青本 和彦 : 微分と積分 1

作成日 : 2021-08-10
最終更新日 :

概要

「まえがき」より 本書は,高校程度の数学の教科を修了した人,あるいは現在学びつつある人や, 大学初年級の学生などを対象に書いた微分積分の入門書である. 「学習の手引き」によれば,本書全体を通じて,筆者はいろいろな関数とその性質を提示しながら, 微分,積分は何をする学問であるかを,読者に直感的にわかりやすく感じとっていただくように配慮した. したがって,より厳密な証明や原理的な展開についてはあまり詳細には述べていない部分もある. 本講座「微分と積分 2, 3」にあらためて詳しく述べられるので, そちらも参照していただきたい. とある。言い忘れたが、本書は「岩波講座 現代数学への入門」全 10 巻( 20 分冊) の第 1 冊にあたる。第2冊は高橋陽一郎著「微分と積分 2 」、 第3冊は俣野博著「微分と積分 3」 である。 本書は、同講座の砂田利一著「行列と行列式1」と同時配本である。 また、この本の内容は後に「微分と積分〈1〉初等関数を中心に」という名前でまとめられ単行本化されている。

感想

高校数学の延長のような題材を扱っているが、論理も重視している。その程度が私にはちょうどいい。 第1章の「数列と関数」では、`epsilon - N` 論法も扱っている。 また、関数の連続性についても、厳密な定義はいわゆる `epsilon - delta` 論法を用いることも、 注意の形で示している。ただ、この厳密性の詳しい解説は「微分と積分 2, 3」に譲っていることも述べている。

問題

p.105 に、次の問題がある。

2.7 `f(x) = (alpha x + beta)/(gamma x + delta)` のとき

`(f'''(x) )/ (f'(x)) - 3/2 {(f''(x))/(f'(x))}^2 = 0`
を示せ.(この左辺を `f(x)` のシュワルツ (Schwarz) 微分と言う.)

数学の概念には人の名前が付けられることが多い。 積分では、一般的な関数の積分としてリーマン積分、スティルチェス積分、ルベーグ積分などが有名で、 特別な関数の積分としてガウス積分やフレネル積分などがある。 微分でも人の名前がつく積分はフレシェ微分やガトー微分、新しくは広田微分などがあるが、 積分に比べれば人の名前が付けられることが少ないように思っている。 シュワルツ微分というのは初めて聞いた。ここでシュワルツとは、 カール・ヘルマン・アマンドゥス・シュワルツ(Karl Hermann Amandus Schwarz)のことで、 コーシー・シュワルツの不等式やシュワルツの提灯で有名な数学者である。 超関数論で有名なローラン・シュワルツ(Laurent Schwartz)と混乱しないようにしたい。

それはともかく、計算してみよう。

`f(x) = (alpha x + beta)/(gamma x + delta)`
`f'(x) = alpha / (gamma x + delta) - gamma (alpha x + beta) / (gamma x + delta)^2 = (alphadelta - betagamma)/(gamma x + delta)^2`
`f''(x) = -2gamma(alphadelta - betagamma)/(gamma x + delta)^3`
`:.(f''(x)) / (f'(x)) = -2 gamma 1/(gamma x - delta)`
`{(f''(x)) / (f'(x))}^2 = 4 gamma^2 1 / (gamma x- delta)^2`
`f'''(x) = 6gamma^2(alphadelta - betagamma)/(gamma x + delta)^4`
`:.(f'''(x)) / (f'(x)) = 6gamma^2 1 / (gamma x- delta)^2`
`:.(f'''(x)) / (f'(x)) - 3/2 {(f''(x)) / (f'(x))}^2 = 6gamma^2 1 / (gamma x- delta)^2 - 6gamma^2 1 / (gamma x- delta)^2 = 0`

見事に 0 になった。なお、シュワルツ微分は次の等式の左辺の形に書かれることもある。

`{(f''(x) )/ (f'(x))}^' - 1/2 {(f''(x))/(f'(x))}^2 = 0`

「岩波講座 現代数学への入門」の数式は、`(dy)/(dx)` の `d` や、虚数単位の `i`、 自然対数の底 `e` などはすべて斜体である。一方、これより少し前に刊行された「岩波応用数学」 の数式は、これらの d, i, e はすべて立体である。「岩波応用数学」の執筆者は工学者が多いので、 JIS Z 8201-1981 に配慮して立体にしたのだろう。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

誤植

書誌情報

書名微分と積分 1
著者青本 和彦
発行日1995 年 10 月 5 日
発行元岩波書店
定価2 分冊合計定価 3495 円(本体)
サイズ**版 204 ページ
ISBN
その他越谷市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi