(原審:東京高判平成9年11月19日(平成8年(行ケ)第19号))
<事案の概要>
X(原告,被上告人)は,発明の名称を「6本ロールカレンダーの構造及び使用方法」とする特許第1735179号(以下,「本件発明」という。)の特許権者である。
上告までの経緯は,以下のとおりである。
平成5年9月14日 | Y(被告,上告人)が,本件発明に係る特許(以下,「本件特許」という。)について無効審判を請求(平成5年審判第18041号) |
平成7年12月22日 | 特許出願の願書に添付された明細書(以下,「本件明細書」という。)の請求項1,2に記載された発明に係る特許を無効にすべき旨の審決 (以下,「本件無効審決」という。)。 |
平成8年2月8日 | X出訴(平成8年(行ケ)第19号。)。 |
平成8年11月13日 | Xが本件明細書の特許請求の範囲等の記載等を訂正することについて審判請求(平成8年審判第19266号。)。 |
平成9年1月8日 | 訂正をすべき旨の審決(以下,「本件訂正審決」という。)。同審決確定。 |
平成9年11月19日 | 本件訴訟判決。 |
Y上告。
<判決>
上告棄却
「二 特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)の取消しを求める訴訟の係属中に,当該特許権について,特許出願の願書に添付された明細書の特許請求の範囲が,明細書を訂正すべき旨の審決(以下「訂正審決」という。)により減縮され,訂正審決が確定した場合には,当該無効審決を取り消さなければならないものと解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
審決に対する訴え(以下「審決取消訴訟」という。)において,審判の手続で審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は審決を違法とし又はこれを適法とする理由として主張することができないことは,当審の判例とするところである(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)。明細書の特許請求の範囲が訂正審決により減縮された場合には,減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加されているから,通常の場合,訂正前の明細書に基づく発明について対比された公知事実のみならず,その他の公知事実との対比を行わなければ,右発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない。そして,このような審理判断を,特許庁における審判の手続を経ることなく,審決取消訴訟の係属する裁判所において第一次的に行うことはできないと解すべきであるから,訂正後の明細書に基づく発明が特許を受けることができるかどうかは,当該特許についてされた無効審決を取り消した上,改めてまず特許庁における審判の手続によってこれを審理判断すべきものである。
もっとも,訂正後の明細書に基づく発明が無効審決において対比されたのと同一の公知事実により無効とされるべき場合があり得ないではないが,特許法は,123条1項8号において,126条4項に違反して訂正審決がされたことが特許の無効原因となる旨を規定するから,右のような場合には,これを理由として改めて特許の無効の審判によりこれを無効とすることが予定されているというべきである。
三 そうすると,本件訂正審決による本件明細書の特許請求の範囲の前記訂正のうち,ロール軸交叉装置及びロール間隙調整装置が所定のロールに分けて備えられる構成が付加された点並びに各ロール周速及び各ロール間のバンクの回転についての構成が付加された点は,特許請求の範囲の減縮に当たるものであるから,本件無効審決はこれを取り消すべきものである。
したがって,本件無効審決を取り消した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」