砂田 利一:行列と行列式1

作成日:2021-08-20
最終更新日:

概要

「まえがき」より 本書の目標は,現代数学の標準的な教科になっている線形構造の理論, すなわち「線形代数」の世界へ読者を誘うことである. とある。言い忘れたが、本書は「岩波講座 現代数学への入門」全 10 巻( 20 分冊) のうちの第1回配本のうちの 1 冊である。本書は、 青本和彦著「微分と積分 1」 と同時配本である。本書刊行後「岩波講座 現代数学への入門」で「行列と行列式 2 」が刊行され、 その後両者の合本として「行列と行列式」が刊行されている。

感想

第1章は、行列が高校の数学指導要領にあったころであれば、ほぼ高校数学の範囲だ。 しかし、あっという間に大学の数学になり、ついていけない。 本書は、本文中の「問」については、解答例が付されていない。また、章末にある演習問題については、ほとんど巻末に解答があるが、ないものもある。困った。

第1章 2次の行列と行列式 のpp.46-47 にある演習問題を引用する。

1.11 行列

`A=((-4,15),(-2,7)), ((2,1),(3,4))`
について,`P^(-1)AP` が対角行列になるような `P` を(一つ)求めよ.

第1の行列の場合は次のとおり。

`A` の特性多項式は

`abs({:(x+4,-15),(2,x-7):}) = (x+4)(x-7)+30 = x^2-3x+2 = (x-1)(x-2)`
である。よって固有値は `x=1,2` 。固有値 `x=1` に対応する固有ベクトル `x_1` は
`Ax_1 = x_1`
を満たす。 `x_1 = ((x),(y))` とおくと、`-2x+7y = y` より、固有ベクトルの一つは `x_1=((3),(1))` である。

同様にして固有値 `x=2` に対応する固有ベクトル `x_2` は、

`Ax_2 = 2x_2`
を満たす。 `x_2 = ((x),(y))` とおくと、`-2x+7y = 2y` より、固有ベクトルの一つは `x_2=((5),(2))` である。

よって題意を満たす `P` として `P= ((3,5),(1,2))` がある。このとき、`P^-1AP = ((1,0),(0,2))` となる。

第2の行列の場合は次のとおり。

`A` の特性多項式は

`abs({:(x-2,-1),(-3,x-4):}) = (x-2)(x-4)-3 = x^2-6x+5 = (x-1)(x-5)`
である。よって固有値は `x=1,5` 。固有値 `x=1` に対応する固有ベクトル `x_1` は
`Ax_1 = x_1`
を満たす。 `x_1 = ((x),(y))` とおくと、`2x+y = x` より、固有ベクトルの一つは `x_1=((1),(-1))` である。

同様にして固有値 `x=5` に対応する固有ベクトル `x_2` は、

`Ax_2 = 5x_2`
を満たす。 `x_2 = ((x),(y))` とおくと、`2x+y = 5x` より、固有ベクトルの一つは `x_2=((1),(3))` である。

よって題意を満たす `P` として `P= ((1,1),(-1,3))` がある。このとき、`P^-1AP = ((1,0),(0,5))` となる。

解答は、`P= ((3,5),(1,2)), ((1,1),(3,-1))` である。第2の行列は`x_1`と `x_2` が入れ替わっているが、問題ない。

第2章 行列 のpp.83-84 にある演習問題をみてみる。

2.12 4 次の正方行列の対称区分け

`A=((I_2,O),(O,-I_2)), \quad B=((-I_2,G),(O,I_2)), \quadC=((-I_2,O),(H,I_2))`
に対して,`A^2 = B^2 = C^2 = I_4, AB + BA = AC + CA= -2I_4` であることを示せ. さらに,`GH = HG = O` であるとき,`BC + CB = 2I_4` となることを示せ.

巻末の演習問題解答をみても、本問に対しては簡単な計算としか書かれていない。仕方ない。解いてみる。ここで `I_n` は `n` 次の単位行列である。

p.78 の例 2.26 を参考にする。

`A^2 =((I_2,O),(O,-I_2)) ((I_2,O),(O,-I_2)) = ((I_2^2,O),(O,(-I_2)^2)) =((I_2,O),(O,I_2)) = I_4`
`B^2=((-I_2,G),(O,I_2))((-I_2,G),(O,I_2)) = (((-I_2)^2,-I_2G + GI_2),(O,I_2^2)) = I_4,`
`C^2=((-I_2,O),(H,I_2))((-I_2,O),(H,I_2)) = (((-I_2)^2,O),(-HI_2+I_2H,I_2^2)) = I_4`

やってみればなんとかなるようだ。次はどうだろうか。

`AB + BA =((I_2,O),(O,-I_2)) ((-I_2,G),(O,I_2)) + ((-I_2,G),(O,I_2))((I_2,O),(O,-I_2))= ((-I_2^2,G),(O,-I_2^2))+((-I_2^2,-G),(O,-I_2^2)) = ((-2I_2,O),(O,-2I_2)) = -2I_4`
`AC + CA =((I_2,O),(O,-I_2)) ((-I_2,O),(H,I_2)) + ((-I_2,O),(H,I_2))((I_2,O),(O,-I_2))= ((-I_2^2,O),(-H,-I_2^2))+((-I_2^2,O),(H,-I_2^2)) = ((-2I_2,O),(O,-2I_2)) = -2I_4`

