箱根で別荘のお手伝いをさせていただく事となりました。
敷地を拝見しに行きましたが手入れがされていない植林森のような状態で前面道路との高低差も3m近くあります。ここにどの様なプランを提案できるか挑戦です。
この地域は温泉が供給されています。
家に引き込めば24時間365日掛け流し温泉を楽しむことが出来るんです。 道路にこのようなバルブがあり箱根を感じます。
いくつかプランを提案させていただきました。
道路との高低差があるためスロープを使って敷地の奥までアプローチする事となりました。国立公園内に位置するため環境省との自然公園法に関するすり合わせも必要となります。
この別荘での最大の楽しみである温泉。浴室まわりのスタディーです。
浴室から庭のカエデを楽しみながら入浴できる様に前庭や屋外用ブラインドも取り入れた設計です。
プランも大分固まってきましたので敷地に茂る樹木の伐採を行いました。
できる限り残せるように努めましたが人の手の入っていない自由に育った針葉樹は生かすことが出来ませんでしたがある程度の大きさの樹はストックしてもらうことになりました。
敷地の正確な方位を測定します。
コンパスで測ってもよいのですが建築では太陽光の差し込む角度が重要です。 コンパスが指し示す北の角度と本当の北(北極点)にはずれがあります。
太陽と地球の関係は地球の磁場ではなく天文学的な位置を測定する必要があるのです。 その角度を測定する一番簡単確実な方法は太陽との角度を測定することなのです。
ではどうやって測定するか。
水平な平面にたてた垂直な棒の影を記録して時間とともに計算するとで求めることができます。建築基準法の北側斜線の検討にも使いますし日射のシミュレーションにも用います。
切り出してストックしておいてもらった樹木を見に行きました。
コストをかけて製材しても良い材料がとれそうもないため残念ですが利用は断念しようと思います。やはり枝落としなどしっかりと手入れをしないと建材としては難しいことがよくわかりました。
いよいよ本格的に着工です。
まずはアプローチを確保するためにスロープの掘削を行い、砕石(砂利)での舗装を行います。建物の位置を確定するための木の枠(丁張り(ちょうはり))もかけました。
空中に「仮想水平面」を作りそこに設計図を描いていくのです。
紙に書くのと違い、でこぼこしていたり高低差のある地面に位置を正確に記すのには特別な方法が必要です。
地盤調査を行った結果地盤改良を行うこととなりました。
今回は鋼管杭をねじ込んで行う改良です。少々コストはかかりますが確実さと将来撤去の必要が出て来たとき(長い目で見た場合ですが)には環境負荷が少なく有利です。
箱根では良く霧が出ます。
平地とは明らかに気候が違い気温は低めで湿度は高めを覚悟しないといけません。設計時にもこのあたりの条件はかなり気をつけました。平地で立てるときの常識は通用しません。
基礎の配筋がほぼ終了です。
一部深基礎がありますのでかなりのヴォリュームとなりました。
基礎が出来上がり上棟に向けて土台を敷き込みます。
基礎内部に外部の湿度を呼び込まない仕掛けを施します。
棟上げが行われました。
お天気が少々心配でしたがなんとか無事終了です。 設計の段階で軸組(木の骨組)の3Dシミュレーションを行っていますのであまり心配はないのですが現場での細かな部分のすり合わせを行います。
野地板(屋根の下地板)が張られました。
トップライトの開口があけられて空が見えます。
外構に使う石のサンプルが運ばれてきました。
サンプルとはいってもかなり大きく重いのでトラックの荷台の上で確認です。 石積みの擁壁部分に使うのですが自然石のため大きさ形が様々です。 工事をしてくれる職人さんと写真や実際に擁壁として積まれている現場を見ながらイメージの共有を図ります。
図面で表せない物を作っていくのは難しいですが面白いところでもあります。
キッチンの換気扇は調理器具(コンロ)の上に付けることが多いのですが空間の邪魔になるのが気になります。
そこでコンロののすぐそばに吸い込み口をセットしてダクトを使い床下に導いて基礎にセットしたプロペラ型の換気扇で外に出す仕掛けです。
中をのぞくとこんな感じです。 映画などで囚われた人が脱出するときに通るあれです。
各部屋より庭に向かう開口部は幅1.8m高さ2.4mの特注大型木製サッシを使います。
大開口が作れること、断熱遮音に優れること、手触りが優しいこと等々素晴らしいサッシなのですが大きくて重い!作る人たちは大変です。
荷揚げだけでもこの人数!
