着,すぐの接続の盛岡行き特急はつかり号に乗り換える.残念ながら3000番台車ではなく,国鉄時代の簡易リクライニングシートの車両であった.このはつかり号は函館始発なので座席の向きが逆向きのままのものが多数見受けられた.車内は空いており座席は簡単に確保できた.車内販売がまわってきたので駅弁を買おうとしたがちょうど前の人が購入して売り切れてしまったので諦めた.三戸,二戸,一戸と「戸」の字の付く駅ばかりに停車し,八戸から1時間強で盛岡に到着した.慌てて改札を出てロッカーの荷物を取り出し,新幹線改札口に急ぐ.周遊きっぷを見せて新幹線改札口を通り抜け,駅弁を購入しホームに上がる.ホームにはすでに200系新幹線が停車しており,自由席の乗車口へ急ぐ.真ん中よりの車両は混んでいたが端の車両に行くほど空いており,2人掛けの窓よりの座席を確保できた.外が騒がしいと思ったらなんと花火大会が開かれていた.ホームの一番先頭まで行くと立派な花火を観察することができた.
 発車時間になり車内にもどる.東北新幹線に乗るのは2回目であるが200系新幹線は初めてである.座席はやや窮屈に感じる.さきほど購入した駅弁でおそい夕食を食べる.その後は,外は真っ暗闇なので景色を楽しむこともできず何もすることがなく暇である.しかし新幹線は速いと改めて実感する.北上,仙台,福島と進む.郡山を過ぎたあたりだろうか,ようやく車掌が車内に回ってきたので(検札ではない)周遊きっぷを見せて,新花巻→東京の自由席特急券を購入する.宇都宮,大宮を過ぎ,あっというまに終点東京に到着した.
 急いで新幹線改札口を抜け,東海道線乗り場へ急ぐ.23時40分発小田原行き普通列車に乗る.ムーンライトながら号の指定席券が取れなかったので,臨時の品川始発大垣行きに乗るか,小田原から一部自由席になるながら号に乗るか迷っていた.とりあえず品川までゆき臨時の大垣行きが混雑しているかどうかで決めようと思っていたが,小田原行きの乗った位置が悪く車内から大垣行きの様子が確認できなかった.意を決して降り,臨時の大垣行きに乗ることに決めた.大垣行きのホームにいてみると車内は超満員,しまったと思ったがなんとか車内の通路の奥の方まで行き,通路で座り込めるスペースを見つけた.もう少し遅いと通路の奥の方にも入り込めず,入り口近くで立たなくてはならなかったが,通路でもなんとか座れたのはラッキーだった.品川を発車するとすぐに日付が変わった.

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