よし、あと一息だ。

`BC + CB =((-I_2,G),(O,I_2)) ((-I_2,O),(H,I_2)) + ((-I_2,O),(H,I_2))((-I_2,G),(O,I_2))= ((I_2^2 + GH + I_2^2, G - G),(H-H,I_2^2+HG+I_2^2))`
ここで`GH = HG = O`を使って
`BC + CB =((2I_2, O),(O,2I_2)) = 2I_4`

ふう。ほっとした。


第3章 行列式 の演習問題がある。

3.12

`A=((x,0,0,cdots,0,a_0),(-1,x,0,cdots,0,a_1),(0,-1,x,cdots,0,a_2),(,,,cdots,,),(0,0,0,cdots,x,a_(n-1)),(0,0,0,cdots,-1,a_n)) `
は `a_nx^n+a_(n-1)x^(n-1) + cdots + a_1x + a_0` に等しいことを示せ.

私は根性なしだから解答を見た。すると、最後の列に関する展開を行えばよい.とだけある。仕方ない。自分でやってみよう。

`A` の `(1, n+1)` 余因子は `n` が偶数であれば、`abs({:(-1,x,0,cdots,0),(0,-1,x,cdots,0),(,,,cdots,),(0,0,0,cdots,x),(0,0,0,cdots,-1):})`、 `n` が奇数であれば `-abs({:(-1,x,0,cdots,0),(0,-1,x,cdots,0),(,,,cdots,),(0,0,0,cdots,x),(0,0,0,cdots,-1):})` である。これらの行列式は `n` の偶数奇数にかかわらず 1 になる。

あとは同様に行えばいいと思う。


第4章 一般の連立一次方程式 は、問が2つある。解いてみよう。まず p.143 にある問1を見てみよう。

問1 rank(`A`) = rank(`{::}^tA`) を示せ.

`A` は `m` 行 `n` 列とし、階数を `r` とする。本書 p.140 以下の定義にしたがって示すことにする。 `m` 行 `n` 列の行列の標準形 `D(m, n;r)` を次のブロック行列で定義する:

`D(m, n;r) = ((I_r,O_(r, n-r)),(O_(m-r, r),O_(m-r,n-r)))`

ここで `I_r` は `r` 次の単位行列を、`O_(p,q)` は `p` 行 `q` 列の零行列を表す。

定理 4.8 (本書 p.140) より、任意の `(m, n)` 型行列 `A` に対して,

`PAQ = D(m, n;r)`
となる `m` 次可逆行列と `n` 次可逆行列 `Q` が存在する(`r` は `A` のみによって決まる整数)。 この両辺の転置をとる。左辺は
`{::}^t(PAQ) = {::}^tQ{::}^tA{::}^tP`
となり、右辺は
`{::}^tD(n, m;r)= D(m, n;r)`
となる。つまり、`{::}^tA` は階数 `r` の標準形に変形できる。ゆえに、`{::}^tA` の階数は `r` である。 (証明終わり)

次に p.145 にある問2を見てみよう。

問2 次の行列の階数を求めよ.

`((1,2,1,2),(1,-1,1,-1),(1,2,2,1))`    `((1,2,-1,4),(3,2,0,2),(0,1,3,2),(3,3,3,4))`

まず左側の行列を対象に基本変形を施す。最初は行の変形を行う。

`((1,2,1,2),(1,-1,1,-1),(1,2,2,1)) overset("(a)")(rarr)  ((1,2,1,2),(0,1,0,1),(0,0,1,-1))`

この (a) の変形は、第2行から第1行を引いたものに-1/3 を掛け、第3行から第1行を引いている。 さて、本書では行の基本変形のあと列の基本変形を行って行列の標準形 `D(m,n;r)` までもっていっているが、 理系のための線型代数の基礎の pp.41-42 では、 行列の階数を計算するのに行列の標準形までもってゆく必要はないという。行に関する基本変形のみを用いて、 ある種の行列(階段行列)にまで変形すれば、その階段の数が階数であるという。階段行列については、 「理系のための……」を参照のこと。ということでこの事実を認めれば列に関する基本変形を省略できる。 階数は 3 である。

次に右側の行列を対象に同様に行のみの基本変形を施す。(a), (b), (c) の手順については割愛する。 結果だけ見れば、階数は 3 である。

`((1,2,-1,4),(3,2,0,2),(0,1,3,2),(3,3,3,4))   overset("(a)")(rarr)   ((1,2,-1,4),(0,-4,3,-10),(0,1,3,2),(0,-3,6,-8))`
`((1,2,-1,4),(0,1,3,2),(0,-4,3,-10),(0,-3,6,-8))   overset("(b)")(rarr)   ((1,2,-1,4),(0,1,3,2),(0,0,15,-2),(0,0,15,-2))`
`((1,2,-1,4),(0,1,3,2),(0,0,15,-2),(0,0,15,-2))   overset("(c)")(rarr)   ((1,2,-1,4),(0,1,3,2),(0,0,1,-2//15),(0,0,0,0))`

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

誤植

書誌情報

書 名行列と行列式1
著 者砂田 利一
発行日1996 年 8 月 27 日
発行元岩波書店
定 価2分冊合計定価 3495 円(本体)
サイズ**版 204 ページ
ISBN
その他越谷市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi