ガマ

ヒメガマとガマの混生

梅雨の開ける頃、水辺に目立つ植物が現れる。 花穂を付けたガマである。
「因幡の白兎」 の伝説で有名な植物で、古事記には 「ワニ(サメ)をだました白兎(しろうさぎ)が皮をむかれて難儀しているのを通りかかった大国主命(おおくにぬしのみこと)が哀れに思い、河口に行って真水で洗い、ガマの穂黄の上に寝転べば元の肌に戻ると教えた」 とある。
穂黄(ほおう、ほこう)は漢方の生薬名で、ガマの花粉から作り、止血剤、鎮痛剤、利尿剤として用いられ、古事記が書かれた時代には既に中国から伝わっていたと推測される。
大黒様(大国主命の別名)の歌の中の 「大黒様の言うとおり きれいな水で身を洗い ガマの穂綿にくるまれば 兎は元の白兎」 で穂綿がすっかり有名になり、穂黄が穂綿に置き換わってしまったが、本来は漢方の薬の穂黄である。
ガマはそれほど古くから知られた植物で、北半球温帯を中心に世界で15種ほどあるが、日本にはガマ、コガマ、ヒメガマの三種が生育している。
ガマの穂は上部に雄花、その下に雌花を形成し、雄花からは大量の花粉が飛散し、雌花は成熟すると褐色となりフランクフルトソーセージのようになるが、秋には綿状になって崩れ、風に乗って飛散する。

 ガマの雄花と雌花    コガマの雄花と未発達の雌花    ヒメガマの雄花と雌花

写真左がガマ(蒲)の雄花と雌花で、雌花は発達して雄花は僅かにその先に残っている。 写真中央がコガマ(小蒲)で、ガマと同じ時期には未だ雄花が出来たばかりで、その下の雌花は未だ発達していない。 すなわち花期がガマより遅く、葉や花穂が小さいと言うだけでなく、花期からも区別が出来る。 写真右がヒメガマで、葉や花穂が細いのでヒメガマ(姫蒲)の名が有るが、雄花と雌花の間が空いているので、区別は容易である。
薬としてだけだなく、その葉からは蓆(むしろ)や簾(すだれ)が作られ、ミスクサ(御簾草)の別名がある。 綿毛を集めて布団の綿に使ったり、火をおこす火口ともなり、茎や葉、根は食用にもなった。
ガマ(蒲)がいかによく知られていた植物であったかは 「蒲団(ふとん)」 「蒲鉾(かまぼこ)」 「蒲焼(かばやき)」 の漢字からも分かる。 蒲団はガマの綿で作られ、蒲鉾の古い形は竹輪(ちくわ)の様に円くガマの穂の形から、又、蒲焼は以前はウナギを筒状に切って焼いていた事による。
ガマの名の由来ははっきりしない。 蓆(むしろ)等を作るので 「クミ(組)」 からカムとなってガマとなったとする説や、朝鮮語の 「カム(材料)」 から来た説等が有るが、真偽の程は不明である。


ガマはガマ科ガマ属の一科一属をなし、夏の水辺を彩る花であるが、白兎伝説で神代の昔から知られた植物である。

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