(原審:東京高判平成2年7月19日(平成元年(行ケ)第51号))
<事案の概要>
Y(被告)は,名称を「ガラス板面取り加工方法及びその装置」とする特許第933560号発明(昭和48年11月28日特許出願,昭和53年4月24日出願公告,同年11月30日設定登録,以下「本件発明」という。)についての特許権者である。
本件の経緯は以下のとおりである。
昭和57年4月17日 | X(原告ら)が本件発明の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第一項に記載された発明(以下「本件第一発明」という。)について特許無効の審判を請求(昭和57年審判第7376号)。 |
昭和58年3月31日 | 「特許第933560号発明の明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「一次審決」という。)。 |
昭和58年 | Yが一次審決取消訴訟を提起。 |
昭和59年8月28日 | Yが訂正審判請求(昭和59年審判第16678号)。 |
昭和62年6月11日 | 訂正認容審決(昭和62年7月8日送達。訂正審決確定。)。 |
昭和62年11月19日 | 一次審決取消訴訟判決(訂正審決の確定により本件第一発明の要旨認定及び本件明細書の発明の詳細な記載事項の認定を誤った違法があるとの理由により,一次審決を取り消す旨の判決(以下「一次判決」という。))。一次判決確定。 |
昭和63年12月23日 | 昭和57年審判第7376号について,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(平成元年2月8日送達。)。 |
X出訴。
原審(東京高判平成2年7月19日(平成元年(行ケ)第51号))は,Xの請求を棄却した。
X上告。
<判決>
上告棄却。
「原審の適法に確定した事実関係によれば,本件無効審判請求につき前にされた審決の取消訴訟における判決は,右訴訟の係属中に特許請求の範囲の減縮をも目的とした訂正審決が確定したことにより,訂正前の本件明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明を対象とした右審決は結果的に審判の対象を誤った違法があることになるとし,更に進んで,訂正後の本件明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明につき無効原因はないとの判断も加えて,審決を取り消したというのであり,そうであるならば,右取消判決の拘束力の生じる範囲は,審決が審判の対象を誤ったとした部分にとどまるのである。本件無効審判請求につき更にされた本件審決は,右取消判決の拘束力に従い訂正後の本件明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明を審判の対象とした上で,右発明につき無効原因はないと判断しているが,右判断は右取消判決の拘束力に従ってされたものではないというべきであり,これが右取消判決の拘束力に従ってされたものであることを前提とする原判決の説示部分には,審決取消判決の拘束力に関する法令の解釈適用を誤った違法があるといわなければならない。
しかしながら,原判決は,訂正後の本件明細書の記載は特許法36条4項及び5項(昭和60年法律第41号による改正前のもの)の要件を満たしている旨の認定判断,すなわち,訂正後の本件明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明につき無効原因はないとした本件審決の判断が是認できる旨の認定判断をもしており,右認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができるから,原判決の前記説示部分の違法はその結論に影響しないものというべきである。
以上によれば,特許無効審判事件についての審決取消判決には拘束力はないとして原判決の前記説示を論難する所論は,結局,理由がないことに帰する。論旨は,採用することができない。
よって,行政事件訴訟法7条,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」