アセビ

「磯の上に 生ふる馬酔木(アセビ)を 手折らめど 見すべき君が ありと言わなくに」・・・・大来皇女

大来皇女の弟は大津の皇子で、皇位継承を巡る謀反のかどで686年処刑されたが、大来皇女は弟を偲んで万葉集に六首の歌を残しており、その一首にアセビ(馬酔木)を手折っても見せるべき貴方がいないと悲しんでいるのが上記の歌である。
日本原産のツツジ科の常緑低木でスズランの形をした花が古くから愛でられ、万葉集に10首詠まれている。
「池水に 影さえ見えて 咲きにほふ 安之婢(アシビ)の花を 袖に扱入(こき)れな」 と読んだ大伴家持の歌や、「わが背子に わが恋ふらくは 奥山の 馬酔(アシビ)の花の 今盛りなり」(詠み人知らず)等の歌がある。 
近年では高浜虚子が 「花馬酔木(はなあせび) 春日の巫女の 袖触れぬ」 と万葉の時代に思いをはせて詠んでいる。

「馬酔木」 と書いてアセビ、アセボ、アシビと読ませ、名前については論議の多い花である。
葉や茎にアセボトキシンと呼ばれる呼吸中枢を麻痺させる有毒成分が含まれて、馬が間違って食べたりすると酔ったようになり、足が不自由になる事から馬酔木と書かれたとされ、アシヒク(足痛)や足が痺(しび)れる事等が転化してアシビ、アセビになったと言われている。
アセボトキシンの毒性を利用して殺虫剤としても利用されたが、馬や鹿も食べない事からウマクワズやシカクワズの別名もある。
現代の正式名はアセビのようであるが、万葉の頃には 「馬酔木」 の他に万葉仮名で 「安之婢」 や 「安志妣」 とも書かれているのでアシビと呼んでいたようである。 近年になって伊藤左千夫を中心に創刊されたアララギ派の短歌雑誌 「馬酔木」(あしび) が良く知られており、アシビのほうが一般受けしやすい。
山野で自生しているアセビは白花が多いが、赤味を帯びたアケボノアセビや、園芸種のベニバナアセビなど数種類がある。

自生種のアセビ

園芸種のアセビ

馬が食べると酔っ払ったようになる事から馬酔木と書く面白い謂れの花である。

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