まえがきから引用する。
本書は小川束が執筆した第Ⅰ部と,平野葉一が執筆した第Ⅱ部からなっていて,互いに独立して読むことができる.
第Ⅰ部は日本数学史に関する話題から,建部賢弘による円周率の計算や円弧長の無限級数への転回計算を取り上げる.(中略)
第Ⅱ部は西洋数学史を中心とする話題を取り上げているが,(中略)ここでは, 数学という学問の思想的展開を概観することに重きを置きながら西洋数学史を理解できるように心がけた.
文中の問・解答はない。
私のような、頭が弱い者にはわからない。ただ、少しは問題をやってみよう。pp.35-36 から引用する。 ここでは、建部賢弘の円周率計算に関する部分が訳出されている。 この訳では〇記号で前半と後半が区切られている。
まず前半部分は,次のような手続きを示している.
ここで `q_i` は非負整数である.`q_n, r_n` が第 `n` の商と剰余である.これはユークリッドの互除法に他ならない.`pi = 1 * q_1 + r_1, 1 = r_1 * q_2 + r_2`,
`r_1 = r_2 * q_3 + r_3, r_2 = r_3 * q_4 + r_4`,
`r_3 = r_4 * q_5 + r_5, cdots`,
`r_n = r_(n+1) * q_(n+2) + r_(n+2)`(1.17)続いて,〇印以降の後半部分は,以下のように近似分数を作ってゆくことを述べる.
`P_1 = 1, Q_1 = q_1` として `Q_1/P_1` (一等の弱率),
`P_2 = P_1*q_2, Q_2 = Q_1 * q_2 + 1` として `Q_2/P_3` (二等の強率),
`P_3 = P_2*q_3 + P_2, Q_3 = Q_2 * q_3 + Q_1` として `Q_3/P_3` (三等の弱率),
`P_4 = P_3*q_4 + P_2, Q_4 = Q_3 * q_4 + Q_2` として `Q_4/P_4` (四等の強率),
一般に,
を,`n` 等の強率(`n` が偶数のとき),`n` 等の弱率(`n` が奇数のとき)と呼ぶ.(中略)`Q_n/P_n = (Q_(n-1)*q_n + Q_(n-2))/(P_(n-1)*q_n + P_(n-2)), quad n ge 2`(1.18)以上は連分数による計算である.実際,(1.17) より
で与えられる.すなわち,`pi/1 = q_1 + 1/(q_2 + 1/(q_3 + 1/(q_4 + 1/(q_5 + cdots)))) -= [q_1, q_2, q_3, q_4, q_5, cdots]`(1.19)`[q_1, q_2, cdots, q_n] = Q_n/P_n = (Q_(n-1)*q_n + Q_(n-2))/(P_(n-1)*q_n + P_(n-2))`である.(読者はこれを数学的帰納法で証明されたい.)
読者に宿題が課されてしまった。仕方がないのでやってみる。なお、(1.18) では `n gt 2` としているが、 そうすると `P_0 = 0, Q_0 = 1` という本書には書かれていない条件が新たに必要となる。それはそうと、数学的帰納法で証明する。
`n = 2` のとき、(1.18) から、
`P_2 = P_1 * q_2 + P_0 = P_1*q_2`、
`Q_2 = Q_1 * q_2 + Q_0 = Q_1 * q_2 + 1`
で確かに正しい。
`n = k` のとき、(1.18) が正しいと仮定する。すなわち、
`[q_1, q_2, cdots, q_(k-1), q_k]` = `Q_k/P_k = (Q_(k-1)*q_k + Q_(k-2))/(P_(k-1)*q_k + P_(k-2)) `
が成り立つと仮定する。ただし、左辺は (1.19) の記法を用いた。
`n = k+1` のとき、連分数の定義から、左辺は `q_k` を `q_k + 1/q_(k+1)` で置き換えた式である。よって、
`[q_1, q_2, cdots, q_(k-1), q_k, q_(k+1)] = [q_1, q_2, cdots, q_(k-1), q_k + 1/q_(k+1)]`。
このとき分母 `P_(k+1)` と分子 `Q_(k+1)` を計算する。
分母` = P_(k-1)(q_k + 1/q_(k+1)) + P_(k-2) = P_(k-1)/q_(k+1) + P_(k-1)q_k + P_(k-2) = P_(k-1)/q_(k+1) + P_k`
分子` = Q_(k-1)(q_k + 1/q_(k+1)) + Q_(k-2) = Q_(k-1)/q_(k+1) + Q_k`
よって、`Q_(k+1) / P_(k+1) = (Q_(k-1)/q_(k+1) + Q_k)/(P_(k-1)/q_(k+1) + P_k) = (Q_k*q_(k+1) + Q_(k-1))/(P_k*q_(k+1) + P_(k-1))`
これは、`P_n` と `Q_n` に関する漸化式が `n = k+1` でも成り立つことを示している。よって証明された。
p.44 下から 10 行目、その方法はよくわからないが,はやり(1.23)を用いたのであろう
とあるが、正しくは、
《その方法はよくわからないが,やはり(1.23)を用いたのであろう》だろう。
p.128 上から 3 行目、問題に異動があったり,本文の異動も多い.
とあるが、
正しくは、
《問題に異同があったり,本文の異同も多い.》ではないか。
数式記述は ASCIIMathML を、 数式表現は MathJax を用いている。
書名 | 数学の歴史 |
著者 | 小川束、平野葉一 |
発行日 | 2003 年 7 月 5 日(初版第 1 刷) |
発行元 | 朝倉書店 |
定価 | 3400 円(本体) |
サイズ | 276ページ |
ISBN | 4-254-11597-0 |
その他 | 草加市立図書館で借りて読む |
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