K2--8000mへの夢--
その2

 15 May.〜 31 Aug.1997 


ABCからのK2西面

幸運と不運
今年のカラコルムは本当に天気が良かった。もちろん崩れることもあったが今年のカラコルム
の登山隊の成功率の高さがすべてを物語っているだろう。ただ、静岡隊と特に神奈川隊の事故については不運としか言えない。実際我々は、スキルブルムのBCの近くを50日に渡って通過していたのだから。
BCよりブロードピーク スキルブルム

頂上へ!

7月19日一次隊が頂上を目指している時、二次隊の4名はC2からC4に向けて移動していた。そしてC4手前でアタックの成功を伝える無線が聞こえた。正直なところ、他人のことをあれだけ喜べる自分が以外だったが、反面何かが崩れ去ったような空虚な気持ちが残った。
そして21日、C5のテントの中で夜半より吹き出した風に不安を覚えながら外を覗くと頂上は厚い雲に包まれてた。風雪の中の下降を余儀なくされる。足取りの重いつらい下降だった。途中G2にきていたG登攀クラブのFの旦那から交信がはいってくる。私の無線機は小型で出力が弱いため発信できなかったが、1P前を下降中の中島さんが応答している。クレバスに落ちたOチャンが無事だったこと、G2は全員が登頂できたこと。そして、GのOBなんだから死ぬ気でとまで言わないが絶対登れよ・・・と。
BCにて給料を待つポーターさん BCよりサヴォイア氷河
ABC C1への雪壁の取り付きにてミキオくん
C2(中央の岩場の下)への登り C2からのブロードピーク
C4へのトラバース C5でくつろぐ

これが最後のチャンスだ。

ABCまで撤退した我々は、全員で協議して7月いっぱいをめどにもう一度トライすることになった。
ABCで2日間の休養をとり、C2へ向かう。これが最後のチャンスだ。悔いの残らないようにがんばろう。C4、C5と進み7月28日早朝アタックをかける。
今回は日本人4人とともにシェルパも4人いるので気丈夫である。彼かにとってもK2はぜひとも登っておきたい対象なのだろう。エベレストを登ったシェルパは山ほどいるがK2を登ったネパール人はまだいないのだから。
そして、アタックは体重のある私が酸素2本を背負い3L/分を吸いながらラッセルする作戦で行くことにする。もちろん、前日には途中までトレースを付けておいた上で。
それでも雪は、ひざから腰下程度で、結構きつかった。14P目で追いついてきたシェルパに代わってもらう。後は時間との競争である。そして11時45分僕らは頂上にたった。
1次隊で登れなかったのは、もちろんくやしいし、このようなスタイルでの登山にも疑問は残る。それでもやはり頂上では、感動したし、舞い上がっている自分がそこにあった。そして何より長年一緒に登ってきた中島さんと一緒に登れたことがうれしかった。
トレースをつけてC5のもどる中島さん 西稜上の顕著なピナクル(左と同じ)
頂上にて 会社の同僚からもらった寄せ書きを掲げる
春の穂高じゃないよ、薄着だけど。

−組織の山、個人の山−

K2を登って何かが変わったか?別に何も変わりはしない。
ただ、仲間と共有した時間と少しばかりの満足感、そしてそれに相反する疑問が残った。
正直なところ私はヒマラヤで今なお繰り返される極地法のことを少々馬鹿にしていた。しかし、組織登山には、組織登山に難しさがある。また、高所で自分がどのように反応するかやスケールの大きさを比較的安全に?経験できるというメリットもある。それは、経験して始めて分かったことである。
登山は本来自由なもので、どんなスタイルで登ろう本人が納得できれば良いと私は思う。
ただ、新ルートへの不用意なFIXの残置は、ある意味フリークライミングでのチッピングによるクライミングに似ているかもしれない。
1部のFIXしか回収できなかったことに後ろめたさが残る。それでも、ボロボロに疲れているであろう1次隊のメンバーらがFIX回収に上部に向かったことには、拍手を送りたい。
ともあれ大方の予想・下馬評を裏切り?予定したルートから登頂できたことは、うれしい誤算である。
成功の要因は天気と仲間に恵まれたこと、田辺さんのタクティクスをはじめ多くの方々の協力の上に成り立っているのだと思う。
BCにて 雪煙を上げる頂上〜BCより〜

エピローグ

エベレストを除くとGの落ちこぼれデコボココンビの勝率は4打数2案打の5割になった。決して高い確率ではないし、内容のある登山をしているわけでもない。それでも、すべてが思い出深く良い山行であったと思えることがうれしい。
気が付けば、いい年をしていつまで・・・なんて言われる年齢になってしまった。最終目標?はもちろん「安らぎと暖かい家庭!」であるがその横で次はどこに行こうかなどと考える自分がいる。
5打席目があるかどうかは分からない。でも、色々なところへいってみたいし、何かを始めなければならない。それが人生を面白くするっこつであると思うし、時には甘めの、時には辛めのスパイスを効かせたいものである。

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