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(注)本稿は、Frank Brown: William Herschel, Musician and Composer (Bath, 1990) を、同氏の承認を得て翻訳し |
序 文 フランシス・J・リング(ウィリアム・ハーシェル協会会長)
ウィリアム・ハーシェル卿は、バースに住んでいる間に望遠鏡をつくり、1781年に惑星ウラヌス(天王星)を発見した18世紀の天文学者としてつとに知られている。また科学者には赤外線放射を発見した人としても知られている。これらに比べると彼の音薬家としての業績はそれほど知られてない。
彼が音楽家、教師、作曲家としてすばらしい変遷を経たのはバースというイングランドの都市においてのことであった。音楽家として招かれてバース市に来てから、後にウィリアム・ハーシェルはジョージIII世の王宮において、天文学の研究に手をつけるためにバース市を去ることにした。バースのハーシェル・ハウスと博物館(19 New King Street)は、この多才な人物の注目すべき業績への記念として残されている。
ハーシェルは彼の論文『和声と作曲について』の中で次のように述べた。
「一般に音は2つの異なった種類に区別される。第1は水の落下、又は流れのざわめき、銃声、馬車のがらがら、海のとどろき、嵐の吹走の音のような耳に聞こえるものや、いろいろの原因から生じる、快いか不快な雑音(ノイズ)等である。これらの音は、1つの音が次の音と関係づけられたり、和声の関係にあったりする比較が許されないほど音楽的でないものである。第2は、鐘の音、郭公、夜うぐいす(ナイチンゲール)や他の鳥の鳴き声のように、定まった高さの音程を聞き分けることのできるものである。殊にそのような目的のもとに作られた楽器は、オルガン、ハープシコード、ヴァイオリン、オーポエ等である。これらから奏でられる音は音楽的で旋律的な編曲ができるものである。そこから高尚な芸術美が由来してくる」。ここに引用した論文のコピーは、ドイツの Munster の Stefan Reuterに負うもので、感謝する次第である。
フランク・ブラウン氏は退職するまでバース大学の講師を勤め、1981年ウィリアム・ハーシェル協会の誕生以来、その委員に任ぜられている。協会の創立やハーシェル・ハウスの復元前に、ブラウン氏はハーシェル・アンサンブルの設立と運営の責任者であった。
このプロの音楽家たちの素晴らしいグループは、バースで演奏するために定期的に英国の各地から招かれてきた。かれらの熱達した演奏によって、ウィリアム・ハーシェルの作品を含むコンサートが最近数年 間にわたって開催されてきた。
この小冊子は、バースに本部を持つウィリアム・ハーシェル協会の会報のためにブラウン氏が書いた短編の一連の記事を纏めたものである。ウィリアムと妹カロラインを18世紀の天文学や科学の先駆者として顕彰する協会によって出版された刊行物へのうってつけの応援となっている。