「常よりも あはれは深し 秋暮れて 人も越す野や 葛の裏風」・・・・守覚法親王
秋の七草のひとつと聞くと可憐な植物を思い浮かべるが、クズ(葛)は葉も大きく、茎はツル性で、他の樹木に巻きついて何メートルも伸び、場合によっては樹木を枯らしてしまうほど茂る。
花はマメ科特有の蝶形花を付け、赤紫色の個性の強い花であるが、葉に覆われて、その大きさの割にはあまり目立たない。
むしろ、葉の方が昔の人の心を捉えたらしく、「葛の 風にふきかへされて 裏のいと白く見ゆるをかし」 と清少納言が述べたり、上記の守覚法親王の歌にもあるように、平安の頃から 「葛の裏風」 と言えば葛の白い葉裏を見せて吹く風の事で、秋を表す風情のある季語である。
古今集に 「秋風の 吹き裏返し 葛の葉の 葉の裏見れば 恨めしきかな」 とあり、「裏見」 と「恨み」 を掛け合わせて恋の歌にもなった。
又、大伴家持が万葉集で 「はふ葛の 絶えず偲はむ 大君の 見し野辺には 標結ふべしも」 と昔の濃密な主従関係を歌っているように、秋の七草とされたわりには葉や蔓(つる)が主で、花の美しさに言及した記述や歌はあまり見当たらない。
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