副題は「―理論を中心に―」
本書の題名にある「数理系のための」というのは、端的に言えば数学科のための、ということだろう。 内容を見てみると、マニアックという感じがする。 特に、pp.153-pp.158 にある初等関数で表せない不定積分の証明の概略や、 p.188 にあるクラインの壷を描く曲面表示などを見ていると、そう思う。
pp.84-85 を引用する :
昔は一時期,高校でも極座標により
の形で定義された平面領域の面積を計算する公式`0 le r le f(theta), quad alpha le theta le beta`(7.17)が教えられていたことがありますので,まず手始めにこれの証明からやりましょう. 領域 (7.17) は,半径が `r_i ≒ f(theta_i)` で中心角 `Delta theta_i` が非常に小さい扇型`int_alpha^beta 1/2 f(theta)^2 d theta`(7.18)の集まりと考えられます. (中略) (7.19) の面積ですが,どうせ本当の扇形ではないのですから, 上のように丁寧に計算しなくても,底辺が `r_i Delta theta_i` で高さが `r_i` の二等辺三角形だと思って計算しても`0 le r le r_i, quad theta_(i-1) le theta le theta_i = theta_(i-1) + Delta theta_i`(7.18)`1/2 r_i Delta theta_i xx r_i = 1/2 r_i^2 Delta theta_i`と同じ値が得られます.こちらの考え方の方が適用範囲が広いので, こういう思考法にも慣れておきましょう.
これと少し似た面積の求め方で本書にはない方法をついでに書いておく。パラメータ `t` で表わされる曲線 `x = x(t), y = y(t), quad a le t le b` が点`A(x(a), y(a))` と 点`B(x(b), y(b))` の間で定義されているとする。 線分 OA , OB と曲線 AB で囲まれた領域の面積を求める公式を求める。この領域は、 曲線 AB 上の点 `(x, y)` と同じく 曲線 AB 上の点 `(x + Deltax, y + Delta y)` と点 O からなる三角形の集まりと考えられる。このような三角形一つ分の面積は、 `1/2 (x + Deltax )(y + Deltay) - 1/2 xy 1/2(y+y+Deltay)Deltax = 1/2(xDeltay - yDeltax)` であると考えられる。全面積の近似値はこれらの総和で与えられる。分割を細かくした極限として、
簡単な例として、円の方程式のパラメータ表示 `x = cos t, y = sint (0 le t le pi/2)` を用いて4分円の面積を求める方法を紹介する。 `dot x = - sint , dot y = cos t` であるから求める面積を `S` とおいて、
これはわざわざパラメータ表示を持ち出さずとも簡単に計算できる例だが、 `t` が増大するにもかかわらず `x = x(t)` が単調に増大しない曲線の場合にこそ威力を発揮する。 曲線のカタログに出ている例で計算するといいだろう。なお、 安田 亨 : 東大数学で1点でも多く取る方法―理系編―、東京出版 の書評も参照してほしい。
pp.143-144 で、`tan z` のテイラー展開を導出する過程で次の説明がある。 なお、`B_n` は、数学の各所(たとえば複素関数)で出てくるベルヌーイ数である。 ただし、リンク先のベルヌーイ数とは定義が異なるので注意。
例 8.8 `tan z` の原点における Taylor 展開 :
まず `cot z` から始めます.(中略)あるいは`tan z = sum_(n=1)^oo (2^(2n) (2^(2n) - 1)B_n)/((2n)!) z^(2n-1)`(8.29)という公式が得られます.`tan z` を求めるのにこの逆数をとったりすると, 今までの苦労が水の泡になります. この場合は次のようなうまい工夫があります.`z/2 cot {:z/2:} = 1 - sum_(n=1)^oo (B_n z^(2n))/((2n)!)`(8.30)この式は初等的な計算で確かめられるので読者の練習問題としておきます. 求める展開 (8.29) はこれに cot の展開を代入すれば直ちに得られます.`tan z = cot z - 2 cot 2z`(8.31)
ということで、初等的な計算で確かめられるというのでやってみた。右辺を計算して、 左辺に等しくなることがいえればよい。
これぐらいの計算ならまだできる。
p.254脚注:一様収束の概念を熱く講義した後で,学生に“一様連続とどう違うの?”などと聞かれると, 先生はがっくり来るのが普通ですが,このように逆襲してあげましょう.(^^;)
アレクセイカーネンコ応用数理研究室(www.kanenko.com) からたどることができる。
このページの数式は ASCIIMathML で記述している。
書名 | 数理系のための基礎と応用微分積分Ⅱ |
著者 | 金子 晃 |
発行日 | 2002 年 10 月 25 日 初版第 2 刷発行 |
発行元 | サイエンス社 |
定価 | 1,950 円(本体) |
サイズ | A5 版 267 ページ |
ISBN | 4-7819-0991-4 |
NDC | |
備考 | 越谷市立図書館で借りて読む |
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