4.
夜の消えた島 −伐折羅(ばさら)の黒い鳥−
「何?、何で真っ暗?」
「まだ、お昼なのに……」
「太陽が消えてしまったんだ!こんなのおかしすぎるよ!」
子供たちは唖然と空を見上げた。車両はたったの一つのディーゼル機関車。乗客は黒馬島
で唯一の学舎、紫雲塾から数ヶ月ぶりに家に帰る十人ほどの子供たちだけだった。子供たち は半ばパニック状態で震え出し、中には泣き出す者もいた。
違う。太陽はいつもの場所にあるんだ。ただ……闇がそれを覆い隠している。
車両の一番後ろで、伐折羅は漆黒の瞳を闇に向けた。
「だ、大丈夫だよ。駅にお父さんたちが迎えにきてるから」
機関士が子供たちをなだめるように言った。だが、その彼自体も額には冷たい汗をびっしり
とかいていた。
「伐折羅んとこは……迎えは無理か……一人でも平気か?」
機関士にむかって、こくんと一つうなづくと、伐折羅は闇を見つめつづけた。
伐折羅に両親はいない。親代わりは萬屋と古物商を営んでいる叔父二人だ。だが、彼らは、
親と呼ぶにはあまりにも強欲すぎた。
紫雲塾へ通う子供の中で終着駅まで行くのは伐折羅一人だ。機関車が駅に止まると、他の
子供たちは彼一人を残し、先を争うように車両から降りていった。
みんなは気づいていないけど……小さな闇は、しょっちゅう島に現れていたんだ。でも、昼の光
を消してしまうなんて……こんなに不安……体が震えて……そう、怖い。こんな時は誰だって怖 いんだ。
でも、僕は……。
怯えていた……だが、心とは裏腹に伐折羅の口元には薄い笑みがこぼれている。
天喜は、大丈夫だろうか。怖がって、泣いていないだろうか……
その時、機関車の側面に黒い影のようなものが舞いあがってきた。はっと、気付くと伐折羅
は窓の外に身を乗り出し、空に向かって高く右手をかざした。
「お前、僕を迎えに来てくれたんだな?」
チチチッと、囀る声が耳に心地よく響いてくる。指にふれる黒い羽毛のふわりとした感触。伐
折羅は、透き通るような笑顔を見せた。
お前は、僕の……
−伐折羅の黒い鳥−
終着駅
昼の闇、理不尽な時間の中で二人は機関車が来るのを待っていた。手に持ったカンテラの
光が天喜の水密糖の頬をちらちらと照らしている。
本当に綺麗な娘だな。
心の中を悟られまいと、タルクはわざと閉口したように言った。
「なんで俺がお前の弟をお迎えしなきゃいけないんだ」
「だって、こんな危なげな中を私一人で待てというの?」
天喜はきつい口調で言い返した。巨体のタルクだが、すっかり天喜の下僕と化している。
「別に待たなくたって?弟とやらに一人で帰ってこさせればいいじゃないか」
「とんでもないわ!あの子が家に帰ってくるのは本当に久しぶりなのよ。それでなくたって、伐
折羅は怖がりやなのに、あんな臆病な子を一人で帰らせるなんて、絶対にできないわ」
いつの間にか、すっかり、この娘の世話役に収まっちまった。こんな事なら、隊長にもう少し
気をつかえなんて言うんじゃなかった。
タルクは、仏頂面で線路の先に目をやった。機関車の姿はまだ見えない。辺りには、星も月
もない嘘の夜。だが、あまりにも穏やかで少しの危険も感じさせない。駅に隣接した海から響く 小波の音は眠気さえも誘い出す。タルクは機関車を待っているのが、退屈になってきた。
「学校へ行ってるったって、弟だろ?お前は行かなくていいのか」
タルクの言葉に天喜は、一瞬、言葉をつまらせた。
「……学校は、寄宿舎制で学期が終わるまで家には帰れないし、ここらあたりでは頭のいい子
しかいかないのよ。私たちは親もいないし、お金だってかかるでしょ。それに、弟といっても双 子だもの。伐折羅と私は……」
