ふくろう博士のカナダ便り

ふくろう博士のカナダ便り -12-
ナメクジストーリー


カナダに来て茗荷(みょうが)をたべられなかったのを嘆いたら、
日本人の農家の人が茗荷をつくっていて「貴重価絶大」の茗荷を植えるためにくれた。
拝むようにして去年の春植えた。
ことしは、さぞ出てくると思いきや、ほかの草花は春にめざめているのに、ちっとも出てこない。
かみさんが小さな花壇の隅にうえたのを毎日のように見に行って、
「だめだわ」、とため息ばかり、
今年の冬はメチャ寒さの零下20度だったから、
「とうとう死んじまったんだ」と諦めていたら出てきたんです。
それで、毎日楽しみにしていたら、
はえたばかりのニ三本の芽の先の葉が何かに食べられてしまった。 
それでご近所で仲のいい老夫婦でいつか話した「お散歩ニャンコ」のママに聞いたら
「それはナメクジSlugよ」、
「どうしたら退治できるの?」
「簡単よ」

小さな空き缶に水を半分以下のところまでいれて、お砂糖か蜜を入れ
缶を半分土に埋めるとSlugが登ってくる。そして中に落ちる。
だけど、缶は缶開けで開けたとき、切り口の内側にまわりが入り込んだようになっていて、
Slugが上がれないようになっていないと出てくる。

「一晩でたくさんとれるわよ」  というわけで
「缶をあげましょう」と四個下さった。
拝受して帰ったが、ニャンコ食の缶詰で、ニャンコが回りでニコニコわらっている缶だった。大きさも丁度いい。

 俄然奮起。 

庭の四ヶ所に言われたとおり仕掛けた。
二つは砂糖水、二つは蜜の水。
どちらが効果があるか見るため。
そして雨が降ると困るので、割り箸(こっちにも沢山ある。
近くの日本食堂から「お持ち帰り」の弁当をいつも買うから沢山ある。
それを缶の回りに三本立てて、その上のプラスチックの植木鉢をかぶせる
(これも近くの花やからしょっちゅう小さな花を買っているのでたくさんある)。
 あくる日、さぞやと期待に胸を風船のように膨らませてみにいったけど、
「一匹もいない!!」。
 ニャンコのママに聞いたら「それならビールがもっといいわよ」 という。 
やっぱりSlugもビールと酒が好きなんだ。
飲んでデレンデレンによっぱらってまるでナメクジのようにのろくだらだらするらしい。
だから英語で「のろのろだらだら、だらしなくなる事をSluggishという理由が初めてわかった(辞書を引いてご覧?)
 そこで翌日はかみさんの目を盗んで料理用の貴重な日本酒をいれてみた
明くる日、かみさんの声が庭先から聞こえた
「小さいのが一匹だけ取れたわよ。でもそれも這い上がって外に出かかっていたのでまたおしこめた!」 
小さいくせに酒が好きだとは生意気な! 
茗荷の近くのナメクジ罠はとみると、
ここには大きいのが一匹酒の中に溺死するという
呑み助にはこたえられない素晴らしい幸せな死に方でしんでおられた。 

でも、ニャンコのママは「毎日たくさん取れて取りかえるのが大変よ」 といっていたのにね。
いまだに理由はわからない。

サラダ菜のそばの罠では、かみさんが
「ニ三日まえに親と数匹の子供を殺したから、それで全部だったのかもね。
親の前で子供を殺すのは忍びがたかったけど」
と妙な菩提心を強調している。それが仏様に通たから、取れなんだ。
 ようするにこんなところです。

「やってみなはれ」
「ところで、この罠で一番喜んだ奴がいる。
アリンコ共だ。
甘い砂糖の罠と酒の罠に沢山あつまって「大酒盛り」をやっていた。
なにしろ、彼らにとってはこれは「酒池肉林」だ。

アリンコの嬉しそうなざわめきの中から酔っ払った連中の歌や笑いが聞こえてくるようだった。





トップへ
戻る
前へ
次へ