ヒナゲシとその仲間

ナガミヒナゲシ

近年、ヒナゲシの一種であるナガミヒナゲシの帰化種が散歩道のあちこちに目立つようになってきた。
可愛いので栽培種と思ったりするが、1960年ごろ見つかったヨ−ロッパ原産の帰化種で、瞬く間に全国に広がり道端のいたるところに咲いている。
ケシと聞くと、まだ熟していない果実の乳液からアヘンやモルヒネを精製する栽培禁止になっているケシを思い出し、何となく毒々しい花を想像しがちであるが、ナガミヒナゲシは可愛い花で、名前も長実雛罌粟(ヒナゲシ)と書いて実(み)が長い可愛いケシと名付けられた花である。
ケシ科ケシ属には50種ほどの花があり、栽培禁止品種を除き日本で普通に栽培されたり野生化している花は、大きく分けてヒナゲシ(シャーレーポピー)、オニゲシ(オリエンタルポピー)、アイスランドポピーの三種類である。 ヒナゲシにも帰化種のナガミヒナゲシや栽培種のヒナゲシがあり、これらの花からはアヘンやモルヒネは取れない。
これに別属ではあるがハナビシソウ(カルフォルニアポピー)などを加えたケシ亜科の花々を一般にポピーと呼んでいる。

ナガミヒナゲシ         オニゲシ           オニゲシ

    ハナビシソウ        ヒナゲシ       アイスランドポピーと大山

その中でもヒナゲシ類は丈夫で繁殖力が強く、ヨーロッパでは小麦畑に生える野草、ないしは雑草としてコーンポピーの名が有る。
ヒナゲシはフランスではコクリコと呼ばれ、麦畑などに一斉に咲く様と睡眠作用のある薬草でもある事から、与謝野晶子はフランスを旅して次のように詠んでいる。 「ああ皐月(さつき) 仏蘭西(フランス)の野は 火の色す 君も雛罌粟(コクリコ) 我も雛罌粟(コクリコ)」
虞美人草とも呼ばれ、中国の楚王であった項羽の愛妾であり中国三大美人の一人である虞妃(虞美人)が項羽が敗れた後自殺した時、その血の中から咲いたと言う伝説がある。
ヒナゲシを含むケシのルーツは中近東周辺と考えられ、東と西に広がり、日本には中国を経て、桃山時代から江戸時代にかけて渡来したと考えられ、宗達が描いた有名なケシの屏風絵が残っている。
ヨ−ロッパでは五千年近く前のミノア文明の頃に既に登場し、ギリシャ神話では眠りと忘却のシンボルとして描かれ、その頃から薬草としての沈静、睡眠作用があった事が知られていたようである。
漢名の雛罌粟(ヒナゲシ)の罌は液体を入れる口のつぼんだ甕(かめ)の事で実(み)の形を表わし、種子が粟(あわ)に似ているので罌粟と漢字で書かれる。 又、芥子とも書かれ 「芥子粒(けしつぶ)のように小さい」 と表現されるように、芥子菜(からしな)の種子もケシの種子もきわめて小さい事から意識的にか、間違ってか、芥子の字が当てられたようである。 ケシの名の由来は芥子の種とケシの種が混同されて芥子から音読みのカイシとなり、最終的にケシとなったと言う説がある。
ケシの実(み)は食用になり、栽培禁止品種のケシから取られるそうであるが、完全に種子になってしまうとアヘンやモルヒネは取れないので、発芽しないよう処理されてアンパンの上に乗せられたり、菓子に入れられたりする。
ナガミヒナゲシ、オニゲシ(オリエンタルポピー)、ハナビシソウ(カルフォルニアポピー)、ヒナゲシ(シャ−レ−ポピ−)、アイスランドポピ−等、栽培品種も含め、さまざまなケシが五月の野や田の畦を彩るがこれらからアヘンやモルヒネは取れない。

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