「ははあ、なるほど、弟は優秀でお前さんは、……でもないわけか?」
からかうようなタルクの笑みに、天喜は口篭もってしまった。タルクはあわてて場をとりもとう
と、すっとんきょうな大声をだした。
「まー、学校なんて、俺の家なんて誰も行ってなかったしな!こんな俺でも剣一本で、なんとか
なったんだ。親と死に別れたかなんだかわからんが、お前なんざ、とびきりの器量良しなんだ から、気にすることなんか何もないぜ」
「本当にそう思う?」
「あ、でも、勉強はした方がいいぞ。やっぱり馬鹿より頭のいい方がいいに決まってる」
必死でまくし立てるタルクを見て、天喜は思わず吹き出してしまう。
「タルクって、見かけは大入道だけど、実はいい人でしょ」
天喜の言葉にタルクは思わず赤くなる。天喜はその姿を見て、鈴のような音色の声をあげて
笑った。
「それに比べて、あの男……タルクはよくあんなのと一緒にいるわね」
「あんなのって……隊長のことか?お前を助けてくれたのはあの人じゃないか」
「だって、怖いんだもの」
何とかゴットフリーの印象をいい方に引き上げたい。だが、"怖い"といわれてしまえば、タル
クには否定する言葉が見つからない。凍てつくような灰色の瞳、何年一緒にいても、あの眼光 には身の縮まる思いがする。
「タルクはあいつが好きなの?」
「好き……とかじゃなくてだなー。そういうんじゃなくて……」
言葉じゃ何とも説明ができない。
「それより、問題はこの闇だろ?お前、何か心あたりはないのか」
「……心あたりは……なくもないんだけど……」
「心当たりがあるのか!?」
天喜の答えはタルクには意外だった。
「家のすみっこや、階段の下とかよ。私と伐折羅は小さな頃からよく、見かけていたの。でも、と
ても小さくて手で払いのけるとすぐに散ってしまうんで、それがおもしろしくて、よく二人で遊んで た。ぜんぜん怖くもなかったし」
「それが、今日、お前を飲み込んだ闇なのか?」
「……わからない」
「あの黒馬に化身した神剣の名にも、"闇"の文字がついていたな。確か"闇馬刃"。この島と闇
は何か因縁でもあるのか」
「そんな話は聞いた事もないわ」
その時、線路の向こうから、汽笛の音が響いてきた。タルクは何故だかほっとした気分になっ
て線路に目を向けた。
「来たかっ!いやっ、あの機関車、走りすぎだろっ!」
車輪が火花を吹いている。斜めに傾きながら車両が迫ってくる!
暴走しているんだ……あの機関車は!!
「何故、お前がついて来る?」
凍てつく灰色の瞳が向けられた時、サームは、びくりと体をこわばらせた。
「こ、ここらあたりは、俺の兄者の土地だからな。しっかり、見張っておかないと、あんたらみた
いな、おかしな奴等に荒らされちゃあたまらん」
だが、ゴットフリーの意識はサームではなく、前方の丘に見えてきた大木に向けられていた。
ジャンが寝るといって横になっていた、あの大木だ。
「ん……木の下に誰かいるぞ」
サームは一瞬、まずい場所に居合わせたような気がした。そこには一人で泣きじゃくるミッシ
ェがいたのだ。
「おい、俺を呼んだか」
泣いていようが笑っていおうが、一向に興味がない。少女に向けられたゴットフリーの言葉は
冷ややかだった。
「ううん……多分、呼んだのはジャン」
「また、あいつか」
タルクと天喜が、弟を迎えに萬屋黒馬亭を出た後、ゴットフリーはジャンを置いてきたこの場
所が気になって仕方なかったのだ。多分、自分を呼んでいる。胸騒ぎをおこさせる……そんな 馬鹿げた事をする者は、この得体の知れない娘かジャンに決まっているではないか。
「ジャンは、花畑に埋められた」
「何!?どういう事だ」
