Happy!



― 2 ―



「体育祭、明日はやれるんやろか・・・?」

代替の授業など当然身が入るはずもなく、教室の空気はだれきっている。
ましてや5時間目など、眠くて仕方ない。
先生も「今日はしゃーないな。明日の準備でもせえや」と
窓側にあったパイプ椅子に腰掛けた。


――ブルブルブルブル ブルブルブルブル


携帯が鞄の中で震えている。
ざわつく教室の中で、なぜかそのバイブの音だけは和葉の耳に届いた。

「あっ、平次からや」

思わず呟いた言葉に、クラスのみんなが反応する。

「服部、何やて?」
「明日は来られるんか?」
「ちょー待って・・・・・・あっ、平次、風邪引いたみたいやわ・・・熱も出てるんやて。
せやけど明日は学校に来るって言うてるわ・・・」
「風邪引いたって、大丈夫なんか?」
「熱出てるってなんぼなん?」

もう一度メールを見直したが、それ以外のことは書いていない。

「ようわからんわ。それしか書いてへんし・・・」
「今、電話してもええやろか?」
「でも服部君寝てるかもしれんへんし、悪いんとちゃう?」
「せやなァ・・・」
「アタシ、今日平次のトコ寄って様子見て来るわ」

和葉の言葉に、クラスのみんなは力強く頷いた。





「あら、目ェ覚ましたん? 平次、あんたお粥くらい食べられそか?」

メールを打った後、また眠りについてしまったらしい。
母親がやってきたことに気づきもしなかった。


「・・・なんやオカン、花、持ってきたんか?」


机の上に水色の塊がぼんやりと見える。

「そや。雨が小降りになった時に買い物に行ってきてんけどな、その帰りにコレ見つけてな。
平次、あんた突っ走ると周りが見えんようになるやろ?
せやからたまにはこういう花でも見たらどうやと思うてなァ・・・どや、キレイやろ?」
「・・・紫陽花なんて、うちの庭にも咲いてるやんか・・・」
「この紫陽花、うちで咲いとる花よりも一回り小ぶりなんよ。
うちのもキレイやけど、これもカワイイ感じがしてなァ・・・
そや平次、紫陽花の色が違う理由、知ってんか?」
「・・・色が違うて赤いのと青いのがあることか?
そんなん土壌の差やんけ。土壌が酸性やったら青うなるし、アルカリ性やったら
赤になる・・・それよかオカン、喉渇いてかなわんわ」
「平次は花より団子やね。水とスポーツドリンクとどっちがええ?」
「水のがええわ」
「ほな今もって来るから、熱、測っとき」

体温計を預けると、スタスタと部屋を出て行った。

(・・・ったく、紫陽花の色がどないしたっちゅーんや・・・オカンもわけわからんわ・・・)

熱はさっき測ったときよりも下がっていた。
とはいえ38.3℃ある。
起き上がるにはまだしんどい。
ぼうっと天井を眺めながら、ふと昼間のメールのことを思い出す。
返事がきているかもしれへんな・・・と手さぐりで携帯を探していると、母親が戻ってきた。

「どや、熱、なんぼやった?」
「38.3℃・・・」
「まあ今日は寝てるしかあらへんね。少しでも食べられそうになったら言うんやで?」
「ああ・・・」
「水、零すとアカンから机の上にあげとくで」
「・・・おーきに」

お盆ごと机の上に置こうとしたとき、先程持ってきた紫陽花が目に映る。

「ああ、そやそや。さっき話してた紫陽花の色のことやけどな」
「・・・?」
「紫陽花の色が変わるんわ土壌のせいやて、平次、ちゃんと知ってたやんか」
「・・・ああ」
「せやから赤くなった紫陽花を青くしたいんやったら、その土にミョウバンを混ぜてやったり
するやろ? 土によって色が変わるんわ、人間かて同じやな」
「ああ?」
「環境によって人は変わるっちゅうことや」
「そんなん知っとるわ」
「頭でわかっとるだけやろ?」
「オカン、人が風邪で倒れてんのに、きっついなぁ」
「ちゃうわ。その逆や。こうして自分が倒れたときこそ、人の優しさがようわかったりするんやで?  自分がどんな環境におるか、見直すええ機会やな」
「・・・自分がどんな環境におるか・・・?」
「そうや。まあ体治すのが先やけどな」
「・・・どっちやねん」

言いたいことだけ言って部屋を後にする母親に、おかしな笑いがこみ上げる。
熱のせいで目が回る。
渇ききった喉に水を流し込むと、また、眠りへと落ちて行った。









紫陽花の色の話、最初逆に覚えていました。そしたらタイムリーに天気予報でその話を
お天気お姉さんがしてくれたので、どうにか間違えずに済みました。
今回静華さん、大活躍? 単に静華さんを出したかっただけです(笑)









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