一松 信:多変数解析函数論

作成日:2017-01-25
最終更新日:

概要

はしがきで、著者は次のようにいっている。 本書の内容は正則領域の理論と,その発展にあたるスタイン多様体を中心とした.

なぜこの本を買ったか

なぜこの本を買ったかというと、名著と言われていて最近復刊したからである。 内容を理解できるかということは今のところ考えていない。老後の楽しみである。

本を眺める

本を眺めたが、復刊にあたって著者が手を入れた箇所が全くない。 著者の一松信氏はご健在なのだから、補足があってもよかったのではないかと思う。 ただ、初版発行が 1960 年 9 月 25 日だから、55 年以上の歳月が立つと、 中途半端な補足ではかえって統制がとれなくなってしまうのかもしれない。

付録 I で挙げられている数学者には、物故者も多い。生年のみが記載されている数学者について、没年もあわせて記しておく。

なお、ヒルゼブルフについては日本語ではヒルツェブルフと表記されることが多い。 ジュリアは、「ジュリア集合」で名が知られている。

なお、J. P. セール (1926-)はご存命である。

記号表

p.285 の記号表が興味深い。`a in A` の否定は現代はふつう `a !in A` という記号を使うが、 同書では `a bar in A` という記号を使っている。つまり `in` の否定をバーで表している。 また、空集合の表記はふつう `O/` だが(時計では斜線が7時5分の位置)、 同書では斜線が 90 度傾いている(時計では10時20分の位置)。

第1章 多変数正則函数の基本性質

もう、最初の1ページからわからないのである。なお、`z, z', z''` は複素変数とする。 それからこのように書かれている。

`z' = (z_j')_(j=1)^n` と `z'' = (z_j'')_(j=1)^n` の距離を考える。
`[sum_(j=1)^n |z_j'-z_j''|^2]^(1//2)`
としてもよいが,むしろ
`rho = (z', z'') = max{|z_j' - z_j''|, (j = 1, cdots, n)}`
と定義し,したがって点 `z^0 = (z_j^0)_(j=1)^n` の基本近傍は, 正の数 `r_1, cdots, r_n` により

`S(z^0, r)``={(z_j)_(j=1)^n| |z_j - z_j^0| < r_j, (j = 1, cdots, n)}`
`={|z_j - z_j^0| < r_j}_(j=1)^n`

で定義される多重円板をとるほうが便利なことが多い.

なぜ円板になるのかわからないが、実数の直積と球の関係から類推してみれば、 超球にはカドがないけれど多重円板はカドがあると考えればいいだろう。

そして1ページから2ページにかけて次のように書かれている。

さて,1 複素変数の函数 `f(x)` が点 `z = z_0` において微分可能というのは
`lim_(z->z_0)(f(z)-f(z_0))/(z-z_0) = alpha`
の存在することであるが,これは次のように書きかえられる.
`f(z) = f(z_0) + alpha(z-z_0) + epsilon(z; z_0), lim_(x->x_0) (epsilon(z;z_0))/(z-z_0) = 0.`

この書きかえはみたことがある。 たとえば、 大学数学の証明問題 発見へのプロセス で、合成関数の微分を証明するときに、 `lim` で始まる上の式が `f(z)` ではじまる下の式と同値であることを利用していた。 微分可能とは、 ありていにいってしまえば着目している点の近傍で一次式への近似が可能である、 という理解でいる。 多変数の正則函数ではこちらをもとにして定義することに感心した。

整級数とその応用

誤植がある。まず p.33 の注を除く最下段で、コンパクト一様收束の位相とあるが、 正しくはコンパクト一様収束の位相だろう。收の字は収の旧字体だから意味は同じなのだが、 收の字が出ているのはここだけである。直してほしかった。

第3章 ハルトグスの正則性定理

同書で頻繁に出てくる人名、ハルトグスは、現在ではハルトークスと表記されるのが普通である。 さて、同書でのハルトグスの正則性定理とは、p. 48 の次の定理である。

`n` 複素変数の函数 `f(z_1, cdots, z_n)` が,各変数ごとに正則ならば, `n` 変数の函数として正則である.

上記の文章を Microsoft Word で打ち込むと「各変数ごとに」の 「各」と「ごと」が重複しています、とおせっかいをやいてくれる。 それはともかく、p.52 で証明を完了させたあと、著者は次のように注意する。

注意 2. 以上でハルトグスの正則性定理は証明された.(中略)この定理がけっして自明でないことは, ‘各変数ごとに連続ならば,全部の変数についても連続’などという命題が偽であることからも(中略) 察せられるであろう.

私は‘’内にある命題が真だと思い込みそうになった。言い換えれば、この命題の反例が出てこなかった。 そこでインターネットで探すと、2実変数関数での例がいくつか出てきた。 私が持っている藤田宏、今野礼二:基礎解析 II p.185 にも次の例があった。
`f(x, y) = {((xy)/(x^2 + y^2), x^2 + y^2 != 0),(0, x = y = 0):} `

ページは前後するが誤植がある。p.48 の‡で「概要の招介」とあるが、「概要の紹介」が正しい。

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数式の記述

数式表現は ASCIIMathML を、 数式表現はMathJax を用いている。

書誌情報

書 名多変数解析函数論 復刻版
著 者一松 信
発行日2016 年 4 月 22 日 復刻版
発行元培風館
定 価4600 円
サイズ
ISBN978-4-563-01206-9
NDC

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MARUYAMA Satosi