「自分で決めなさい」

2010.08.17

お昼の新幹線でミクとのりこは東京に戻って行きました。私のドジで、予約した切符を受け取るのに必要なJR-エクスプレス・カードを忘れてしまったため、「受け取りはできません」と駅員に冷たく言い放たれて呆然となってしまいました。お盆明けというのに列車運行掲示板を見ると普通席は夕方まで満員。必死になって頼みこみ、発車15分前にようやく発券してもらうことができました。そんなときにも落ち着き払っていたのはのりこです。ミクのためなら八王子市教育委員会とも一人ででも敢然と立ち向かう精神力は、こういうときにものりこの言動を不動なものにするようです。私などは、何か意表を突かれたことに出くわすと冷や汗三斗が常なのですが、いやのりこは大したものです。
 そんなハプニングがあったのですが、ミクものりこも元気そうに新幹線に乗り込んでいきました。
 今回もミクについて数え切れない楽しい発見がありました。その中でも一番印象深かったのは、自分でももうしてはいけないことと一応分かっていることについて、相手の許可のもとに自分の希望どおりのことをしようとしてみる、というかなり高度なことを考えるということでした。DVDを許可回数見終わったあと、もっと見たいので「いいでしょう?もう1回だけ」と同意を求める発言をしてみるということは何度もありましたが、私が特に感心したのは、寝る前の歯磨きが終わったとにポテト・チップスが食べたくなって、私に「食べても良いでしょう?」と聞いてきた時でした。私は何気なく、「歯は磨いたの?」と尋ねました(本当に知らなかったのです)。するとミクは正直に「磨いた」と答えるのです。それで私はやっと、歯を磨いたあとはものを食べられないことが分かった上で、なんとか私のOKを得て食べたい気持を優先させたいのだ、と分かりました。「歯を磨いたらダメじゃないの?」と私。「でも食べたいの」とミク。そんな往復が2度、3度あって、私は何気なく「じゃあ、自分で決めたら?」と促したのです。すると思いがけなく、ミクは「もう!食べたいのに」と抗議の声を繰り返しながらも、食べることを断念したのでした。そのあとも、のりこに、「イエイエが、自分で決めな、と言った」と盛んに告げ口している様子が聞こえてきましたが、しかし、食べることはしなかったそうです。
 ミクはもう、自分の食べたい感情を抑えてでもルールを守る必要性を理解しているんだ、ということは、私にとって大きな驚きでした。大の大人でもこういう「当たり前」のことができないものが普通にいるこの世の中で、ミクは正義漢の強いのりこのもとで人間としてのすばらしさを次々と開花させているんだな、と思いました。
 上さんとも帰り道で話し合って二人で感心したことがもう一つ。それは、楽しい夏休みだというのに、のりこがあらかじめ準備したミク用の「夏休みの宿題」を広島滞在中一日も欠かさず、毎日1時間半から2時間もかけて(つまり午前中のかなりの時間)取り組んでいたことです。さすがに到着した日は疲れていてぐずりましたが、二日目からは結構前向きの姿勢で、時には楽しげにやっていました。私も一日だけ(のりこと上さんが倉敷見学に行った日)ミクの相手をし、結構こちらの方が疲れを覚えたのですが、一日も欠かさずに取り組んだミクの辛抱強さというか、精神力にはいわゆる健常な子にも決して引けを取らないな、と実感しました。
 私の広島滞在の残りを考えると「あり得ない」と思いながら、「ミク、また広島においでね」と呼びかけてしまった私です。