「いけない親子ねえ」と「夢を見ていた」

2010.05.16

今回は早めの上京。出発前夜にのりこからメールが入り、ミクが38度の発熱、と言ってきたので、気が気ではありませんでした。今年の天候不順には私のようなもの(昨年以来の3度の入院ですっかり体力に自信を失っています)にもこたえますが、ミクのような体温調節力に問題がある子どもにとっては非常にダメージがあるんだろうと、横になってからもくよくよとしておりました。ですから、最初にミクを見たときは、思わずいの一番に顔色を確かめました。心なしか青ざめた表情に見受けられたのでますます心配になりました。のりこも、少しでも早く家に戻ることを優先しましたので、ミクを迎えに行く(熱は下がったし、ミクが行きたがるので、のりこは音楽療法には行かせたのでした)前にデパ地下で夕食を買いそろえておきました。
私は2泊したのですが、幸いにもミクが熱を出すことはなく、終始快調な早口をまくし立てる元気さでいてくれました。ただし、ミクの元気なときなら恒例の外食は土曜日の夜に行く予定をしていたのですが、直前になってミクが気変わりして「行かない」と言い出したので、私の大好きなジャージャー麺(岳父の18番の味をのりこが受け継いでいます)をのりこが久しぶりに作ってくれることになりました。そして、日曜日の朝は、のりこが自治会の仕事で出かける間、私がミクのことを見て留守番ということで、今回も結構密度の濃い時間をミクと過ごすことができた次第です。

今回ミクに驚かされたことは三つ。
ミクは、「嵐」の大野クンが主演する土曜日の夜のドラマ「怪物くん」に夢中で、土曜日は大好きなDVDを見るのを我慢して、ひたすら午後9時になるのを待つのだそうです。ところが、今回私が行ったときには、「怪物くん」は見ない、「ドラえもん」のDVDを見たい、の一点張り。のりこが何度も確かめるのですが、断固として「ドラえもん」。土曜日の午後も何かの療法があるとかで二人は出かけたのですが、その帰りにDVDを借りて早速見たのは言うまでもありません。夕食が終わり、二人が入浴して出てきたとき、ミクは早速「怪物くん見ていい?」と聞いてきました。「ああ、やっぱりいつもの手だったな?」と私は思ったのですが、のりこと一緒にからかい半分で「怪物くんは見ないと言ってたじゃないの」と責め立てたのです。ミクは「いいじゃないの」と盛んに抗弁していたのですが、そのうちに発した言葉が「いけない親子ねえ」。思わず耳を疑いました。「親子って誰のこと?」と確かめたことはもちろんです。するとちゃんとのりこと私を指さすではありませんか。のりこもびっくりしておりました。のりこに確かめましたが、私たちが「親子である」ということをミクに説明したことはないとのこと。親子という概念がミクの中に自然に定着していること、しかも、ミクを一緒になってからかっている私とのりこを「いけない親子」というまとめた(しかも、私とのりこがわざと一緒になってミクをからかっていることを明らかに認識している)表現で表したことがすごいことだな、と感じ入った次第です。
その一方で、引き算には苦戦しているミクの姿も印象的でした。「引く」という概念がまだ理解できていないようです。「8-5= 」というような問題でも、〇〇〇〇〇〇〇〇と八つ書いた上で、五つ分を「-」で印をつけ、残ったものを数えて「3」とするのですが、明らかに「引き算」という意味がまだ分かっていないようです。同じように、時間の概念もまだ分からないでいるとのりこが言っていました。土曜日には「怪物くん」をやる、というようなことは覚えているし、土曜日はそういう意味で他の日にはない重要な意味がある曜日だとは分かってきたのですが、「明日」「昨日」などということの意味がまだつかめていないということのようです。人間としての感情、思いやり、配慮というようなことについては、正義感の強いのりこが意識的にミクを「仕込んでいる」こともあってか、ミクは11歳の女の子として見ても良い線を行っていると思います。しかし、抽象性が入り込むことになるとミクはどうしても理解できないということになるようです。
今朝起き出してきたミクは、たらこを混ぜたご飯を美味しそうに食べながら、私と他愛のない会話をしていました。そうこうするうちに自治会の仕事が終わってのりこが帰ってきました。私はふとミクが箸を止めて目線をさまよわせている表情をしているのに気がつきました。熱でも出たのか、と不安になった私は、「気持ち悪い?」と問いかけました。するとミクは、「夢を見ていた」と答えるではありませんか。私は早速のりこにミクの言ったことを伝えましたが、のりこは「聞き違いよ」と無視。私がミクに聞くと、「〇〇〇〇(ドラゴンボールに出てくるキャラクターの名前)のことを考えていた」というではありませんか。そのことをのりこに言うと、「パパが誘導質問するからよ」とまたもや冷やかし気味、半信半疑の答え。しかし私がミクに「夢見ることある?」と聞くと、「ある」と答えます。つまり、ミクは、頭の中でドラゴンボールのキャラクターのことを思い描いていて、そのことを「夢を見ていた」と答えたんだろうと思います。

頭の中で想像力を働かせる、そしてそのことを言葉として他者に伝える。ミクが確実に一人の人間として人間としての営みを発達させて成長している。そんな実感を今回はいつも以上に味わわせてくれたミクでした。今年は、ミクの小学生最後の運動会とのこと。晴れの予想ならば、仕事を終えてから新幹線に飛び乗ってミクの応援に行こうと思います。のりこの頑張りもあるのはもちろんですが、ミクの通っている小学校の子どもたち、父母たちはミクの存在を自然に受け入れ、しかもごくごく自然に接する雰囲気があるということを、のりこが嬉しそうにいつも話してくれます。運動会では、徒競走に出場するミクを全員が一緒になって応援するんだとか。私もそういう情景を是非自分の目の中に焼き付けておきたいと思います。