「はじめに」から引用する。
この本は,「一般の 5 次方程式が根号では解けないことのきちんとした証明を
いちばんやさしい筋道で理解し感得する」
ことを目指しています。
以下はただの感想文である。
本書ではガロアの定理を感得するまでの過程を山登りにたとえている。そして、用意する定理群の順序を 山登りのルートになぞらえている。著者は「はじめに」でやはり山登りにたとえて次のように言っている:
縦走して特定の峰を目指すとき,尾根道をルートにとるといくつも山を乗り越えアップダウンを繰り返さなければならないものですが, 巻き道(頂上を迂回する道)をとることでゆるやかに目的のピークに達することができます。 この本では,読者の負担を減らすために巻き道をとっているところがいくつかあります。
著者の言っていることはわかるつもりだ。 ただ、登山での巻き道は起伏は少ないが迂回する道だから一般に時間はかかるし、峰々からの眺望も楽しめない。 それと同じことは本書でもいえると思う。読者の(少なくとも私の)負担は減るが、時間はかかる。 しかし、アップダウンの繰り返しに疲れて山頂にたどり着けないのであれば意味がないから、 時間はかかっても負担の減る巻き道をしたのは良い選択だと思う。 以前の勤務先で、私を含めて 4 人でちょっとした登山をした。 リーダーは山登りのベテランで尾根の縦走にやる気まんまんだった。しかし、 口うるさい人がいてすぐに疲れた疲れたを連発して「巻いていきましょう、巻いて!」と連呼していたので、 やむなくリーダーは峰に出会うたびに巻き道を選択せざるを得ないのだった。 この「はじめに」を読んで、その口うるさい人を思い出したのだった。
pp.8-9 に、ピークまでのルートと題する地図があり、本書での峰々とその巻き道が書かれている。
pp.10-13 は本書の概要であると同時に pp.8-9 のルートの説明でもある。
注意してほしいのは、地図に描かれている峰々の巻き道は曲線ではなく、直線で書かれている。つまり、
時間がかかることは図からは読み取れない。注意したい。
また地図の語句とルートの説明に使われた語句とにはいくつか乖離がある。たとえば、p.9 の地図にある
「有限群の構造定理」という語句は、p.10 のルートの説明では「有限生成アーベル群の基本定理」
となっている。このようなちょっとした違いが積み重なると本全体がわかりにくくなってしまう。
もちろんこのような不一致はわずかである。
p.9 の「非分離多項式」「有限体のガロア理論」は p.11 でまったく同じことばで出てくる。しかし、
p.11 の本文では次ページの図の「非分離多項式」「有限体のガロア理論」という尾根を進むルート
となっている。もちろんここでは、次ページ
ではなく、pp.8-9 を指す。
こういったちょっとした語句の整合性をとる作業がもっとあればさらに分かりやすくなったのではないだろうか。
もっとも、私が借りたのは第2刷だから、最新の刷では改善されているのかもしれない。
初学者を考慮してか、いくつかの漢字にはルビが振られている。たとえば、
p.101 では
p.102 の定理 2.2 では`g` が部分集合に作用
という要約文がある。この「作用」とは何だろう。
定理の説明を見ても作用という文字は出てこない。その後、p.301 に、
定理 5.10 の要約文には「`Q(x)` に作用する同型写像は `n` 個」という用例があるほか、p.358 の定理 5.22 にもある。
では作用とは何か。「作用は作用だろう」という声も聞こえるが、どうにも釈然としない。
作用ということばはテクニカルタームである。その説明がほしい。どのような説明かというと、
「代数方程式とガロア理論」の評に書いた。
p.38 は次のような文章で始まっている。
左右対称のデザインを見ると,なぜかうっとり見とれてしまうのはぼくだけでしょうか。 そうでない人でも,万華鏡をのぞき見れば, 鏡が作り出すその対称的な模様に
眩暈 を感じたことがある人も多いことでしょう。
眩暈ということばがわからなかった。めまいの意味らしい。国語力も鍛えられた。
数式は MathJax で記述している。
書名 | ガロア理論の頂を踏む |
著者 | 石井 俊全 |
発行日 | 2013 年 9 月 26 日 第 2 刷 |
発行元 | ベレ出版 |
定価 | 3000 円(本体) |
サイズ | A5 判 503ページ |
ISBN | 978-4-86064-363-8 |
その他 | 越谷市立図書館で借りて読む |
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