「男がジャンを花畑に埋めた」
ミッシェは、丘の下に見えている黒瓦葺きの洋館を指さした。
「馬鹿な!」
そう言い終わらないうちに、もう、ゴットフリーは洋館に向かって駆け出していた。ほのかに感
じていた嫌な予感のせいもあったが、もともと事の判断と行動が並外れて早いのだ。
あの氷のような男があんなに慌てるなんて……しかし、あの屋敷はまずい。兄者、また、何か
やらかしたな。
サームは、苦々しい顔でゴットフリーの後を追った。
不条理な真昼の夜は、まだ、明ける気配すらみせない。かすかな街灯の光の中に、洋館の
黒い影だけが浮かび上がっている。幽霊屋敷のような姿は、陰鬱という言葉が具現化された かのようだった。
「ここか!」
ジャンが埋められた場所……ゴットフリーには、手に取るようにその位置がわかった。迷惑
以外の何ものでもなかった。だが、ジャンに言わせれば"シンクロ(同調)"しているそうなのだ。 彼とゴットフリーは。
洋館の隣にある敷地――鍵をかけわすれたのだろうか、少しばかり開いた扉から花の香り
が流れてくる。
「待て!その扉を開けるな!」
サームが制止の声をあげたのは、ゴットフリーが敷地の中に足を踏み入れた後だった。
一面の紅い花園―
一瞬ならば、かぐわしいかろう花の香は、次の瞬間、むせ返るようにきつい刺激臭となった。
だが、サームを驚かさせたのは、その事ではなかった。
紅い光が、道を作り出している……。
花園の数箇所に備え付けられていた白色灯とは、明らかに違う紅い光。そう、花自体がその
紅色を輝かせている。そして、それらはゴットフリーを導くように一本の道を作っていた。
驚愕するサームを尻目に、ゴットフリーは、平然と紅い道を走っていった。
そして、花園の中央に不自然に盛られた土山を見つけると大声で叫んだ。
「まだ、土がやわらかい。ここを掘るんだ!」
「なんで、わしが……」
「つべこべ言わずにさっさと掘れ!」
サームは投げつけられた視線に、一瞬、凍りつく。ヤバい……この男の目、"逆らうと絶対に
殺される"サームは、びくびくと震えながら、置きっぱなしにされていたシャベルに手を伸ばし た。
埋められた穴を掘り返すのは容易だった。土が軟らかい上に穴自体はそれほど大きいもの
ではない。サームが少し掘り進んだところで、そばで見ていたミッシェが指差す。
「そこにいる」
土の中に白い手が見えた。
「そこを退け!」
サームを追い出すと、ゴットフリーは穴の中に飛び込み素手で土を掘り起こした。やがて、人
の頭が土塊の中から現れてきた。あせった様子でその顔面にかかった砂を払い落とす。
ぐったりと意識がなく、小麦色の髪も、日に焼けた肌も全部が土色に染まっていた。ジャン
だ。ゴットフリーはジャンを土の中から引きずりだすと、その頬を叩いて言った。
「お前、何でこんな場所に埋められたっ!」
その時だった。
「貴様ら!人の土地で何してるっ!」
紅い花園の持ち主――痩せぎすで赤毛の中年男が大層な剣幕で駆けてきた。
「兄者!」
「サーム!お前の客か。ここには入るなと前から言ってあるだろう!」
「ち、違う。ザール兄……こいつらが勝手やって来たんだ。わしはそれを止めようと思って…
…」
ザール兄?この男。黒馬亭で名前が出ていた古物商か。リリアと面識があったという。
ゴットフリーは、上目使いに男の度量を見定める。痩せてはいるが同じ顔、おそろいの目障り
な赤毛……こいつら双子か。兄も弟と同様、最低ランク。……しかし、兄のどんより腐ったよう な目には、何か異様な感がある。
「あいつがジャンを埋めた男か?」
だが、ミッシェはその問いを無視するように、ジャンの方を指差した。
