「はじめに」から引用する:
本書は,集合・位相・代数に関する初歩的な知識を前提にして,
数学基礎論(Methematical Logic,数理論理学,通称「基礎論」)
の初歩を一通り学べることを目指して書かれている.
こういっては身もふたもないのだが、私は数学基礎論を勉強したくてこの本を借りたのではない。 私のように頭が弱く、また学問取得における真剣さも持ち合わせていない者にとっては、 数学基礎論など勉強すべきではない(もっともこれはどんな学問のどんな分野にも言えるだろうが)。 だからここに書くことは書評ではなく、ただの感想文である。
本書の構成の xii ページには、補遺 A では,本文で述べることができなかった証明をみっつほど書いておいた.
と記されている。みっつということばづかいがかわいいと思ったが、証明はどのようにして数えるのだろうか。
もっていえば、命題はどうやって数えるのだろうか。一つ、二つ、三つ、でいいのだろう。
新明解国語辞典(第五版)を見ても、「命題」や「問題」の項に、「かぞえ方」は載っていなかった。
p.14 6行め 次の誤植があった。
ここではつぎのことだけ強調しおく → ここではつぎのことだけ強調しておく →
p.55 から引用する
(前略)例えば「`x` は `y` の約数 `x|y`」とか 「`x` からそれ以下の `y` を引き算する `x ∸ y`」(小学校の引き算)等々.
この「小学校の引き算」は、「帰納的関数」にもあるとおり、 マイナス記号の上にドットがある。 老眼になって、このドットを見落としがちになるので注意が必要だ。
p.86 から引用する:
定理 2.5.4 関係 `R(vecx)` が半計算可能であるのは, それが `Σ_1^0` であるとき,すなわちある計算可能関係 `S` により
`AAvecx[R(vecx) harr EEyS(vecx,y)]`と表せるときである.
`Σ_1^0` のシグマは本来は Σ のような斜体でないといけないが、 ASCIIMath では書き方がわからなかった。ご容赦いただきたい。 ともかく、`Σ_1^0` の定義がない。すなわち…以下で説明しているのが定義なのだろうが、なかなか大変である。
節 3.1 「3章の前書き」のpp.95 - 96 にかけて文脈は一切無視して、 本文と注を引用しよう:
(前略)ところが,いま自然数についての数学を形式化した公理系 `bb P bbA` において, 算術化を経て自然数論の一部となった,記号列に関する数学が,形式化されて埋め込まれてほしいのでせめて
`"Pr"(|~A~|) => bb P bbA |-- □ |~|~ A ~|~|`
であってほしい*2
2. ほんとはここは同値であってほしいが,それはある意味では絶対達成できない. `bbP bbA` の健全性を仮定しない限り.
脚注のほんとは
などということばの選び方から、無念さが伝わってくるようではないか。
なお、`|~|~ * ~|~|` という記号は実はいかさまで、LaTeX で \llceil \rrceil で表される、
天井関数の記号 `|~ * ~|` の縦棒が二重になったもので書かれている。
この節の最後は次のように締めくくられている:
畳の上の水練はこのくらいにしておこう.
これから先の不完全性定理の解説を理解することは、嵐の大海を泳ぐように難しいということなのだろうか。
p.154 を引用する
関数 `clps` を( `(:A, lt :)` 上,もしくは単に `A` 上の)Mostowski つぶし関数 (Mostowski collapsing function)と呼び, その値 `clps(x)` を `x` の Mostowski つぶし(Mostowski collapse)という.
つぶし
とは物騒なことばだと思ったが、もとの collapse が「崩壊」などの意味を持つ以上、
物騒になるのは仕方がないのだろう。
p.196 を見ると、ベートという文字が目に留まった。果たしてヘブライ語だった。ヘブライ語のアルファベットは、 アレフ(ℵ)から始まり、次はベート(ב)である。数学では集合の濃度を表すときに、 アレフやアレフゼロはけっこう使うが、ベートを使うのは初めて見た。 本書ではベートの意味と使い方を説明しているが、 私にはさっぱりわからない。
p.207 を引用する
(前略)`"L"(C)` を `"L"` のヘンキン拡張として補題 1.4.13 より. `"T"` のモデルになる `"L"(C)-` 標準構造 `cc(M)` が存在する.(後略)
一瞬<ペンギン拡張>と読み間違えたが、ここでは Henkin 拡張のことで,p.33 で説明されている。 ここだけカタカナになった理由は不明である。
p.302 には次の定義がある。
定義 6.2.19 1.無限ではあるが,半計算可能な無限集合を含まない集合を抗体持ち(immune)という.
`I` が抗体持ちということは, どんな半計算可能無限集合 `W_e` の攻撃もかわす(`W_e \\ I != O/`)ということである. あるいはやせているということである.
2. (略)
攻撃もかわす
とはどういうことだろう。そしてやせている
とはどういうことだろう。
残念ながら私の力ではわからなかった。
p.312 から引用する:
(前略)この時点での条件 `R_(2e)` は優先度の高い `R_(2f+1)` により覆されてしまい, `x_(2e)^(t+1) le t` と新たに設定し直される. しかしこの「賽の河原積み」は各 `e` について有限回しかなされず,極限 `x_e = lim_(s->oo) x_c^s` が存在することが分かる(cf. 補題 6.4.2).(後略)
なお、覆されてしまい
という表現はあるが、「覆す」という用語はこの引用にすぐ前で定義されている。
「覆す」というのは、賽の河原で子供が積み上げた石を鬼が壊す行為に見立ててこの用語を当てているのだろう。
定義の箇所を見ると、「覆す」の言語は injure である。
p.399 から、ベールの定理に関連した記述を引用する:
(前略)`Y sub RR` が痩せた集合(meager set)あるいは第1類集合(first set)であるのは,(後略)
私が関数解析を勉強している最中に「痩せた集合」という用語を見て、目を丸くしたことがある。 このことばは数学の中では一般的なのだろう。
p.432 から引用する:
(前略)論理式の有限集合 `A_0, ldots, A_(n-1) quad (n gt 0)` を推件(sequent)と呼ぶ. そのココロは論理和 `vvv_(i lt n) A_i` である.(後略)
推件という訳は、sequent (シーケント)の読みに似せた、いわゆる音訳だろう。他の書籍、 たとえば、 ソフトウェアのための論理学ではそのままシーケントで通していたと思う。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | 数学基礎論 増補版 |
著者 | 新井 敏康 |
発行日 | 2021 年 4 月 9 日(増補版第1刷) |
発行元 | 東京大学出版会 |
定価 | 5400 円(本体) |
サイズ | A5版 588 ページ |
ISBN | 978-4-13-062927-0 |
その他 | 越谷市立図書館にて借りて読む |
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