ヒオウギ

「居明かして 君をば待たむ ぬばたまの 我が黒髪に 霜は降るとも」・・・・磐姫皇后
「ぬばたまの 夜の更けゆけば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く」・・・・山部赤人

上記の万葉集の歌の 「ぬばたま」 は枕詞で、ヒオウギのことである。 枕詞は和歌に見られる修辞で、特定の言葉の前に置いて語調を整えたり、情緒を添える言葉であるが、 「ぬばたま」 又は 「うばたま」 は 「黒」 や 「夜」 にかかる枕詞で、万葉集に80首ほどの歌がある。
ヒオウギのような派手な花が何故 「黒」 や 「夜」 の枕詞に使われるかというとその種子の黒さにある。 下の写真のように真っ黒に黒光りする種子を付け、これを、ぬばたま(射干玉)、又は、うばたま(烏羽玉)と呼び、ヒオウギの代名詞になっている。 一方、花自体の美しさを歌った和歌が万葉集にひとつも無いのも面白い。

花と葉

種子(ぬばたま)

アヤメ科アヤメ属の多年草で、本州、四国、九州の山野の草地や海岸に自生する。 夏から秋にかけて咲くが、午前中に咲き夕方にしぼむ一日花である。
京都の祇園祭に欠かせない花としても有名で、昔から祇園祭になると家々の軒先に魔よけとして飾られる。
又、根茎を干したものは生薬名で 「射干(やかん)」 と呼ばれ、消炎、利尿、去痰、風邪効果があり、江戸時代に書かれた 「和漢三才図会」 には扁桃腺に良く効くとの記述がある。
ヒオウギ(檜扇)は当初、漢名の射干(やかん)あるいは烏扇(カラスオウギ)の名が当てられていたようであるが、その後、葉の形が檜(ヒノキ)の薄い板をとじ合わせた扇に似ている事からヒオウギと名付けられたとするのが一般的である。

ヒオウギは花よりも種子で名のある花である。

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