アオツヅラフジ

アオツヅラフジの花

アオツヅラフジは花よりも果実で目立つ植物である。
夏の盛りの頃、山裾や土手で雌雄異株の小さい花を付ける。 表題の写真のように拡大して写せば可憐な花ではあるが、小さくてほとんど目立たず、気にかける人もいない。
ところが、秋になると、葡萄(ブドウ)の様な果実をたわわに付け、人目を引く。

アオツヅラフジの果実

茎や根は木防己(モクボウイ)と呼ばれる漢方の薬に使われ、利尿、鎮痛、解熱に薬効がある有名な薬草でもある。
名前の由来については、葛篭(ツヅラ)を作ったツヅラフジ科のツル性植物で、青い実を付けることからアオツヅラフジの名が有るとの説が一般的になっているが実際は違うようである。 有名な本草学者である牧野富太郎博士が 「植物一日一題」 の中で憤慨しながらこう記している。 「私は今植物学会の人々並びにその他の人々に向かってアオツヅラフジの名前を口にすることを止めよと絶叫するばかりでなく、それを止める事が正直で、止めぬのは邪道である・・・・」 。 牧野博士によれば、アオツヅラフジはツヅラフジと呼ばれる植物の別名の一つで、江戸時代の有名な本草学者が間違った記述をした為に一般的になってしまったが、本来は昔から使われているカミエビの名前であるべきとの主張である。
カミエビは 「神のエビヅル」 を意味し、エビヅル(エビカズラ)はヤマブドウの一種で6月に花を咲かせ、秋には食べられる果実を付けるが、アオツヅラフジの果実とエビヅルの果実が似ており、薬効あらたかなので 「神のエビヅル」 からカミエビと呼ばれたようである。

エビヅルの花と果実

ちなみに、日本では古来からブドウ類をエビヅル(エビカズラ)と呼んでおり、エビ色は果実が熟した時の実や汁の濃い赤紫色の事である。 近年、伊勢海老(いせえび)の色からエビイロが混同されて使われるが、本来はブドウの色から来た言葉である。( 「ノブドウとエビヅル」 の項参照)
古事記にはイザナギノミコトが黄泉の国(よみのくに)から逃げ帰る時追ってきた鬼にエビヅル(エビカズラ)の実を投げつけて、鬼がその実を食べている間に難を逃れた記述がある。
アオツヅラフジはエビヅルのように果実を食べる事は出来ないが、葛篭の材料や漢方の薬草として古来から知られ、古今集に 「山がつの 垣ほに延える アオツヅラ 人はくれども ことづてもなし」 の一首がある。
もっとも、牧野博士が生きておられれば、古今集のアオツヅラはいわゆるツヅラフジの事で現在のアオツヅラフジの事では無いと言われそうだし、筆者がカミエビではなくアオツヅラフジの名前を使っている事も怒られるかもしれない。

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