こゆめに片思い
(2001年12月10日)

 すわ出産!
 ・・・と思ったものの、実はそれからが長かった。

 今すぐにも産んじゃうんじゃないかという尋常でない甘えっぷりといかにもだるそうな様子でぐったりしてみせたこゆたんに慌てふためいたワタシだったが、ブリーダーさん曰く「満潮に注意せよ」とのこと。
 ニンゲンの出産などが月の満ち欠け・潮の満ち引きに強く影響されているらしいという話は聞いたことがあるが、猫もやっぱりそうなんですねぇ。さすが同じ地球に生きるイキモノってカンジしますね!(←?)
 そこでワタシは満潮時間を一生懸命チェックして、その二時間前くらいからを特に気をつけて様子を見るようにしていたのだが。

 最初の満潮はなにごともなく過ぎた。じゃあ次か?と思って緊張していたが、次の満潮にもこゆめは寝ているだけである。
 土曜が過ぎ、日曜が過ぎたが、ただだるそうにして時折わけもなく「にゃーん」と甘えてくるばかりでいっこうに出産ははじまらない。

 こ、こゆたん・・・
 あの今にも産みそうな訴えはなんだったのだ。
 ダマシなの?ワタシたち、だまされたの??

 もしやこれはよそのおうちに行きたくなかったこゆたんの計画的犯行なのではないかという黒い疑惑をおさえることができない我々であったが、確かにもうおなかはカチカチだしいつ産み始めるかまったくわからない状況であることには変わりがない。それこそ今から連れて行くわけにはいかないのは明らかだ。やっぱりウチで産むのが運命だったんでしょう・・・(諦念)

 結局週末からの数日間こゆめにはなるべくケージに入ってもらうようにすると同時に、ワタシはこゆめの近くでフトン一枚かぶって仮眠をとりつつ待機するという家庭内浮浪生活が続いたのである。
 ちなみに浮浪生活を続けた結果はげしく腰がイタくなってきたため、床寝り3日目にしてついにワタシは居間にフトンを敷いて寝ることにした。ああ、若い時分ならどんなに硬い床で寝たって平気だったのに、なんという情けなさ。やっぱし寄る年波には勝てまへんな。ゴホゴホ。

 などとニンゲンがババくさい感慨を抱いている間にも、こゆたんはひたすらだるそうにして「もう生まれるのよ。生まれるんだってば」と華麗なる主演女優のようなダマシのむずかり演技を続けて我々を心配させまくっていたのだったが一向に産みやしねぇのであった。さすが、いかなるときもブラックを忘れない子である。(←?)

 そんなふうに毎日肩すかしを食っているうちにとうとう週末が過ぎ、月曜になってしまった。ご懐妊が10月6日だったとすると月曜はまさに65日目に当たる。つまり結局「標準的出産予定日」まで思いっきり引っ張られてしまったわけですね。うーん、なんだかなぁ。それにしたって今日こそは産むだろう。いやたぶん。おそらくきっと!
 現にこゆたんは朝から孤独を求めてさまよい歩き、暗くて狭いところに入り込んではだるそうにしている。これはいよいよか。部屋のすみっこで寝そべっていても、頻繁にあっちを向いたりこっちを向いたり寝返りをうっているようだ。うん、いよいよでしょう!

 たびたびおしりをチェックしてみたが、まだ出血はない。例によって「本日の満潮」をチェックしたところ「午前2時23分」だそうだ。うーん、あやしい。時間的にめちゃくちゃあやしいな。なんの根拠もないがワタシのカンが「ココだ!」といっている。(←?)ここで出るんじゃないかな。ちなみにその次の満潮は「火曜日午後13時58分」である。最悪でもこっちで出るだろう。おおっ、否応なしに高まる緊張!

