カウントダウン大失敗(2001年12月初旬)
ついに12月がやってきた。
12月といえばすなわち先生も猫も不審船も走る師走である。っていうか、こゆめの出産予定日がいよいよ近づいてきたのである。
猫の妊娠日数から計算すると、こゆめの出産予定日はだいたい12月の12日前後だと思われた。その日が近づくにつれ、ニンゲンの不安も次第に高まってくる。
やっぱり、ど素人のウチで産ませるなんて危ないんじゃないか。万が一の事態が発生したらどうするか。もし仔猫が産道に詰まっちゃったりしたら、ワタシにはうまく引っ張り出すことなんて出来っこない。
猫の出産と子育てについて詳しく書いてある本を買ってきてみたが、「難産の際に仔猫をうまく引っ張り出す方法」が図解されていたり、「仔猫の呼吸が止まっていた場合の人工呼吸の仕方」が載っていたりするのが究極におそろしい。
これだけでも恐怖のあまり気が遠くなりそうだというのに、巻末のほうの説明で「子宮破裂」だとか「子宮脱」などという見ただけで貧血おこしそうな症例まで説明してあるではないか。ああ、ふらふら。もうだめ。・・・ちなみにワタシは血には強いです。たぶん看護婦にも医者にも助産婦にもなれると思うので、猫の出産の出血くらい全然平気です。でもダンナは全然ダメです。他人の出血みただけで手に力が入らなくなります。あまり役に立ちませんね!以上、まったくの余談でした。(←?)
そうでなくてもこゆめは小柄な子だし、今回が初産である。いろいろなリスクを考え合わせると、出産のときはブリーダーさんに預けたほうが明らかに母体は安全と思われた。
特にダンナはこの考えを強く支持しており、
「ちょっとでも責任持てないかもしれないんだったら預けるべきだ。そもそも非常事態が起こったときになんのケアもできない家で仔猫を産ませるなんてのはマチガイだ」
と、百パーセント正しくかつワタシ的に耳が痛いことをズバズバ指摘してくる。
ああそうです、ワタシだって後悔してるんです。っていうか、産ませようと思ったんじゃなくってできちゃったんだってばぁ。
なんというなさけなさ・・・ちゃんとバースコントロールもできないバカ飼い主まるだしではないか。
それでもワタシが「ホントに預けていいのだろうか・・・」と迷うのには理由がある。
ひとつはこゆめの性格のせいだ。
やたらと強気でブラックなこゆたんは、実はものすごい内弁慶なのである。よそのおうちに行ったり知らない猫と会ったりすると、「これがあのこゆたん!?!」というくらい豹変してびびりまくり、すくみあがり、腰を抜かしてしゃーしゃーいう子なのだ。
そんなこゆめに、サファリパークのように猫たちが部屋中を闊歩するブリーダーさんのおうちで安心して出産・子育てができるとも思えない。初めての出産でナーバスになっているときに知らない環境で知らない人と猫たちに囲まれていて、誰にも頼れないってのはどれほど心細いだろうか。
悩む理由のもうひとつは、人道的な見地というかオトナとしての責任感の部分である。
出産から子育てに至るいちばん大変で手がかかる部分を、いくら「うちはいいですよ、ちょうど他にもお母さん猫がいるし」と言ってくれてるとしても「じゃあよろしく!」と全面的にブリーダーさんにお願いしちゃうってのもなんだかすごく気がひける。
だって、もしも仔猫が未熟児だったりこゆたんのおっぱいの出が悪かったりしたら、人口哺乳もしなくちゃいけないのである。・・・わ、ワタシにそんなのできるだろうか。という問題ではなく!モノの本によれば新生児の人口哺乳は「昼夜の別なく3時間おきくらいで1日8から10回」と書いてある。ひー。思えばこれがブリーダーさんの慢性寝不足の原因なのだなぁ・・・っていうか、今ワタシが無職でよかった。仕事してたらぜったい出来ないじゃん、こんなの。
ああどうしよう。
預けるべきか預けないべきか。
ワタシはハムレットのように苦悩した。
いずれにしてもレントゲンで仔猫の数を確認してこなくては。
これはかなり重要な問題だ。小さいこゆめにとっては、あまり胎児の数が多いのも逆に少なすぎるのも危険らしい。数が多すぎると仔猫が育ち切らずに小さくなってやばそうだし、少ないと胎内で大きくなりすぎたりしてこれまた難産になりがちだという。
12月に入ればレントゲンで数が確認できるよ、と聞いていた我々はさっそくこゆめをキャリーバッグにつめこんで病院に向かった。引越しですっかりキャリーバッグに慣れてしまったらしいこゆたん、10分かそこらの移動などものともしないのが頼もしい。
さて、撮ってもらったレントゲンの結果は!
さんびき!!
さすがこゆたん!
ベストである。多すぎず少なすぎず適正な数であり、しかもレントゲンを見た先生からも「発育状況もみな同じくらいですね」と言われた。つまりとびぬけてでかい子も小さい子もいないということである。
ああ神さまありがとう。あとはこの中にいっぴきでも三毛が入ってますように。(←私情)
これで少しはほっとしたものの、イコール安産の証明ではない。難産になる確率がどれほど低かろうとゼロではないわけで、トラブルが起こってから慌てても遅いのである。
すごく心配だけど、やっぱりこゆめをご実家で預かってもらおう・・・
それまで悩みに悩んだものの、いよいよ出産が間近となったこの時点で我々はついにそう決意していた。
次の週末、金曜の夜に車で連れて行こう。一番こわいのは、クルマの中で産気づいて救急車の中で緊急出産する若妻みたいになっちゃうことだが(・・・・・)金曜日は12月7日、妊娠60日目である。これならまだ予定日まで5日ほどあるからまさかそんなことにはならないだろう。
ところが!!
ここで思わぬことが起こったのである。
7日の朝から、なんだかこゆめの様子がいつもと違う。寝ているワタシのところに来て「にゃーん」とむずかり、ごろごろとやたら甘えてくる。あれれ?と思っていると、ベッドの下とかクローゼットの中とかに入り込んで、「・・・・・」と深刻なカンジでへたりこむ。明らかに尋常でなくあやしい様子なのである。
おいおい・・・まさか。予定日より5日も早いんだよ。これじゃ早産になっちゃうよ。
ワタシは驚いてもう一度よーーーく考えた。
夜更かししていてこゆめとあかおの「うぎゃああお!」というオタケビを聞いたのは、忘れもしない土曜の早朝だった。土曜の早朝・・・?
もう一度10月のカレンダーを見てみると!
土曜は6日だよ・・・
ってことは、予定日は12日ではなく10日!
ほんの2日しか違わないようだが、猫ではコレが大違いなのである。60日で出産ってのはまずないらしいが、62日となると話が違ってくる。うわあ、やばい。やばいかもしれない。
ワタシはあわててブリーダーさんに電話した。いわれるままにおなかを触ってみるとかなり硬くなっている。こうなるといつ生まれても不思議はないらしい。
がぁぁぁぁん。
なんでこんな大事な計算を間違ってたことに今ごろまで気づかなかったのだ。
何度も何度も何度も数えなおしてみたはずなのにぃぃぃ!!
高校生のとき数学で赤点いっぽ手前まで転落したツケがこんな形で表れるとは・・・
どう考えてもこんな状態で大移動なんてとんでもない。
こうなったらウチで産ませるしかない。よーし、覚悟を決めたぜ!人工呼吸でもへその緒切りでもなんでもやってやろうじゃないか。こゆめ、だいじょうぶだよ!おねーちゃんにまかせておきなさい!!(←年齢を考えると非常におこがましいが、ワタシは猫たちに「おかあさん」でも「おばさん」でもなく「おねえさん」と自称している)
根拠はまるでないが、とにかく自信のあるふりだけでもしなくては。あまり不安そうにしていると多分こゆめにも伝わってしまうだろう。幸い根拠のない自信を持つことに関してはかなり自信がある。(←この文、ヘン。)
いろいろ当初の予定とは違ったものの(ダレのせい・・・)、かくしていよいよこゆめ様の出産劇がはじまろうとしていたのであった。
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