小國 健二:応用例で学ぶ逆問題と計測 |
作成日:2011-11-20 最終更新日: |
逆問題を解くうえで必要となる基礎と応用を解説する。 基礎の部は魔方陣を例にして逆問題を解くうえでの線形代数学を概観する。 応用の部は3種類の基礎的な偏微分方程式について、逆問題上の性格を数値実験により例示する。
個人的に興味を持っているテーマがいくつかある。逆問題もその一つである。 この本も、背表紙を見ただけで即買った。
私が手に入れた本や雑誌の中では、これが一番わかりやすい。
同書ではこの種の逆問題を、角砂糖を例に出して次のように象徴的に示している。(p.87)
シャーレの中に角砂糖と水が入っています。角砂糖は水に溶けていき,糖分はシャーレの中を拡散していきます(図は省略)。 このとき,シャーレの側壁の近傍で砂糖水の時刻歴を計測できたとします。
- 角砂糖はシャーレの中のどの位置にあったのか?
- 角砂糖のもとの大きさは?
- 角砂糖の形は?
最後の問いには「角砂糖だから立方体だろう」と答えるのは野暮というものだろう。それはともかく、 正面から突破するためには拡散方程式を立てるのが先決だ。
p.89 では 1 次元拡散現象の逆問題を考えている。まず、通常の初期値境界値問題は次の式で与えられる。ただし、`kappa` は拡散係数である。
`(del T(x,t))/(del t) = kappa (del^2 T(x,t))/ (del x^2) quad (0 lt x lt 1, quad t gt 0) `
境界条件は次のとおりである。
`T(0, t) = T(1, t)= 0 quad (t ge 0)`
初期条件は次のとおりである。
`T(x, 0) = f(x) quad (0 le x le 1)`
逆問題は「棒の両端での温度勾配の履歴を計測し、そのデータを用いて初期温度分布 `T(x, 0) = f(x)` を推定する」というものである。
この問題を調べていくとわかるが、この逆問題は極めてたちが悪いことがわかる(いわゆる悪条件 - ill-posed problem である)。
著者は角砂糖の問題に対する答として、
「シャーレの中に計測点を配置すれば,角砂糖の形も,ある程度忠実に再現できる」では,反則気味の感は否めません。
と述べている。
私も計測分野に足を突っ込んだことがあるが、何度も計測物体の内部に熱電対を突っ込みたいと思ったものである。
書 名 | 応用例で学ぶ逆問題と計測 |
著 者 | 小國 健二 |
発行日 | 平成 23 年 2 月 18 日 第1版第1刷 |
発行元 | オーム社 |
定 価 | 3400円(本体) |
サイズ | A5判 242ページ |
ISBN | 978-4-901998-56-7 |
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