 その日は一日中警戒していたのだが、結局日中は何も起こらないまま夜になった。こゆめもなにか感じているのか、だるそうながらも我々の目が届く範囲からは離れなくなって「でろーん」と横になって過ごしている。
 ちなみに普段のこゆめはいつもお行儀よくコンパクトに丸くなって寝る子で、くつろいでいるときもあまり横倒しポーズにはならないほうであるが、さすがにここ数日は完全横倒し状態になっている。おなかもかなり重そうだし、物理的に「日光東照宮・眠り猫のポーズ」ではくつろげないのだろうなぁ。

 それにしてもそろそろかなりつらそうにみえるのが気になる。なんつーか、痛そうな顔をしてるような気がするのだ。猫飼いさんならわかってくれると思うが、猫だってちゃんと痛そうな顔とかうれしそうな顔とか怒った顔とかしますよね。これはたぶん気のせいではない。もしかしたらもう陣痛とか起きてるんじゃないのだろうか。ひー、心配だ。こゆたんこゆたん、かわいいこゆたーん。(←ばか・・・)

 しかしそんなニンゲンのあふれるこゆめ愛(?)をよそに、当の本人の態度はつれなかった。
 夜の10時頃だっただろうか。つらそうにしていたこゆめがふらふらと立ち上がってこっちへ歩いてくるではないか。何事か訴えたいのだろうか。「こゆたーん!」と心配しつつ両手をひろげて待つニンゲンたちを古典的ギャグマンガのようにすかっと素通りしたこゆたんが向かった場所は!

 なんとスオミ様のところだった。

 たぶんおなかが痛いのであろうこゆたん、「にゃーん・・・」と力なく訴えながらスオミにスリスリして甘えまくっている。こ、こゆめ・・・最後の最後で頼るのが、我々じゃなくってすおちゃんだなんて・・・いつもドリフのギャグのようにべしべし殴られてるくせに、なぜぇぇぇ。

 しかしココですおちゃんに「べしっ!」とぶたれたらいくらなんでもかわいそうすぎるのでハラハラしながら見ていたが、さすがオトナのスオミさまは「この子なーに、どうしたのかしら?」とクールながらも甘えられるにまかせてくださったのが幸いであった。ホントにうちの子たちはみんな仲良しさんで微笑ましいわねぇ♪
 でもね、ニンゲンとしてはちょっと・・・いえ、かなりショックでした。こゆめはワタシよりスオミがすきなのね・・・嗚呼究極の片思い。ふふ・・・むなしい。なにもかもむなしい・・・

 こうして選挙前・・・じゃなくって出産前・最後のお願い(?)も終わったこゆたんにはぜひ産箱にこもっていただきたいところなのだが、困ったことにこゆめ、ワタシの力作であるお手製産箱が以前からイマイチ気に入らないようなのである。「プロトタイプ」「製品版」とサイズが異なるものを二種類もお作りしたのだが、どっちもダメだ。くそー、なんでこの産箱気に入らないんだろう。スオミなんかよくこの中でおひるねしているし、幼な夫カールに至ってはもうめちゃくちゃ気に入ってくれたようで、完成と同時にするすると収納されていたのに。(それもどうかと・・・)

 まぁ使ってくれないものは仕方ないのであきらめよう。かわりにケージに入ってもらい、ココで出産していただくことにした。
幸いケージは気に入ったようで、自分から入っていってぐてーっと寝ている。よしっ、これで準備万端。それじゃーワタシも居間で床寝りだ。(・・・・)
 ・・・といっても眠ってしまうわけにもいかないので、ホットカーペットと長ザブトンと掛け布団で完全武装しながら見るともなしに深夜テレビを見るワタシである。
 満潮の二時間くらい前から今や遅しと待ち受けていたというのにこゆめにはその後変化もなく、依然としてうとうと眠っている様子だ。なんとなく今日だと思ったんだけどなぁ。もしかして明日の午後になるのかな、と思いはじめたころ。

 こゆめのケージのほうから、「ぴーっ!」というこれまで聞いたことのない高音の訴えが!
 こゆたん!?と駆け寄ってみれば、なんとすでにこゆめのケツからはうにうにとした物体がのぞいているではないか。

 ついについに、はじまったぁ!
 っていうか、もうなんか出てるしーーー!!!
 ちょっぴり動転したワタシの目にうつったテレビ画面には、くっきりと「2:15」の文字が。時まさに満潮の数分前のことであった。


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