ツリフネソウ

ツリフネソウが咲き始めると秋も一気に深まってくる。
特異な形をした花で、花の形が帆掛け舟を吊っているように見える、あるいは、吊り船型の花器に似ている事でツリフネソウ(吊船草)と呼ばれる。
距(きょ)と呼ばれる、お尻の所のカタツムリのような部分に特徴があり、これは蜜を入れる器官である。
花によっては自分達だけの花粉を運ばせる為様々な戦略を取るが、この花も長い口吻を持ったハチの種類によって受粉する仕組みを持っている。 ところが、植物学者によると、口吻の短いハチが外側を破って蜜を取る事もあるようで、自然界に蜜泥棒が存在するというのも面白い。
平地に咲いている花ではないので、散歩道で見つけることはさすがに難しいが、9月から10月にかけて、深谷市の最高峰で僅か330mの里山である鐘撞堂山の山裾まで足を伸ばすと、すぐ見つかる花である。


塊根に解毒作用があり、腫れや膿(うみ)を消すので漢方の薬として用いられる。
日本各地、朝鮮半島、中国東北部に分布するが、半日陰の湿気の多い所を好み、熟した果実に触ると種子がはじけ飛んでその生育域を広げる。
種子がはじけ飛ぶ様子をimpatiens(こらえきれない)と言う意味の英語で表し、これがホウセンカやインパチェンス等、この仲間の国際的な属名になっており、インパチェンスは英語を日本語読みにしたものである。
この仲間は長い距(きょ)を持ち、下の写真のホウセンカ(鳳仙花)も良く見るとツリフネソウの花姿に似ている事が分かる。 ホウセンカはギリシャ神話にも登場し、風邪の諸症状、消炎、鎮痛の漢方薬でもあり、日本には室町から江戸時代にかけて渡来した花であるが、今では畑の雑草と化している。 花の名は漢名の鳳仙花から来たものである。

ホウセンカの花と長い距(きょ)

ツリフネソウと名の付く花には黄色い色をしたキツリフネソウもあり、どちらかと言うと、ツリフネソウより高いところに咲き、距(きょ)は真っ直ぐで巻かず、薬草としても用いられない。 又、 色素の関係であろうか紫色のツリフネソウに混じって白花も咲いている事がある。

    ツリフネソウ        キツリフネソウ       白色のツリフネソウ

ツリフネソウ、キツリフネソウ、インパチェンス、ホウセンカが日本で普通に見られるこの系統の花の仲間であるが、日本の分類では総てツリフネソウ科に属しており、そういう意味ではツリフネソウは科を代表する花である。
独特の形で、自分の花粉だけを運ぶハチを持ち、一方外側からその仕組みを破って蜜泥棒をするハチがいるというのも面白い。

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