「目を覚ましたみたい」
「何?」
腕に抱えたジャンに視線をもどすゴットフリー。
「あー、よく寝た」
「……」
「あれ、ゴットフリー?それに何でこんなに土まみれなんだ?」
「お前、何でもないのか……生埋めにされて」
解せぬ表情のゴットフリーを見て、ジャンはにこと笑顔を見せる。
「いや、どちらかというと、すごく快適!土の中だとかえって力がわいてくる」
……そうか、こいつはもともとは、レインボーヘブンの大地……
まんべんの笑顔のジャンを無造作に地面に放り投げると、ゴットフリーはサームに向かって、
はき捨てるように言った。
「もう一度、こいつをここに埋めてやれ!」
「狂ってる、時間もあの機関車も!」
「どうにかしてよ!」
と、天喜に言われてもタルクにはなす術が見つからない。天喜の弟、伐折羅を待つ終着駅。
暴走する機関車はもう、二人の目の前まで来ている。
タルクは、半ばやけくそで長剣を鞘からひきぬいた。すると、長剣から蒼い光が漏れ出してい
るではないか。
あいつの力?まだ、この剣に残っている……
黒馬亭でゴットフリーと天喜を闇から助けた時、長剣からほとばしった蒼い光。あの時、確か
に聞こえた。ジャンの声が!
タルクは、仁王立ちで暴走してくる機関車を睨みつけた。そして、いきなりニメートルもありそ
うな長剣を振り上げた。
「機関車でもかまうものか、ぶった斬ってやる!!」
機関車が通り過ぎようとした瞬間、タルクの長剣が客車との連結部分に振り下ろされた。地
鳴りと爆音が合わさったような、凄まじい騒音。天喜は耐え切れず耳を塞ぎ、その場にしゃが みこむ。
闇に蒼の光が炸裂した。
そして、機関車の先頭車両は凄まじい勢いで海に突進していった。連結部分を切断された客
車は、脱線し、バランスを失ってホームの反対側に転がり落ちた。
タルクは長剣に力を全部吸い取られたかのように、ホームに膝をついた。実際、頭も体もし
びれきって、目の前が真っ暗になってゆくのがよくわかった。
いや、もともと、外は夜だろう?暗いのは当たり前。それなのに、あの客車の上の闇は何
だ!?
伐折羅が乗っていた客車が闇に包まれている。夜とは違った深い闇、客車の様子をうかがう
事すらできないほどの。
「伐折羅、無事なの?!」
「待て!黒馬亭での事を忘れたのか。闇には近づくな!」
客車に駆け寄ろうとした天喜をタルクの太い腕が制止する。
海鳴りの音が響いてくる。じんとしびれたタルクの耳が、その音をやっと聞き分けれるように
なった時、
「何だ?あの闇は……」
タルクは客車の上の闇を指差した。
それは、渦を巻きながら濃くなってゆく。逆に空が白みはじめてきた。くるくると回りながら、夜
をからめとりながら、闇は上へ上へと舞いあがる。
「え……、翼?!」
あれは、あれは……、おかしな事にはすっかり慣れたと思っていたが……またか?またなの
か……
不本意ではあったが、タルクは、叫ばずにはいられなかった。
「あれは、鳥だ!それも客車を飲みこむ程の巨大な黒い鳥!」
巨大な鳥が弧を描くほどに、夜は薄れてゆく。そして陽の光が、滲むように溢れ出してきた。
真昼が夜に変わってから何時間がたっただろうか。やっと、戻ってきた。まともな時間とそれに 見合った明るさが。
やがて、大破した客車の姿がタルクたちの前に姿を現した。窓のガラスは一枚残らず割れ落
ちて、木造の車両は転倒した衝撃で大穴があいている。
そして、線路の脇に一人の少年が立っていた。
消えた夜が化身したかと思うほどの漆黒の髪と瞳。"これが、伐折羅か"と、タルクはすぐに
