コナギ

稲穂が実る頃、ところどころの水田に小さな薄紫色の花が咲き始め、一日花であるが、次々と咲き、水田の中を彩る。
コナギと呼ばれるミズアオイ科の花で、どこの水田でも咲くわけでなく、除草剤をまかない水田や休耕田に限られ、小さな可愛い花であるが、農家にとっては厄介な水田雑草である。
近年は有機農業が盛んになり、除草剤を撒かないで、しかもコナギを生やさない対策もいろいろ採られているようであるが、なかなか難しいとの事である。
コナギは小水葱(コナギ)と書いて小さな水葱(ナギ)の意で、水葱(ナギ)はミズアオイの古名である。
葉がカンアオイに似て水中に生えることからその名がある本家のミズアオイもかっては水田に咲いていたが、今は絶滅寸前にあり、見る事もなかなか難しい。
一方、コナギの方はしぶとく生き延びて、除草剤を控える水田が増えている為、この地方でも散歩の途中あちこちで花を見る事が出来る。


東南アジア原産で、稲作の渡来と共に帰化し、古くから知られた花で、万葉集にも三首ほど読まれている。 「春霞 春日の里の 植えコナギ 苗なりと言ひし 枝はさしにけむ」、 「上毛の 伊香保の沼に 植えコナギ かく恋むとや 種求めけむ」 と有るように、昔は野菜として植えられた。 江戸時代の農業書 「菜譜」 にも水菜のひとつとしてあげられており、東南アジアでは今でも野菜として売られている。
又、 「苗代の コナギの花を 衣に摺り なるるまにまに 何か愛(いと)しけ」 とあるように 「衣にする」 つまり、染料としても用いられていたようである。  当時、青い染料は貴重であり、又、中国では痛み止めの薬草ともなった。

かっては野菜であり、染料となり、薬草でもあったコナギも現在では水田雑草であり、農家にとっては厄介な代物であるが可愛い花を付ける。
時代の変遷と共に農薬が多く使われるようになり、次々と水田に咲く花が姿を消していったが、近年、無農薬農業の復活で再び見られるようになってきているのは喜ばしい事である。

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