最判昭和49年6月28日(集民112号155頁(昭和47年(オ)第659号))

(原審:東京高判昭和47年4月7日(昭和40年(ネ)第1459号)

<事案の概要>
 X1(原告,控訴人,上告人)及びX2(原告,控訴人,上告人)は,昭和24年3月18日,設定の登録により次の特許権につき各二分の一の持分を取得した。

特許番号 第178167号
発明の名称 一眼レフレツクス用絞り作動装置
出願 昭和21年10月24日
出願公告 昭和23年10月20日
登録 昭和24年3月18日

 X3(原告マミヤ光機株式会社,控訴人,上告人)は,昭和25年12月,X1及びX2から,本件特許権について次のような内容の独占的実施権の許諾を受けた。

範囲 全部
期間 本件特許権の残存期間中

 Y(被告,被控訴人,被上告人)は,業として別紙(一)記載の絞り作動装置を有する一眼レフレツクス写真機及びその交換レンズを製作販売し,これらを所有している。
 Xらは当初,「一 Yは別紙(一)記載の絞り作動装置を有する一眼レフレツクス写真機及び右装置を有する一眼レフレツクス写真機用交換レンズを製作販売してはならない。二 Yは前記記載の各物件を廃棄せよ。三 訴訟費用は,Yの負担とする。」との判決を求めたが,後に訴を追加的に変更して,「Yは,X1及びX2に対し,それぞれ,金4306万2900円及びこれに対する昭和38年10月21日から支払いずみに至るまで年5分の割合による金員を支払え。」との判決をも求めた。
 なお,本件特許権は,昭和30年10月20日,存続期間の終了により消滅した。
 第一審(東京地判昭和40年6月22日(昭和37年(ワ)第796号))は,Xらの請求をいずれも棄却した。
 Xら,控訴。
 控訴審(東京高判昭和47年4月7日(昭和40年(ネ)第1459号))は,控訴を棄却した。
 Xら,上告。

<判決>
 上告棄却。
「上告代理人山根篤,同下飯坂常世,同新長巖,同海老原元彦の上告理由第一点及び第二点について。
 特許権は新規な工業的発明に対して与えられるものである以上,その当時において公知であつた部分は新規な発明とはいえないから,特定の特許発明の技術的範囲を確定するにあたつては,その当時の公知の部分を除外して新規な技術的思想の趣旨を明らかにすることができるものと解するのが相当である(最高裁昭和37年12月7日第二小法廷判決・民集16巻12号2321頁同39年8月4日第三小法廷判決・民集18巻7号1319頁参照)。しかして,所論の技術的思想が本件特許出願以前から公知であつた旨の原審の認定事実は,原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の挙示する証拠に照らして,首肯することができないものではないから,所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は,ひつきよう,独自の見解を主張し,原審の専権に属する証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するに帰し,採用することができない。
 同第三点ないし第六点について。
 本件特許発明及びY製品の目的,構造及び作用効果に関する所論原審認定の事実関係は,原判決の挙示する証拠関係とその説示に照らして,首肯することができないものではない。そして,右事実関係のもとにおいては,本件特許発明とY製品との間にはその構造及び作用効果に差異があり,したがつて,Y製品が本件特許発明の技術的範囲に属するものではない旨の原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は,ひつきよう,原審の専権に属する証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立つて原判決の違法をいうにすぎず,採用することができない。
 よつて,民訴法401条95条89条93条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」