ウツギ(卯の花)

「卯の花を 腐す(くたす)霖雨(ながめ)の 始水(みずはな)に 寄る木積(こずみ)なす 寄らむ児がも」・・・・大伴家持

旧暦の四月、現代の五月に降る長雨を 「卯の花を腐らす」 と言う意味で 「卯の花腐たしの雨」 と呼び、上記の大伴家持の歌にも有るように季節感を表す言葉として万葉時代から使われてきた。
大伴家持の歌は 「長雨で水辺に寄ってくる芥のように娘さん達が寄ってくるといいな」 という意味の単純な歌ではあるが現在でも季語として用いられ、天気予報等でも 「卯の花くたしの雨」 と使われたりしている。
卯の花が腐らぬかと心配するほど卯の花は古来から愛でられた花であり咲く頃が丁度、田植えを始める頃なので、神事や祭礼の花としても用いられ、 又、豆腐のオカラの事をその白さから現在でもウノハナと呼ぶように生活に密着した花でもあった。
万葉集に24首が詠まれ、その内18首がホトトギスと一緒に詠まれたものである。 「皆人(みなびと)の 待ちし卯の花 散りぬとも 鳴くホトトギス 我忘れめや」 「ホトトギス 鳴く峰の上の 卯の花の 憂きことあれや 君が来ませぬ」 。
又、垣根と一緒に詠んだ次の一首もある。 「春去れば 卯の花腐たし 我が越えし 妹が垣根は 荒れにけるかも」。 万葉以降の歌にも垣根やホトトギスと対で歌われる事が多く、近年では 「卯の花の 散るまで鳴くか ホトトギス」 と子規の句や 「卯の花の匂う垣根に ホトトギス早も来鳴きて 忍び音漏らす 夏は来ぬ」 と文部省唱歌にも歌われた。
万葉集の歌やそれ以降の歌、あるいは 「夏は来ぬ」 の歌にも見るように、昔から卯の花とホトトギスと垣根はセットであった。
旧暦四月(現在の五月)を卯の花が咲くことから 「卯の花月」と呼び、それが転じて 「卯月」 となったとする説が現在の定説になっているが、逆に卯月の謂れは別にあって、卯月に咲くから卯の花と呼ばれたと主張する人もいる等、卯の花は古来から日本人にとって関わりの深い花であったにもかかわらず現代では知る人も少なく、卯の花の垣根もあまり見かけなくなった。 
現代名ではウツギのことであるが、ウツギと一言で言っても、ユキノシタ科のウツギからバラ科のコゴメウツギ、スイカズラ科のタニウツギ、ツクバネウツギ等、種々の科にわたってウツギがあり、ユキノシタ科のウツギもウツギ属とガクウツギやノリウツギのアジサイ属やバイカウツギ属などに分かれる。( 「アベリアとウツギいろいろ」 の項参照)
いわゆる卯の花はユキノシタ科ウツギ属の花を指し、ウツギ、ヒメウツギ、マルバウツギの三種類があって、この内、この近隣ではヒメウツギの花期がもっとも早く、5月の始め頃から咲き始め、マルバウツギは5月の中頃で、最も遅いウツギは5月の終わり頃から6月に入ってからである。

ヒメウツギ

マルバウツギ

ウツギ

ウツギの八重種サラサウツギ

ウツギの名の由来は茎が空洞になっている事から空木(うつぎ)と呼ばれたようで、ヒメウツギ(姫ウツギ)は小さいウツギ、マルバウツギは葉が卵形で丸みを帯びているのでその名がある。
木質が硬い為、木釘や楊枝の材料としても重宝され、歳時記にもなった花ではあるが、近年ではウツギの垣根やホトトギスもなかなか見られなくなり、花を知る人も少なくなった。
只、近くの山裾まで足を伸ばせば、あちこちに満開のマルバウツギが迎えてくれ、いわゆるウツギが少し花を下に向けて咲くのに対し、マルバウツギは上向きに咲かせ、よく目立ち、又、散歩の途中、気をつけて見れば、藪や民家の脇にヒメウツギやウツギ、サラサウツギを見ることもできる。 
ヒメウツギ、マルバウツギやウツギの花が咲き出すと、歌にもあるように夏が近いと言う事である。

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