1.判決
訴え却下。
2.争点
実用新案の登録を受ける共有の権利に関する審決の取消訴訟は,共有者全員が共同してこれを提起することを要するものか。
3.判断
「まず,本案前の抗弁について考える。
本願考案につき,Xが単独で実用新案登録の出願をし,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判の請求をしたが,その登録を受ける権利の一部を極東鋼弦コンクリートに譲渡し,Yにその旨の届出をしてXと極東鋼弦コンクリートとが共同出願人となり,特許庁が,そのため右両名を名宛人として,拒絶査定を不服とする審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことは当事者間に争いがない。
思うに,実用新案法第41条,特許法第132条第3項によれば,実用新案の登録を受ける権利の共有者がその権利について審判を請求するには,その全員が共同してしなければならないと定められているが,それは,この種審判が,共有者に単独で処分する権能のない権利の存在を主張してなされる請求の当否を対象とするものであるため,その全員について合一のみ確定すべき要請に基づくものと解され,民事訴訟法にいう固有必要的共同訴訟に相当する。そして,実用新案法第47条第2項,特許法第178条第2項の規定によれば,審決に対する訴は審決の当事者において提起することができるが,実用新案の登録を受ける共有の権利に関する審決の取消訴訟は,その審決と同様の意味において,その権利の共有者全員について合一にのみ確定すべき要請を受けるから,固有必要的共同訴訟というべきであつて,審決の当事者であつた,又は当事者たるべき,その共有者全員が共同してこれを提起することを要するものと解さなければならない。
したがつて,本訴は,本来,本件審決の共同当事者たる本件X及び極東鋼弦コンクリートが共同して提起すべきものであつたのに,Xが単独で提起したものであるから,当事者適格を缺くものというべきである。そして,右審決の謄本が昭和44年12月16日Xに送達されたことは当事者間に争いがないから,右審決に対する出訴期間は昭和45年1月16日をもつて満了したというべきところ,右期間内に極東鋼弦コンクリートから右審決の取消を求める訴の提起又は共同訴訟参加の申出がなかつたことは裁判所に顕著であるから,本訴における当事者適格の欠缺は補正するに由がないものといわざるをえない。
Xは,この種の訴訟においては,当事者適格につき右説示の見解を採ると,共有権利者の一人でも共同の訴提起から脱落した場合には,他の共有権利者は自己の権利を防衛する手段を失うとし,それでは,何人にも裁判を受ける権利を保障した憲法第32条の規定に牴触するから,共有権利者の一人による訴の提起も不適法と解すべきではない旨を主張し,いかにも,本訴のような審決取消訴訟を固有必要的共同訴訟であると解する限り,Xがいうように,共有権利者の一人でも行動を共にしないときは,他の共有権利者は審決取消の訴を提起することができないこととなるが,そのような結果は,審決取消訴訟に限らず,固有必要的共同訴訟という訴訟形態をとる訴訟一般に避けられないところであると同時に,さような訴訟形態を認むべき法的要請がある以上,やむをえないものといわざるをえない。そして,固有必要的共同訴訟において,当事者たるべき全員による訴提起でないため当事者適格を缺く場合,訴が不適法として排斥されるのは,当然であつて,裁判の拒否にはならないと解されるから,何人にも裁判を受ける権利を保障した憲法第32条の規定に牴触するものということができない。
また,Xは本訴を共有権者の一人たるXが提起した行為は権利の保存行為とみるべきであつて,共有者の一人が提起する共有物保存の訴と同様,適法である旨を主張するが,その主張のように,実用新案について登録を受ける権利が共有にかかる出願の拒絶査定に対する不服審判の審決取消訴訟を,共有物保存の訴と同様,共有者が単独で提起することができるものとすれば,右取消訴訟が前示のように固有必要的共同訴訟として共有権利者全員について合一にのみ確定さるべき要請に背馳する結果が生じるのを避け難いから,右主張の見解に左袒することはできない。
次に,極東鋼弦コンクリートが昭和44年10月1日本願考案につき登録を受ける権利の持分をXに譲渡し,昭和45年3月12日その旨をYに届出たことは当事者間に争いがないから,これにより,右持分譲渡の効力が生じ,Xは右権利につき唯一の権利者となつたものというべきである。そこで,Xは本訴につき単独で当事者適格を有する旨を主張するが,右譲渡の効力が生じたのは本件審決に対する出訴期間が満了した後のことに属するから,右権利がX独りに帰属するに至つたからといつて,本訴が遡つて適法とされる理由はない。
よつて,本件訴を不適法として却下すべきものとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条,民事訴訟法第89条の規定を適用して,主文のとおり判決する。」