ガンクビソウとヤブタバコ

夏の野の花に入れるべきか、秋の野の花に入れるべきか、いつも悩む野の花の一群がある。 このガンクビソウやキツネノマゴ、ノアズキ、ヤブツルアズキ等々である。
いずれも立秋を過ぎる頃から咲き始め、昔の基準なら秋の野の花という事になるが、現代では立秋を過ぎても真夏日が続き、イメージとしては夏の花である。
立秋やお盆の頃から咲き始める花々は 「秋の七草」 に代表されるように秋の花として古来から歌にも詠まれ歳時記にもなってきているが、現代では暑い盛りの頃に花期を迎える花も多く、季節感にそぐわない。
ただ、秋の七草の方は何時咲こうが古来からの慣習に倣ってちゅうちょ無く秋の花の中に入れてしまうが、ガンクビソウの場合は迷ってしまう。
それでも、この花が咲き始めると秋が近くなっている証拠であり、むしろ、秋の七草より秋が来た事を実感させる花である。

ガンクビソウ

ガンクビソウの名の由来は花の形が 「煙管の雁首(キセルのがんくび)」 に似ている事から来ているが、煙管の雁首と言っても、現代では映画やテレビの時代劇の中だけでしか見る機会が無いのでピンと来る人はかなり年を召されている方々であろう。
キク科ガンクビソウ属ないしはヤブタバコ属の花で枝先に花びらを持たない小さな筒状花を付けるが、この属にはこの花と似た形状の花を付けるサジガンクビソウやヤブタバコも秋の山裾を散策すれば見つかる。

サジガンクビソウ

ヤブタバコ

サジガンクビソウは根生葉の形を匙(さじ)に見立てて名付けられた植物で、花はガンクビソウよりずっと大きく、形も少し異なり、枝先にうつむきかげんに付ける。
ヤブタバコはガンクビソウとそっくりな花を付けるが、ガンクビソウが枝先に花を付けるのに対し、こちらは横枝の葉の脇に花を付け、全体も大きく枝を張るので、慣れれば間違えることは無い。 葉を漢方で天命清(てんめいせい)と称し、止血や利尿に効き、果実を鶴虱(かくしつ)と呼び、回虫やギョウ虫の駆除剤となる。
名の由来は根生葉がタバコ(煙草)の葉に似ていて藪に生えることから来ているが、ガンクビソウにしろヤブタバコにしろ同じ属の花の名前がいずれもタバコに関係しているところが面白い。

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