ゼニアオイと葵各種

ゼニアオイ               タチアオイ

ウスベニアオイ                ハイアオイ

 「鴨の子を 盥(タライ)に飼うや 銭葵」・・・・正岡子規

かっては、夏の花と言えばアオイ(葵)を思い浮かべるほどアオイは日本人に親しまれてきた花であるが、タチアオイ、ゼニアオイ、ウスベニアオイ等のいわゆるアオイはいずれもヨ−ロッパ原産の渡来種で、在来種ではない。
万葉集に葵(アオイ)の初見があるが、これも中国から渡来したアオイ科のフユアオイか、又は徳川家の家紋で有名なウマノスズグサ科のフタバアオイ(双葉葵)かで議論の分かれるところである。 その後の源氏物語に登場する葵は賀茂神社に関係している事から明らかにフタバアオイ(双葉葵)である事は明白で、アオイ科のアオイではない。 ウマノスズクサ科の双葉葵はアオイ科のアオイとは花も葉も全く違う種類の植物であり、この葉を正三角形に並べたものが徳川の家紋の 「三つ葉葵」である。 双葉葵は京都の賀茂神社の葵祭りに使われ、賀茂葵とも呼ばれる。
アオイ科のアオイにも種々の種類が有り、赤や白の大きな派手な花を付け、背丈の高いタチアオイが誰もが思い浮かべるアオイであるが、花が小さく野生化しているゼニアオイ、ウスベニアオイ、この地方の土手や道端で良く目に付く極めて小さなハイアオイ等、いずれもヨ−ロッパ原産の花である。
又、夏に咲くアオイ科の花は他にフヨウ、ムクゲ等があり、畑にはオクラが咲く。

オクラの花

タチアオイは室町時代に中国経由で渡来し、ゼニアオイは江戸時代に渡来したが、鑑賞用もさることながら、むしろ薬草として有名であった。
特に、ゼニアオイやウスベニアオイのゼニアオイ属の花はギリシャ時代から薬用として用いられ、16世紀のイタリアでは 「総ての病に効く」 意味の名で呼ばれ、特に呼吸器系の病気に薬効があった。 現在でもゼニアオイエキスとして、化粧品に使われており、仲間のウスベニアオイはハーブテイとして有名である。
又、タチアオイの仲間のウスベニタチアオイ(マッシュマロウ)の根の樹液に卵白等を加えた菓子がマシュマロで、現在ではゼラチンで作るが、花の名前が菓子の名前の語源である。
ゼニアオイの名の由来は諸説あって、花の大きさがちょうど五珠銭(ごしゅせん)の大きさであるとか、種子が輪状にならぶ果実を銭(ゼニ)に見立てたとか言われる。 アオイ(葵)の名の由来は葉に向日性があり、太陽を仰ぎ見る、つまり 「あうひ(仰日)」 から来たとする説や神を饗応する日からアウヒ(饗う日)、あるいは韓国語の名から来た等、やはり諸説ある。
現代はタチアオイばかりが目につくが、ゼニアオイもかっては何処にでも見られた花で、表題の正岡子規にの句に有るように夏の風物詩であった。

自生のゼニアオイ

夏を彩るタチアオイはハイビスカスと同じ仲間で、派手な印象を受けるが、野原で見るゼニアオイはむしろ可憐な花である。

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