カバーから引用する :
複素解析の“なぜ?”にヴィジュアルに答える斬新かつ好個な書である。
章末に問題がある。解答は付されていない。
留数計算について、pp.483-484 ではこう述べられている:
歴史的にみて,それまで手に負えなかった実積分の値の計算における Cauchy の成功は, 彼の発見した結果の強力さを示す最初の明白な形跡の一つである. (中略)しかしながら, この応用がいままでほどには重要でないことは,ほとんど疑う余地がない. 今日,扱いにくい積分に出くわしたとき,物理学者,技術者あるいは数学者は, 留数の計算をはじめるのではなく,コンピュータに手を伸ばすであろう. それゆえ,ここでは説明に役立つ二つの実例を与えるだけとし, それ以上の例は演習問題で与えることにする.
ここまで留数定理の実積分への応用についてこうもあけすけに語るとは思わなかった。 言われてみればその通りである。
本書で頻出する、体操の技の名前のような「伸縮ひねり」は、本書の造語である。原書では "amplitwist" ということばであり、 これも伸縮する(amplify)とひねる(twist)からなる造語である。詳しくは本書を参照してもらいたい。
本書で「剛性」ということばがあちこちでお目にかかる。たとえば、変換とユークリッド幾何を述べた節では、
「運動」を定義するときに“剛性運動”ということばを使っている。なお、剛性運動は rigid motion の略である。
そして、
p.271 の解析接続の説明ではすなわち,局所的に伸縮ひねりである写像は必然的に剛性をもち,
そのことによってただ一通りの方法で定義域を広げることができる.
という表現がある。
物理的なイメージのある「剛性」が複素解析で使われるとは、妙な気分である。
そういえば、志賀浩二の「複素数30講」でも、
正則関数の強い性質を剛性にたとえている。
本書で初めて目にしたのが「ポリアベクトル場」(Pólya vector field)がある。その詳細については本書を見てほしい。 たとえば、p.558 にある演習問題 の 6 は次のとおりである:
どの複素解析の教科書も,不等式
`abs(int_L f(z)dz) le int_L abs(f(z)) * abs(dz)` (32)の効用を認めているが,いつ等号が成立するかには注意していない. これは,おそらく,ポリアベクトル場を考えなければエレガントな答えがでてこないからであろう(第 8 章の考察に注意). ポリアベクトル場を使って,ブラデンの定理とよばれる次の主張が得られる.
(32) の等号が成立するのは `L` が `f` のポリアベクトル場の流線を一定角で切るときに限る.
ブラデンの定理を証明せよ.
この不等式は、そういえば複素数30講で出てきたのだった。
グリーン関数についても説明がある。そういえば、同時に借りた本に、 物理・工学のためのグリーン関数入門もあった。
書名 | ヴィジュアル複素解析 |
著者 | T. ニーダム |
訳者 | 石田久,今吉洋一,大竹博巳,小森洋平,佐官謙一,須川敏幸,谷口雅彦,西尾昌治,米谷文男,正岡弘照 |
発行日 | 2002 年 1 月 23 日 初版 |
発行元 | 培風館 |
定価 | 5500 円(本体) |
サイズ | A5 判 662 ページ |
ISBN | 4-563-01102-9 |
備考 | 草加市立図書館にて借りて読む |
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