ミクと私

2013.01.01

 2013年の今年、ミクは中学校3年生になります。来年はいよいよ高校生。のりこはミクのこれからの進路についていろいろ考えているようです。「いろいろ」と言っても、特別支援学校に行くことになるのでしょうし、そういう意味では考えるまでもないということになってしまうのですが。しかし、小学校、中学校を通じて、特別支援学校ではなくて、障がいのない同年代の友だちとの接触、交流のチャンスが多くある一般の学校に通う方が、負けず嫌いで頑張り屋さんのミクには好ましいと考えていたのりこ(ミクを見ていると、その判断は正しかったと私も心から納得しています)にとっては、そういう選択肢が事実上なくなるということ自体が、「いろいろ考える」ことを迫られているのかもしれません。小中学の9年間(今の段階では、まだ8年ですが)が過ぎてみれば「あっという間」のことであることを考えると、高校3年間というのはまたたく間に過ぎ去るのでしょうし、その後のミクの人生について考えるとき、私には想像しかできませんが、のりこが今からいろいろ思い悩んでいるであろうことは十二分に理解できる思いです。
 とは言え、今の私にはミクとのりこに何もして上げられないというのが実情です。私の上さんの場合はいろいろサポートできることがあるのですが、イエイエ(祖父)の私はまったく無力・非力です。仕事人生が終わっていくらでも二人のために時間が使えるという状況になって、本当にこの無力さ・非力さを思い知らされています。私にできることといえば、二人が幸せになりますようにと見守ることと、なるべく二人の足手まといにならないように心掛けることぐらいでしょうか。後は、ミクの大好きなドラゴン・ボール、ディズニー、ジブリをはじめとするアニメのDVD・本が出たときにプレゼントすること、のりこに所用などがあってミクの見たい映画を一緒できないときに私がピンチ・ヒッターを務めることぐらいが関の山です。そうそう、ミクは結構お肉が好きなので、頃合いを見計らって「焼き肉食べに行こうか」と誘いをかけることも、私にとって数少ない楽しみの一つです。ですからこの2年間、ミクの笑顔に接する機会も、広島にいた時とそれほど変わらない頻度になっています。それほどにミクの日常生活はスケジュールが立て込んでいて、「忙しい」ものなのです。
 物理的には以上のような感じなのですが、それより大きいのは、何と言ってもミクはもはや昔のミクではないということです。元々「話し好き」という部類からはほど遠い私ですので、誰とでもそうですが、ミクとの間でも「話で打ち興じる」ということはあり得ません。その点、ミクといくらでも話し相手ができる上さんを見ていると、本当に羨ましくなることがあります。ごくたまにのりこが所用で外出するときに、ミクと一緒に留守番をすることがあるのですが、そんなときもミクは一心不乱にドラゴン・ボールのアニメ本に見入っていて、私はそんなミクが時々笑顔の表情を見せると、「今ミクの頭の中ではどんな情景が繰り広げられているのかな」と想像しながら、ミクを観察するだけなのです。ミクはいつも私に会うと嬉しそうな表情を浮かべてくれるので、それだけで私は十分なのですが、やはりミクはもう私の「手の届かない」存在に成長していることは、この2年間でひしひし実感しました。私はミクから実に様々な多くのことを相変わらず学ばせてもらっていますが、もうこれは完全に一方通行の関係です。
 とは言え、私は別に寂しいということではありません。ミクが私の「手の届かない」存在になっているということは、ミクが確実に成長していることの何よりもの証です。ミクの着実な成長そしてそのプロセスそのものが、余命幾ばくもない私にとって何ものにも代えがたい励まし、喜びの源泉です。ミクが自らのハンディキャップに押しつぶされず、明るくノビノビと、そして他者への思いやりに溢れた一個の人間存在として確かにあるということ、私の中においてますます重みを増す存在としてあることを、私は本当に嬉しいし、誇りに思っているのです。そういうミクが確固として存在しているのは母親であるのりこの愛情・関心の賜物ですから、私は、自分の娘であるということをまったく抜きにして、「本当にこの人はよくやっている」と賞賛を惜しみません。

 2012年は「ミク」のコラムを書くことがめっきり減りました。これは、書く「材料」がなくなったということでは必ずしもありません。というよりも、これまでのスタイルでこのコラムを書くことについて、私自身の関心が薄れたということでした。これまでは、ミクの一つ一つの言葉遣い、動きや所作にミクの成長を「発見」して、それを一つ一つ書き留めることに、私自身の喜びがあったのだと思います。しかし、そういう個々の事象に即してミクの成長を見るという発想自体、もはやミクに対して失礼だと思うようになったのです。
 ということで、「ミク」のコラム自体を終わりにするときなのかもしれないとは思うのですが、どうしても書きたくなることが今後もあるかもしれないですし、とりあえずは今年もこのコラムを維持することにします。何か書く際にはよろしくお願いいたします。