浴室の壁には石を張ります。
何種類かの大きさの違う石をランダムに張っていくのですが目地を作るか無しにするか検討します。
突きつけて眠り目地(目地無し)とすることになりました。
2階トイレの排水管が1階天井裏を通ります。
水の流れる音をなるべく出さないように静音タイプの排水管を使います。
浴室の下地が出来ました。
浴槽、床、壁ともに石を張っていきます。 半身浴もできるゆったりとした湯船を作ります。
温泉水は強い酸性なので材料や器具選びにも気をつかいます。
断熱材を雨に濡らさないようテントが出来ました。 この中で出番を待っています。
現場の気遣いに感謝!
2階バルコニーはスチールアングルを使って作ります。
細い部材としたいので上から吊るタイプの構造です。 登り梁から直径13mmの鋼棒で吊り下げます。
計算上は鋼棒1本で2トンまでつり下げることができます。
太陽電池のパネルが設置されました。
屋根を作ってからその上にのせるものではなく屋根工事と共に一体で施工されるタイプです。 突出が少なくなるのでスッキリと仕上がります。 雨漏りや丈夫さの上でも優れています。
空調機の冷媒管等の管を天井裏や壁の中を通して配管します。
空調機の位置が自由になりパイプが見えなくなるのできれいに仕上がります。
和室床の間の壁色のスタディーです。
少し色を付けても良いかと思いましたがクライアントと協議の結果シンプルに他の壁と同色ということになりました。
純粋な和室ではありませんが間接照明も仕込んで演出します。
外壁にはレッドシダーの下見板を張ります。
230mmの幅広材でエッジが自然のままに波打つウェービーエッジべベルサイディングです。カンナのかかっていないラフ面を使います。
現物を見るとかなり荒々しい素材ですが張り上がったらちょうど良い感じになると確信しています。
張る前の材料に塗装をかけてもらいました。張ってしまうと重なったり裏になったりして塗ることができなくなるところが出てくるためです。
角の部分の納まりのテストです。
ウェービーエッジを上手く収めるのが少々難しいですが大工さんが頑張ってくれるとのこと。一つ一つ合わせていくこととなりました。
敷地の裏側を掘削中にこんなものが出て来ました。
不発弾!ではなくプロパンガスのボンベです。 不法投棄のゴミも大量に出て来ました、、、自然の中にこのようのことをするとは困ったものです。
天井裏に入ってしまう電線ですがきれいな仕事をしていただき感動です。
見えないところでも手を抜かない!こういう気持ちが大切ですね。
隣地と段差が出来るところに自然石を積んで土留としました。
コンクリートの擁壁も堅牢安心で良いのですが敷地に余裕があるときは石積み擁壁も自然でいい感じ。
軒が2m近く張り出しています。
見上げたときの存在感を意識してレッドシダーの板張りにしました。 濃淡いりまじりのグラデーションで美しい。
モルタルで浴室石張りの下地を作りました。
浴槽には段差を設けて半身浴が出来るようにしています。 のぼせることなく効能のある温泉にゆっくりとつかっていただきたいですから。
浴室床に張る石の確認です。
設計時に選んでいた石材が欠品になってしまったので代替品を準備してもらいました。
水を付けて濡れているときと乾いているときの表情を確認しました。 それぞれイメージ通りでしたので採用決定です。
天井にブラインドが収まるスペースを作ります。
これを作っておくとブラインドを上げたときに天井の中にすっきりと隠れて開放感が抜群です。木製ブラインドの採用予定のためかなりの深さが必要となりますが設計の段階でチェックしていたのと現場の協力でうまく納めることができました。
内壁仕上げには色粉の入ったしっくいを使います。
塗り上がりのテクスチャーを職人さんと一緒に確認しました。
外壁の工事が進んでいます。
サイディングエッジの自然な波打ち感がいい感じです。
上向きでの左官工事は大変です。 首が痛くなるんです。
特にここは高天井ですので職人さん泣かせですがいい具合の所に足場を組んでもらいました。
