51 人の寄稿者による数学書の推薦など。
たいていは寄稿者が感動した本や役に立った本を挙げているが、中にはそうでないのもある。
たとえば、ある寄稿者は一松信著の『解析学序説』(裳華房)を挙げている。
その紹介の仕方がおもしろい。
まず、
初版は微積分に関係する面白い話題が網羅されていて,
読んでいて面白い本である.
としている。
ところが、この初版は絶版でその後,改訂版が出版されたが,
面白いところがすべて削除されてしまっており,
お勧めできない.
と語っている。初版本がよいというのは珍しいことだ。
もう一つ面白いのは、下巻における多変数の微積分が厳密に取り扱っているのが重要な点と書いてあって、
返す刀で有名な高木貞治著『解析概論』の多変数の取り扱いは杜撰の一語に尽きる.
なぜ名著なのか理解に苦しむ書き方である
としている。
多変数函数論の数学書としては、 やはり一松信の『多変数解析函数論』(培風館) がこの寄稿者から、 また別の寄稿者からも挙げられている。実は、私の学生時代の解析学の教官が 多変数関数論という数学書を刊行したことを知り、 買って読んでみたら、やはりこの一松信の著書を参考書として挙げていた。
解析学の祖といえばニュートンとライプニッツである。ニュートンの著作といえば、 ラテン語で書かれた『プリンキピア』であるが、これに対する評価もさまざまである。
ある寄稿者は創始者のニュートンの本で微積分を勉強することは不可能である.
主著『プリンキピア』(『自然哲学の数学的諸原理』,河辺六男訳,中央公論社)
には今のような微積分は見当たらない.
同時代人の非難を恐れて,すべてユークリッド幾何の言葉で書かれている.
お陰で難解で,なによりアイディアの湧き口が見つからない.
と評している。
一方で、別の寄稿者はニュートンの『プリンシピア』(講談社)を挙げている。
指導教官から言われたこととして、偉い数学者の全集などを読んでみるとよい,
それはアイディアの宝庫である,と.ニュートンのプリンキピアもまさにそうした本の一つではないでしょうか.
しかし,山に例えればエベレストのようなプリンキピアに一人で登るのは危険が大きいので,
本書のような優れたガイドが必要だと思います.
と述べている。
このガイドとは、『チャンドラセカールの「プリンキピア」講義』(講談社)のことである。
こちらの寄稿者はチャンドラセカールの解説を通じて読むと,
楕円積分に関してのニュートンの幾何学的な着想の豊かさがよくわかります.
と述べている。
うーん、どちらが本当なのだろう。
ある寄稿者は、本の推薦は,書評より何倍かの重荷を負う.逆の,こんな本は読まない方がいい,
ならばいくらでも思いつくが,実名入りでは憚られる.
と述べている。
私としては読まない本をたくさん挙げてもらうほうがいいのだが、さすがにそれはできないのだろう。
この寄稿者はその少し前で例えば定番だったポントリャーギン『連続群論』も悪い本ではないが,
現在「大学数学入門」として適切かどうか判らない.
と言っている。その理由は直接本にあたってもらいたい。
他の寄稿者は『連続群論』をよい本としてほめているから、なかなか面白いものである。
書名 | この数学書がおもしろい |
著者 | 数学書房編集部編 |
発行日 | 2011 年 7 月 15 日 (増補新版第1刷) |
発行元 | 数学書房 |
定価 | 2000 円(本体) |
サイズ | |
NDC | |
ISBN | 978-4-903342-64-1 |
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