クズ

「常よりも あはれは深し 秋暮れて 人も越す野や 葛の裏風」・・・・守覚法親王

秋の七草のひとつと聞くと可憐な植物を思い浮かべるが、クズ(葛)は葉も大きく、茎はツル性で、他の樹木に巻きついて何メートルも伸び、場合によっては樹木を枯らしてしまうほど茂る。
花はマメ科特有の蝶形花を付け、赤紫色の個性の強い花であるが、葉に覆われて、その大きさの割にはあまり目立たない。
むしろ、葉の方が昔の人の心を捉えたらしく、「葛の 風にふきかへされて 裏のいと白く見ゆるをかし」 と清少納言が述べたり、上記の守覚法親王の歌にもあるように、平安の頃から 「葛の裏風」 と言えば葛の白い葉裏を見せて吹く風の事で、秋を表す風情のある季語である。
古今集に 「秋風の 吹き裏返し 葛の葉の 葉の裏見れば 恨めしきかな」 とあり、「裏見」 と「恨み」 を掛け合わせて恋の歌にもなった。
又、大伴家持が万葉集で 「はふ葛の 絶えず偲はむ 大君の 見し野辺には 標結ふべしも」 と昔の濃密な主従関係を歌っているように、秋の七草とされたわりには葉や蔓(つる)が主で、花の美しさに言及した記述や歌はあまり見当たらない。


クズは花よりもむしろクズ湯、クズ切り、クズ餅等の食べ物や葛根湯(かっこんとう)と言う風邪薬等で一般庶民の生活と密接に結びついてきた植物で、大きな根に大量のデンプンを貯え、これからクズ粉を作る。 根を乾燥させたものが葛根(かっこん)で、発汗、解熱作用があり、葛根湯として風邪薬に使われ、神経痛やじんましん等にも効く薬として広く用いられてきた。
又、ウマノボタモチの別名がある様に馬や牛が葉を好んで食べ、飼料となり、若芽は天ぷらや和え物にして食べられ、茎の繊維から葛布(くずふ)が織られ、蔓は籠(かご)の材料となるなど、大変有用な植物であった。

大和の国(やまとのくに)吉野の国栖(くず)と言う地方でクズ粉が多く産出され、都(みやこ)で売られた事から付いた名前とされている様にかっては人々の生活に欠かせない植物で、英名でもクズと言うほど日本を代表する花のひとつである。
「葛の裏風」 とその風情を楽しんだり、葛粉や葛布(くずふ)等が造られた大変有用な植物が、いまでは厄介者として扱われ、帰化先の北米でもその繁殖力が問題になり、現在売られているクズ粉も大半はジャガイモやサツマイモのデンプンで作られた偽物である等、時代の流れを感じさせる。

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