快適な暮らしを支える仕掛けとしてのエアコン。特に夏はありがたいですよね。 でもその機械がドーンと存在しているのはスマートではありません。 そこでドアと上天井までの欄間の空間にさりげなく仕込みます。 もちろん壁からは出っ張らないように、幅はドアと同じ幅で。 そう仕上がるよう下地を作ってもらいました。
ホームシアタールームのエアコンは間接照明の仕掛けと合わせてルーバーの奥にそっと仕込みます。職人さんには少し苦労をお掛けしますがよろしくお願いします。
キッチンカウンターにはクリスタルの人造(じんぞう)大理石を使います。
アクリルやポリエステル樹脂でできた人工(じんこう)大理石とは違い 石材としての特徴が良く出ています。
シャコマンという万力を使ってギュギュっと圧力をかけて留めつけます。
アプローチスロープに使うピンコロ石が中国より運ばれてきました。
ピンコロとは10cm角程度の舗装に使う石のことです。石畳を造る石材です。
パッケージに使われている木材も素朴でいい感じです。
浴室の壁は矩形ランダムなスレートを使います。
サビ色の入った面白い表情の石なので仕上がりが楽しみです。
町が敷設した温泉水の管から宅内への引き込み工事を行います。
強い酸性と熱に耐えられる「ガラス+ポリエステル+カーボン繊維」に断熱を施した専用管を使います。
アプローチにピンコロ石を敷きつめます。
互い違いに並べたので一番端がでこぼこになります。 ピッタリ揃うように切ってもらいました。
積雪地域となりますので室外機の台を高くして対策をします。
室外機が雪に埋もれてしまうと熱交換ができなくなりエアコンやエコキュートが動かなくなってしまうことがあるのです。
箱根の湿気は平地とは比べものになりません。 下から雨が降ってくると表現する人もいるくらいです。 芦ノ湖も関係しているんだと思います。
そこで外気との通気を遮断してルームドライヤー(除湿器)を設置します。 24時間の運転も出来るよう溜まった水を捨てなくても良いタイプです。
ルーバーの奥に隠して設置しますが本体が白っぽく存在が目立つので塗装屋さんにマットな黒に塗装してもらいました。
これでブラックアウトして見えなくなる仕掛けです。
エアコンのルーバーの垂直部材とつなぎ材は黒に塗りました。
取り付けされると水平部分のみが強調されて軽やかな水平なルーバーになります。
ソープディッシュ、シャンプーボトル、タオルハンガーなどのアクセサリー位置を現場で決めます。
座って、立って、シャワーを浴びてと動作のシミュレーションをして確認しました。
温泉水を宅内に引き込むためのバルブです。
契約した湯量になるように町に調整してもらいます。 調整器は特殊な道具が無いとまわすことができません。 勝手にお湯をじゃんじゃんということはできない仕掛けになっています。
ちなみに浴槽の容量は約800リットルで供給量が毎分約4リットルですので3時間半でいっぱいになります。その後は掛け流しで贅沢に!
浴室は外部に開放されていて露天風呂的に使う事ができる設計です。
でも外の視線が気になるときはブラインドを閉じて坪庭として楽しむことができる様にしてあります。
温泉水の供給は24時間365日連続です。
家にずっといるときは掛け流しで良いのですが長く使わないときに蛇口を止めてしますとパイプの内部に硫黄やカルシウムなどの成分が付着してつまってしまいます。
そこでバイパス管を設けてパイプ内を流れ続けさせてそれを防ぎます。
この家には太陽光発電パネルとリチウムイオンバッテリーを使った創蓄連携システムを導入しました。階段下のデッドスペースに置いた50*60*15cm程度のバッテリーに発電した電気をためておきます。
冷蔵庫、テレビ、ネットワーク、2部屋の照明などを15時間程度使う事ができます。 上手く使えばもっと時間を延ばすこともできるでしょう。 買電量を減らすことができるので環境にもお財布にも優しいシステムです。停電時にも役立ちます。
工事がほぼ終了しましたのでプロのカメラマンに撮影をしてもらいました。
建物から滲み出てくる雰囲気を撮影して欲しいとお願いし朝から晩まで一日撮影です。出来上がりが楽しみです。
長きにわたり現場をまとめてくれた監督さん、大工さんをはじめ様々な職人さん、お陰様でとても良い家になりました。ありがとうございました。