五つ貝の歌
(夏苗の誕生に寄せて)
去りゆく夏の思い出に
色とりまぜて
五つなる
君が拾いし貝のから
海の香りをなつかしみ
そを包み来し手巾(ハンカチ)に
白きレースのふちどりは
乙女の頃の君なりき
これが家族の顔ぶれと
われに示しし貝のから
三つが小さき桜貝
ゆく歳月のしげくして
小さきひとつの欠けしまま
四つが常の貝のから
十年(ととせ)数えてなお三年(みとせ)
五つの貝に寄せにける
君が思いを知らざりき
小さきひとつを求めいし
その朝夕をともにいて
今年の夏のめぐりきて
ついに見しとや
君の手に
うすくれないの桜貝
かくてそろいし
そのかみの
君が示しし、とりどりの
五つなりけん貝のから
いまひたひたと
満ち潮の、色青みきて青めるは
われらが浜に出発(たびだち)の
時機(とき)の至るを告げんとす
いざや浮かべん新しき
潮(うしお)に乗せて五つ貝
はるかに渡れ
海のきわみに
1978.8.25
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