チガヤ

「戯奴(わけ)が為 我が手もすまに 春の野に 抜けるツバナそ 召して肥えませ」・・・・紀女郎

春から次々と咲き始めた花々が盛りを過ぎ、野原が寂しくなった頃、チガヤが白銀の穂を風に揺らす姿がひときわ目立つようになる。 ツバナとも呼ばれる。
サトウキビと近縁で、根に強い甘味を持ち、葉が茂る前に赤い花穂を出すが、その花穂も甘味があり、江戸時代にツバナの名で売り歩いていた記録がある。 当時は甘味(かんみ)が少なかったせいであろう。
この花が食べられる事は万葉の時代から知られていたようで、上記の紀女郎(きのつらめ)が大伴家持に贈った歌がある。 一首の意は 「貴方の為にツバナを取ってきましたので召し上がって肥えてください」 で、当時から甘味として利用されていた事がわかる。
この赤い花穂が6月にはいる頃、白絹色の長毛を持った穂に変わって、風にそよぎ、目立つようになる。 清少納言はこの様子を枕草子の中で 「茅花もおかし」 と言っている。


秋には葉が紅葉し、春から秋まで楽しめる花である。
この花の根茎を陰干しにしたものを茅根(ぼうこん)と呼び、顕著な利尿消炎作用があって、黄疸、腎炎、急性肝炎に用いられ、若い花芽と花穂は強い止血作用を示し、鼻血、喀血の止血剤となった。
葉は屋根の茅葺(かやぶき)の材料となり、穂は火打石で火を起こす際の火付け材として用いられた。
チガヤの名の由来は諸説あり、群生する様から千(1000)の茅(かや)からチガヤになったとする説、赤い花穂から血茅(チガヤ)になったとする説、葉が紅葉するので血茅(チガヤ)になったとする説等いろいろである。
ツバナの名の由来も朝鮮語では 「ち」 と呼ばれ、チバナからツバナになったと言う説や、火ツケバナからツバナになったとする説がある。

アジアの熱帯地方に広く分布し、日本でも温暖な地方の刈り取り草原の代表種で、野原や田の畦を彩るイネ科の花であり、かっては貴重な甘味源であった。

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