(原審:知財高判平成21年5月29日(平成20年(行ケ)第10460号))
<事案の概要>
X(原告,被上告人)は,発明の名称を「放出制御組成物」とする特許第3134187号の特許(平成9年3月6日出願(優先権主張:平成8年3月7日,日本国),平成12年12月1日設定登録(請求項数:22),以下,「本件特許」という。また各請求項に係る発明を項番号に対応して,「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という)の特許権者である。
Xは平成17年12月16日,本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(特許権存続期間延長登録出願2005-700090号。以下「本件出願」という。)をし,延長の理由として,原告が平成17年9月30日に次の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことを主張した。なお,本件処分の対象となった「物」が,同処分の対象となった「医薬品」を意味するか(Xの主張),同医薬品の「有効成分」を意味するか(Y(被告(特許庁長官),上告人)の主張)については,争いがある。
ア 延長登録の理由となる処分
薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認
イ 処分を特定する番号(承認番号)
21700AMZ00737000
ウ 処分の対象となった物
(ア) 処分の対象となった医薬品(販売名)
パシーフカプセル30mg
(イ) 処分の対象となった医薬品の有効成分(一般名称)
塩酸モルヒネ
エ 処分の対象となった物について特定された用途(効能・効果)
中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛
通常,成人には塩酸モルヒネとして1日30〜120mgを1日1回経口投与する。なお,年齢,症状により適宜増減する。
Xは,本件出願について,平成18年8月9日付けで拒絶査定を受けたので,平成18年9月20日,これに対する不服の審判(不服2006-20937号事件)を請求した。
特許庁は,本件処分の対象となった医薬品である「パシーフカプセル30mg」(以下「本件医薬品」という。)の「有効成分」は「塩酸モルヒネ」,「効能・効果」は「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」であるところ,「塩酸モルヒネ」を「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」に使用する医薬品である「オプソ内服液5mg・10mg」(以下「先行医薬品」という。)が本件処分の前である平成15年3月14日に承認され(以下,この承認を「本件先行処分」という。),平成15年6月13日に薬価収載され,平成15年6月26日に販売開始されていることからすれば,「塩酸モルヒネ」を「有効成分(物)」とし,同一の「効能・効果(用途)」を有する医薬品は,本件処分以前に既に承認されていたものであって,当該医薬品の有効成分,効能・効果以外の剤形などの変更の必要上,新たに処分を受ける必要が生じたとしても,本件発明の実施に特許法67条2項の政令で定める処分(以下「政令で定める処分」という。)を受けることが必要であったとは認められないから,本件出願は特許法67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきである,という審決をした。
X出訴。
原審(知財高判平成21年5月29日(平成20年(行ケ)第10460号))は,審決を取り消した。
Y上告。
<判決>
上告棄却。
「3 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。
本件先行医薬品は,本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから,本件において,本件先行処分がされていることを根拠として,その特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。
4 以上によれば,本件先行処分がされていることは,本件特許権の特許発明の実施に当たり,薬事法14条1項による製造販売の承認を受けることが必要であったことを否定する理由にはならないとして,本件審決を違法であるとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」