中島 匠一 : 代数方程式とガロア理論

作成日 : 2016-11-05
最終更新日 :

概要

ガロア理論の懇切丁寧な教科書。

感想

少しずつ読み進めているが、なかなか読み通せない。

対称式について

p.33 では対称式について解説されている。そこで、対称式と呼ぶ対象は,あくまでも多項式である. その意味で,対称式のことは対称多項式などと呼ぶほうが正確であろうが,単に対称式と呼ぶのが習慣なのでそれに従うことにする. とある。対称多項式でない対称式があるのだろうか、と思った私はバカだった。 p.39 で、有理式(中略)に対しても,(中略)対称有理式が定義される.とある。そうか。多項式だけではなくて、有理式も対称性が定義されるのだ。 言われれば当たり前のことだけれど、なかなか気が付かない。

対称有理式が基本対称式の有理式で表されること

p.39 で次の命題が掲げられている。

体 `K` 上で,変数 `t_1, cdots, t_n` に関する対称有理式は基本対称式 `s_1, cdots, s_n` の有理式で表される.つまり,`K` を体とするとき, `f(t_1, cdots, t_n) in K(t_1, cdots, t_n)` が対称有理式なら,有理式 `g(T_1, cdots, T_n) in K(T_1, cdots, T_n)` で `f(t_1, cdots, t_n) = g(s_1, cdots, s_n)` を満たすものが存在する.

この証明で、`f` が次のように表されているものとする
`f(t_1, cdots, t_n) = (h_2(t_1, cdots, t_n)) / (h_1(t_1, cdots, t_n)) quad (h_1(t_1, cdots, t_n), h2(t_1, cdots, t_n) in K[t_1, cdots, k_n])`

著者は、ここで `h_1` と `h_2` がおのおの対称式であれば話は簡単であるが,そうなっているとは限らない (`h_1, h_2` が対称式でなくても,それらの商である `f` が対称有理式になることはありうる). と述べている。そんなことがあるのだろうか。

いかさまくさい例であるが、
`g(t_1, t_2) = (t_1^2-t_2^2) / (t_1 - t_2)`
はどうだろうか。これは、分子と分母に `(t_1 - t_2)` という共通因子があるからこれで分子分母を割ると `t_1 + t_2` が出てくるからよし、 と感じているのだが、必ずしもこうやって共通因子がある場合とも限らないだろう。

さてここから先の証明は別の本でトリッキーと称されているので、後を追っていくことには今は怯えを感じる。

演習問題

pp.198-199に次の演習問題がある。これが解けない。

次の主張が正しいか正しくないか答えよ.ただし,`a, b` は実数だとする.

  1. `a` が無理数ならば `a^2` も無理数である.
  2. `a` が超越数ならば `a^2` も超越数である.
  3. `a^2` が無理数ならば `a` も無理数である.
  4. `a^2` が超越数ならば `a` も超越数である.
  5. `a` と `b` が両方とも超越数ならば,`a + b` と `ab` は両方とも超越数である.
  6. `a` と `b` が両方とも超越数ならば,`a + b` か `ab` のどちらかは超越数である.
  7. `a` と `b` のどちらかが超越数ならば,`a + b` と `ab` は両方とも超越数である.
  8. `a` と `b` のどちらかが超越数ならば,`a + b` か `ab` のどちらかは超越数である.

以下は私が考えた結果だが、誤っている可能性が大である。

1. は正しくない。`a = sqrt(2)` とすれば、`a` は無理数だが `a^2 = 2` なので有理数となり、矛盾。

2. は正しい。超越数とはなにか参照。

3. は正しい。対偶は「`a` が有理数であれば、`a^2` は有理数である」である。 これは, `p, q` を整数とすれば `a = q/p` と表せ、`a^2 = q^2 / p^2` であり、これも有理数である。 よって対偶が正しいことから証明された。

4. は正しい。超越数とはなにか参照。

5. は正しくない。`a = pi, b = -pi` とすれば、`a + b = 0` となり、`a + b` は有理数である。

6. は正しい。超越数とはなにか参照。

7. は正しくない。`a = pi, b = -pi` とすれば、これは`a` と `b` のどちらかが超越数の場合となっている。 このとき、5. で見た通り、`a + b = 0` となり、`a + b` は有理数である。

8. は正しい。`a` も `b` も超越数であれば、6. により正しい。 `a` が超越数で `b` が代数的数の場合は、`a` + `b` も `ab` も超越数である。 `a` が代数的数で `b` が超越数の場合も同様。よって、8. は正しい。

作用

本書巻末の付録Aは「必要事項のまとめ」である。ここの p.398 で群の作用について定義されている。 以下引用する:

`G` を群とし群の演算を `**` で表す.また,集合 `X` が与えられていて, 任意の `sigma in G` と `x in X` に対して `sigma * x` と表される `X` の元が定まっているとする. (中略)この `sigma * x` に対して,2 つの条件
(GA1) 任意の `sigma, tau in G` と任意の `x in X` に対して, `sigma * (tau * x) = (sigma ** tau) * x` が成立する
(GA2) 任意の `x in X` について `varepsilon * x = x` が成り立つ (`varepsilon` は `G` の単位元を表わす)
が成り立つとき,`(sigma, x) |-> sigma * x` は `G` の `X` への作用(action) である ( または,作用を定める)という(後略)

ガロア理論の頂を踏む」では、 「作用」の定義がないためにわかりにくい個所がある。

数式記述

数式は MathJax で記述している。

書誌情報

書名代数方程式とガロア理論
著者中島 匠一
発行日2013 年 9 月 15 日(初版 5 刷)
発行元共立出版
定価4000 円(本体)
サイズA5 判 444 ページ
ISBN978-4-320-01696-5

まりんきょ学問所数学の部屋数学の本 > 中島 匠一 : 代数方程式とガロア理論


MARUYAMA Satosi