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「アタック二日間の、無線のやりとり」と、
星野さん達との語らい」など |
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ダウラギリ東壁を正面より望む
10月11日 (宮川/C1(6500m)、山田・仕立/C3(7400m)、
本日、山田・仕立の二人がアタック)
明け方4時半。
真上にオリオン輝く星々、左に月も輝く。
朝、向かいのツクチェピークに雪煙が舞う。周りには雲なし、今朝は寒いおそらく−20度以下。
4時半;交信入れる。
山田:「先ほど名塚、続いて仕立が出発した。
私もすぐ出る予定。少しゆるやかな風がある程度。」
宮川:「了解」
5時半;交信(仕立と交信後)
山田:「足の感覚がなく、調子が良くない。C3にバックする。
仕立君は名塚さんに付いて、登れるところまで・・・・」
6時半;交信(山田、仕立のやりとりのあと)
山田:「風がきつくなってきた、仕立君も出直すと言うことで、C3にバックを始めた。
C3で作戦を立て直す。酸素もあるし・・・・。」
その間、サーダーのアンプーリと朝食/ミルクテイーと僕がラーメンを作り、二人で食べる。
アンプーリは、イタリア隊の用でC2へ上がっていく。
僕は、群馬の星野パーテイーのテントにお邪魔し、コーヒをご馳走になりながら、
「僕の家内は、上州女です・・・・」と言う話から、東壁の偵察の結果など、いろいろ話を聞く。
「下部岩壁のルンゼは、氷でつながっている。3段目の壁もベルグラが張っているかな、
と言う感じで、ルート的には繋がっていると、ふんでいる。」とのことであった。
3人とも、寡黙だが落ち着いた人柄で、明日から命運を懸けた東壁に挑む、
と言うような悲壮感やうわつきは全く感じず、ゆっくりと今日の休養を楽しんでいた。
8時10分;交信
山田:「あと10歩で、C3に入る」
9時前;C3と、BCのダワとの交信入る。
山田:「本日のアタックは失敗。風も強い。
二人とも(山田・仕立)C3に帰り、元気だ。今後の動きは協議する。」
ダワ:「手袋、靴下を取り替え、充分に飲み物と食事をとり、元気を付けてください。
I隊はそれで失敗しています。」
山田:「了解。充分に飲み、食べています。」
9時;宮川、1人チキンライスの朝食を取る。
テントに暖かい陽が当たる。
しかし10月に入ると、さすがに風は冷たい。
脈を取る、29×2=59回/分。
やはり、5500mのC1の空気は酸素が多い。
12時;アンプーリが、C2から帰り、お昼を食べて不要品を担いで、BCへ下る。
「明日、また上がってくる」と、言い残して・・・・。
13時;星野さんが「宮川さん、鶴がわたってますよ!」と、呼んでくれる。
すぐテントから出て見上げるが、北東コル上空に雲が湧き出て、見えず残念。
しかし、上空で「ガア、ガア」と言う鳴き声がはっきり聞こえた。
冬の訪れを告げる「カランコロン」だ。
13時過ぎ;遅い昼食を取る。
鍋で炊いたα米にジフィーの「カツ丼(二切れ)」をのせチリペッパーをかける。うまい!。
午後は、頂上付近は雪煙上がる。
14時30分;星野さんによれば、名塚さんからの連絡まだ無いとのこと。
15時前;C1付近雪が降り出す。
無線機の電池を、アルカリからリチウムに替える。
アルカリは、ヘッドランプに使用する。
高度計、5575mを指す。
15時40分;星野さんが雪の中連絡に来てくれ
「山田さんからの連絡で、名塚は12時40分登頂して、15時30分C3に帰幕した。
一日中、強風の中だった、そうです」とのこと。
星野さんに「おめでとうございます」と、お祝いの言葉を述べる。
これで、星野さん達も、安心して、東壁に取り組めるだろう。
16時45分;高度計、5550m、先ほどから25m下がっている。
気圧が上がっており、明日の好天が予想される。
1人での、夕食の準備。残ったアルファー米ご飯の上に、野菜ミックスと椎茸のスープ味付けをのせ、丼にする。
野菜の甘みで、まろやかな味で、なかなかいける。
17時の交信時間に、C3から入らないと思っていたら、17時半、C3から交信。
山田:「アタックから帰った名塚さんと、話し込んでいて、すっかり交信を忘れてて、すみません。
明日、二人(山田・仕立)は、アタックの予定。風は、強く吹いている。」
18時;名塚さん(C3)と、星野さん(C1)との、交信を傍受する。
星野:「名塚さん、気分はどうですか」
名塚:「そりゃ最高よ!、登ったあとだからナ」
星野:「風はどうでしたか」
名塚:「キビしかったヨ。初めて手を凍傷にやられた。中指(右か左か?)が、先が真っ黒になってる・・・・」
星野:「オーバー手(手袋)して居てて、ですか?」
名塚:「そりゃそうよ、田中祥吾(?)にでも診てもらうか・・・・」
星野:「ルートはどうですか、トラバースルートとか、ルンゼとか」
名塚:「トラバースは、バンブー(竹・標識用)立てたけど、帰りにはみんな飛んでいたヨ。ルンゼは、足がザクッと入る感じだ」
星野:「名塚さんにとっては、今までで一番キビしい条件での登頂ですネ」
名塚:「そーさなア、何しろ風がきつかったから・・・・」「おまえらも、こんな事にならんように、じゅうぶん気をつけて登れよ」
星野:「○○○○の星野ですから、だいじょうぶです」
などと、楽しくもきびしい、先輩と後輩のこころ温まる会話であった。
名塚「明日は、C2を撤収してBCへ下る予定。朝は4時に出る」
ほんとうに、元気な名塚さんだ。
わが京都隊も、明日は山田・仕立両君の再アタックだ。
山田バラサーブより、指示が出る。
BCの、アンプーリには、山田「明日は、ベースキャンプでレストし、
あさってC1経由でC2に上がり、C2の撤収を頼む。
BCは、明日は1日中、無線開局のこと」
C1の宮川には
山田:「引き続き、C1で待機お願いしたい。無線は一日中開局」
19時半;雪はやんでいた。今夜はアンプーリの大きなシュラフで寝る、暖かい。
21時半;星空、快晴だ。外気温は良く読みとれないが、−20度以下は確かだ。
10月12日/ 快晴 (宮川/C1、山田・仕立/C3、二人は再アタックの日)
2時10分;起床。
満天の星、オリオンと、月齢27ぐらいの、新月前の三日月が輝く。
無線を開局し、C3の応答がないので、一方的に、こちらの星空と好天をしゃべっておく。
2時45分;高度計、5120mと、かなり低くなっている。
気圧が上がった、好天だ。
4時30分仕立君と交信「今からスタートする」とのこと「がんばって」と一言。
5時;テントを出て、黙々とザックを詰める、星野パーテイーの出発に、声をかける。
「ご成功を祈ります、がんばってください」と。
宮川;「東壁は、壁の中で1ビバークですか」
星野;「ハイ、1から2ビバークつもりです。1ビバークで抜けたいのですが」とのこと。
星野;「上は、風は強そうとのことでしたか」
宮川;「少しは、あるとのことでした」
星野;「山田さん達に、ぜひ登頂に成功するよう、よろしくお伝え下さい」
宮川;「ありがとうございます、必ず伝えます」
僕は自分のテントに戻り、星野、品川、福本さん達3人は、エスパースのテントを閉め、
淡い月明かりの中、静かに出発していった。
5時半;朝食、山田・仕立と、星野パーテイーの成功を祈って、カツ丼とする。
6時20分;交信。
山田:「現在、フィックス終了点に着いた。仕立君に追いついた。
風は昨日よりましだが、少しある」
宮川:「星野さん達が、5時過ぎに東壁アタックに出発したこと、彼からの伝言」を伝える。
山田:「すごいですね、こちらも慎重に行動します」
7時10分;山田の声はいる。
山田:「仕立君、取れますか・・・・」応答なし。
ダウラのピークに陽が当たるが、薄手の雲が少し出てきた。
7時50分;BCのダワさんと、山田君交信。
ダワ:「今、どの辺ですか」
山田:「フィックスが終わってかなり上がったところです」
ダワ:「スペイン人パーテイーと一緒に登っていますか」
山田:「4人先行しています。そのあとに、仕立、山田と続いています」
ダワ:「元気ですか?(山田の声を聞いてと思う)」
山田:「だいじょうぶです、がんばります」
ダワ:「なにもない(フィックスが)ですから気をつけて、気をつけて。オーバー」
8時50分;山田の声
山田:「仕立君、仕立君、取れますか、オーバー」再度、コールするも応答なし。
9時;山田よりC1の宮川へ
山田:「現在、7600mから7700mあたりの稜線上、陽は当たっている。
調子が上がらずかなりスピードが落ちているのでここで断念し下降します。
仕立君は、スペイン隊4人のあとにつき、かなり先を登っている。
イタリア隊の二人は断念して下っていった。」
山田:「下るに当たって、持っているロープを、フィックスの最先端か最終端に張る予定だ」
山田:「仕立君は、お互いに見えているときに、僕の遅れから判断しているだろうが、
仕立君との連絡が取れたときには、下降したこと、フィックスを足したことを伝えて欲しい」
12時;山田より宮川へ
山田:「C3に今帰ってきた、フィックスはC3手前に1本張った。
これで、C3までフィックスで完全に繋がった。
仕立君は、頂上へ向かっていると思う。無線機忘れているのかもしれない」
宮川:「朝、出発の時、僕と話したので、持って行ってるのでは」
山田:「それでは、電源を切っているのかもしれませんね」
山田、ベースのダワと交信
山田:「風が強そうなので、心配です(仕立君が)」
ダワ:「こちらから見えるのでは、そう強くは見えません。だいじょうぶです」
14時過ぎ;ベースのダワより山田へ
ダワ:「スペイン隊からの連絡によると、仕立君は2時に登頂したとのことです」
山田:「それは、それは。BCから気をつけて降りるように伝えてください」
ダワ:「他の隊からの連絡ですので・・・・」
山田「スペイン隊の4人が、2時間ほど前に登ったと、今降りていった。
2時間遅れぐらいなので、そのころだと思う」
2時半;今日も「ガア、ガア」と、カランコロンの声がするが、C1上空は、少し雪が降り出し鶴の姿は見えない。
2時45分;仕立君(声は入らず)と、山田君交信
「ひかくてき元気、フィックス終了点まであと1時間ぐらいまで下っている」とのこと
山田:「くれぐれも注意して、下ってきてください。おめでとう、おめでとう」
山田から、BCと、宮川にも、仕立君と連絡取れたことを報告あり。
山田:「あと2時間弱で、C3に着くと思います。着き次第連絡入れる」
16時20分;仕立君から「フィックスの終了点(くだりのフィックスの始まり)に着いた、
あと1時間弱でC3」とのこと、これで一安心。
16時30分;名塚さんC1に着く。
名塚:「山田さんらは、どうでした?」
宮川:「仕立君は登りました。山田君は途中で断念とのことです」
名塚:「おめでとう、山田さんは残念だナ」
17時;C3の仕立君から入信
仕立:「今、無事C3に帰ってきました。皆さんのおかげで登れました。ありがとうございました」
宮川:「おめでとう、おめでとう。最後にがんばりを見せたですネ。(涙声になる)」
仕立:「涙が出て仕方ありません、ありがとうございました、ありがとうございました・・・・」
ベースの、ダワとも交信
仕立:「今、無事C3に戻ってきました、ダワさん、アンプーリさん、皆さんのおかげです」
ダワ:「だいじょうぶですか、身体はどこもなにもないですか」
仕立:「だいじょうぶです、こんばん一晩寝れば回復します」
アンプーリ:「仕立さん、登頂おめでとう」
仕立:「アンプーリさん、アンプーリさん、ありがとう」
ダワ:「スペイン隊で、1人C3より上で落ちたと行って泣いています」
山田:「こちらにいるのは、イタリアだけ。そのような話は聞いていない」
名塚さんに、「おかげさまで、仕立君は無事C3に戻りました」と、報告する。
23時;星が見えるが、雪すこし降る。
長い1日だったが、喜びの1日だった。
山田君はすこし残念だったけど・・・・・。
(宮川の、ダウラギリ1峰・ノートNO3より)