フクジュソウ

フクジュソウは旧暦の正月頃、現代で言えば2月の始め頃、草も生えていない黒い土を持ち上げて咲き、春がそこに来ている事を教えてくれる。
元々、北の地方の野の花で、東北地方ではマンサグ、ツチマンサグと呼ばれ、 「土から出てまず咲く」 の意味の春を告げる代表的な花のひとつである。
旧暦の正月頃咲くので、元日花とも呼ばれ、新年を祝う 「福」 と 「寿」 の漢字を用いて現代では福寿草の名前が一般的な通り名となっている。
新年の頃咲く縁起のよさと、花も見栄えがするので、旧正月の鉢植えとして人気を博し、特に養蚕者が副業として桑畑で生産する事で一躍日本中に広がった。
「武蔵熊谷 お蚕どころ 繭の山から 繭の山から 月が出る」 と熊谷囃子に唄われ、蚕都(さんと)とも呼ばれた熊谷を中心にこの地方(熊谷、深谷近隣)は桑畑が多く、福寿草の一大生産地となった。 夏は日陰となり、冬は燦燦と照りつける日光の下で生育できる為、福寿草にとっては最適な環境となり、埼玉県の代表的な花となって、現在でも町の花として指定する町村が花園町を始めこの近隣には数箇所ある。



日の光を常に追い求める花で、パラボラアンテナのような形で集光して雄しべや雌しべを発達させ、少しでも日が陰ると花を閉じる。 
花の表面は外より10度近く高いとの報告もあり、花自体は蜜を出さないが、寒い時期に暖かな居場所を虫に与える事で受粉する特殊な機能を有している。

葉が茂る前が最も美しい花で、日の光が良く似合い、これを蕪村は 「朝日さす 弓師が家や 福寿草」 と詠んでいる。 特に、この地方は日照率日本一を誇り、冬には晴天の日が続くので、福寿草が良く映える。
葉が茂りだすと、急にさえなくなってくるが、それでも葉から養分を吸収し、毎年同じ所に律儀に花を咲かせ続ける。

名前は大変めでたい花であるが、トリカブトに代表される有毒の花が多いキンポウゲ科の花なので、この花も名前に似合わず有毒で、根に強い強心作用があり、薬にもなるが、素人療法は危険である。
筆者が居を構えた30年ほど前は家の周囲に一面の桑畑が広がっており、福寿草もあちこちで見られたが、今では住宅地になり、桑畑はなくなり、庭や畑に僅かに見られる程度となり、時の流れを感じさせてくれる花のひとつである。

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