合点がいった。髪や瞳の色は違っても天喜と同じ顔、同じ背格好。……が、伐折羅には、天喜 のような華やいだ感はまるでなかった。ただ、つややかな黒髪が風になびく様や、深く澄んだ 漆黒の瞳は、静かな夜の湖底のように寂しく、また美しく、人の心に深く憧憬の念を起こさせ た。陽と陰、天喜と伐折羅にはまさにその言葉がよく似合った。
天喜は伐折羅に駆け寄るとその首筋をしかと抱きしめる。
「良かった。無事だったのね」
「僕の黒い鳥が守ってくれたんだ……」
「ああ……良かった。あの鳥が闇を食べてくれたのね」
でも、いいんだろうか。あんなに大きくなってしまって……
伐折羅は、上空で弧をえがく巨大な黒鳥にとまどいを隠せない表情で言った。
「あれは、本当に伐折羅の黒い鳥?信じられないわ」
怯える天喜の声が届いたのか、黒鳥は大きく羽をはばたかせると真っ直ぐ上へ舞いあがっ
た。そして、じきにその姿は黒い小さな点になり、完全に高い空へ消えてしまった。
「タルクったら、聞こえてるの?」
唖然と黒鳥の行方を目で追っていたタルクだが、腕に流れたチクリと痛い感覚に我をとりもど
した。
「え、ああ、つねるなよ。何なんだよ」
天喜が彼の太い腕に爪をたてていた。その後ろには天喜の背に隠れるようにして伐折羅
が、タルクの顔色を窺がっている。
「帰りましょうよ。機関士さんも無事だったし、こんな場所は彼にまかせて」
「帰るって、黒馬亭にか?あそこは俺の家じゃないぞ。それに、あの鳥はいったい何なん
だ!?剣から飛び出た黒馬といい、この島は珍獣ワンダーランドか!」
「あれは、闇食鳥。伐折羅の黒い鳥」
「……」
まるで合点が行かぬ様子のタルクに伐折羅がおずおずと口を開く。
「母さんがいなくなった日にきた鳥なんだ。あの鳥は、闇が好きで……でも、いままでは、小さな
靄をかじるくらいで……闇を飲み込んでしまうなんて……信じられないよ」
かすかに唇がふるえ、顔が青ざめている。明らかに伐折羅は見知らぬ巨漢のタルクを恐れて
いた。その空気を感じ取ってか、ありったけの優しい声でタルクは言った。
「母さんがいなくなった日?親とは死に別れたんじゃなかったのか」
「お父さんは死んだけど、お母さんは行方知れずなのよ……」
複雑なタルクの表情と、とまどった様子の伐折羅をきづかってか、天喜はわざと明るく笑って
みせた。
「この人はね、タルクっていって私のボディガードに名乗りをあげた人!だから、怖がらなくても
大丈夫。それに、こんな大入道でも気は優しいんだから」
「おい、誰が名乗りをあげたって?」
「あら、私を守ってくれるんじゃなかったの」
鈴のような声で笑う天喜……重くなりかけた空気を換えてくれた天喜に、タルク救われた気が
した。しかし、女の子って、こんな笑うものなのかと、タルクはしみじみ感心する。剣と警護隊一 筋に生きてきたタルクの身近な女の子といえば、いつも無表情なミッシェぐらいなものだったか ら。
「……まあ、とにかく黒馬亭までは送ってゆくが、その後は面倒みきれないぞ」
あの木の下のジャンとミッシェを連れて、さっさとこんな島は出ちまおう。あの黒剣に色を変え
た闇馬刀……隊長を待ちかまえていたように天窓から落ちてきたではないか。……きっと何か 罠がある。隊長をここに長居はさせたくない。
その時、チチチッと囀る鳥の声が聞こえてきた。
「あ、白い鳥がもどってきた」
天喜は、空を見上げて笑顔を作る。白い鳥が天喜の肩にそっと舞い降りた。その様子を伐
折羅は無言で見つめていた。妙に大人びて冷涼とした眼差しには、タルクを恐れた臆病さは微 塵も感じられなかった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |