12.
日食の前夜、サライ村の自分の家で、ココは、一人考え込んでいた。
なくしてしまった蒼い石……それは、ジャンの力を封印または、解放する?……。あれがなく
ても、ジャンは力をとりもどせるの?
「そのうち、向こうから出てくるから」
ジャンはそう言ってた……。そして、突然現われたジャンの弟、ミッシェ……。ココはもう少し
で何かにたどりつきそうだった。だが、余りに色々な事がありすぎて考えるのが嫌になってしま った。
つかれた顔で部屋に飾られた植木鉢の赤い花を見る。ココは植木鉢の赤い花に向かってぽ
つりとつぶやいた。
「サライの住民は明日、日食が起こったら、ガルフ島から逃げるんだよ。私も行くの。お前は置
いてゆくけど……ごめんね……」
夜風が窓をがたがたと揺らす、隙間風が家にも入ってきた。晩夏の風が冷たいと感じたの
は、今年初めての事だった。
「……でも、ジャンとミッシェを置いて行くなんて、できないよ」
泣きたい気持ちをこらえきれず、ココは涙をぽろりとこぼした。すると……
“そんな事があったの?”
艶のある優しい声が聞こえたかと思うと、頬を何かやわらかい物が、ふわりと通りすぎてゆ
く。ココは、驚いて後ろを振り返った。だが、誰もいない。
「気のせい?でも、確かに声が聞こえた……」
何気なく、窓を開いてみた。夜風がココの顔をなでてくる。ココは、先程冷たく感じた夜風を、
今は暖かく思う自分が不思議でならなかった。
一方、ジャンはリリアの館で退屈していた。終日、軟禁状態が続き、特に何をする事もなく時
を過ごしていた。ジャンにあてがわれた部屋は小綺麗な客間で、あの妖怪じみたリリアも姿を 現わすこともなく、一応は快適だった。
「おい、ミカゲ、ここに座れよ」
ジャンに呼ばれてミカゲは素直にジャンの横の椅子に腰掛けた。ミカゲはここでジャンの世話
を命じられた男だった。
「ミカゲ、僕が連れていた子供達は本当にサライ村に帰したのか?」
「大丈夫です。私がタルク様に尋ねたところ、お二人共、確かに帰したと言ってましたよ」
ミカゲが嘘をいっているとは、思えなかった。だが、昨日、この部屋へ入った時、一時的にジ
ャンは、とてつもなく大きな力を感じたのだ。それは一瞬の事だったが……
ミッシェに何かあったのか?とても悪い予感がする……
「驚いたでしょ。この館、大きい割には住んでる人が少なくて」
考え込んでいるジャンに、ミカゲがくったくなく話かけてきた。
「前は召使とかもいっぱいいたんですけどね、みんな辞めてしまったんですよ」
「リリアのせいで?」
ミカゲは、ジャンの耳元でささやくように言った。
「そうなんですよ。みんな島主を怖がって逃げてしまって……残ったのは警護隊と、私みたいな
ここを辞めても働き口のない者だけになってしまったんです」
「警護隊にも逃げた奴はいるんだろ?」
「とんでもない!警護隊を辞めたり、逃げた者の話など一度も聞いた事がありません」
「なるほどね。それほど、ゴットフリーが恐ろしいってわけか」
「何を言うんですか!ゴットフリー隊長は確かに厳しくて怖い人です、でも、警護隊のみんなか
らは一目置かれているんですよ。隊長がリリア様を押さえてくれなかったら、私など、サライの 人達と一緒にとっくに処刑されていますよ!」
ミカゲの剣幕にジャンは心底驚いた。
「隊長はね、確かに怖い人です。だが、常に知略、戦略をもって危険を切りぬける術を持って
いる人です。警護隊は長く隊長と一緒にいて、それを解っています。だから、一人として、辞め る人はいないのです」
ジャンはほうっと、ため息をついた。ゴットフリー、解らぬ奴だ。
「あっ、いけない。もうこんな時間だ。ここで話した事は内緒ですよ」
ミカゲは壁の時計を見遣った。午後七時。ミカゲは大急ぎで部屋を出て行った。
ジャンは、立ちあがりテーブルの傍にあるベッドにどさりと仰向けになる。天井には鷹の模様
が描かれていた。ガルフ島を総べる者の紋章……ゴットフリー。
「何故、気にする?奴はサライ村の住民でもないのに……」
ジャンが思わずつぶやいたその時、びゅう……と床下から風が舞い上がってきた。
ジャンは、ベッドから身を起こすと不思議そうにあたりを見渡した。そして、にこと誰もいない
空間に向かって笑顔を作った。
「初めまして……でいいのかな?」
しばらくすると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「いいえ、もうお会いしているわ」
ジャンは、破顔して言った。
「姿を現わせよ。霧花」
すると、ジャンの前の空気に色がつきだした。次第にそれは人の形になり、最後には女性の
姿になった。腰まで伸びたつややかな黒髪、漆黒の瞳、黒衣……月影のようなその女性は、ジ ャンを見据えて静かに言った。
「あまり私に近づかないで。あなたの強い力にふれると私は人の姿を保てなくなる」
「なるほど……だから、フレアおばさんの店でお前は、僕に近づかなかったんだな」
霧花は、ジャンの言葉を無視するように言った。
「わかっていたの?私がレインボーヘブンの欠片だと」
「なんとなくね。でも、君は何?」
ジャンの問いに、霧花は軽く笑った。
「私は夜の風。宵闇を通り過ぎる者。あなたは、レインボーヘブンの礎なのでしょ?とてもそう
は思えないけど」
ジャンは少し、むっと表情をかえた。霧花はそんな事にはかまわず、話を続けた。
「また、火の玉山に行くのね。その剣を持って」
「また?という事は以前も同じ事をした者がいるのか?」
「ちょうど、三年前の日食にゴットフリーが」
「ゴットフリーが!?本当に?」
「知っているのは、ごくわずか。でも、失敗だった。命があっただけでもましだったわ。日食の日
に火の玉山に登るのは禁忌。邪気に切り刻まれ血を吐きながら、彼は帰ってきた。あの黒剣 を手に握りしめたまま……」
「よくよく、血まみれが好きな奴だな」
ジャンは、血まみれでフレアおばさんの店に飛びこんできたゴットフリーの姿を思い出し、軽く
笑った。そして、霧花をきりと見据えた。
「なんでお前がそこまで知っている?そして、失敗とはどういう事だ?」
「幸福の島……レインボーヘブンへの真の道標。それを見つける方法をゴットフリーに教えた
のは私だったから。ただし、私は一つ間違いを犯してしまった……」
「間違い……」
そこまで話すと霧花は部屋の隅に立てかけてあったゴットフリーの剣を手にとった。
「この剣は黒剣のままではいけなかったのよ」
ジャンはいぶかしそうに霧花を見る。
「私がもっとそばにいれれば、白銀のまま、この剣を火の玉山に運べたのに……」
「霧花……お前はもしや……」
霧花は悲しそうに微笑むと、剣を鞘からひきぬいた。
「この剣は、私が目覚めた時から私の元にあった剣。封印が解け記憶が蘇る、その中で私は
アイアリスの伝言を思い出した。『この剣をレインボーヘブンを総べる者に渡しなさい』と。だ が、私はその時期を間違えてしまった……」
「霧花……いや、お前の名前は……水蓮!!」
ジャンは思わず大声で叫んだ。
「真の道標と言ったな?……火の玉山にその剣を持って行けば、レインボーヘブンの位置を知
る事ができるのか。いったい何が起こるんだ?火の玉山に何があるんだ?!」
「それは……今は言えない。ただ、真の道標を知る為には、日食が終わったすぐその後に、こ
の剣を持って火の玉山の頂にいなければならない」
「なぜ、お前はゴットフリーに剣を渡して、姿を消した。それにゴットフリーはレインボーヘブンの
住民ではない!レインボーヘブンはその住民だけのもの。ゴットフリーがそれを総べる者のわ けがない」
霧花の漆黒の瞳を翳らせうつむいた。そして、霧花はぽつりと言った。
「私は知らなかった……封印が少しずつ解けて、自分がレインボーヘブンの夜の風と知った
時、日の光の中で私の姿はうすれていった。闇の中の自分の姿はもう、水蓮のものではなく… …だから、日の光の中で姿が消えぬうちにゴットフリーにこの剣を渡して、私は館を去ったの よ。それに確かにゴットフリーはレインボーヘブンの住民ではない……」
その時の事だった。霧花の話が終わらぬうちに警護隊の声が響いてきた。
「ジャン・アスラン!何を騒いでいるんだ!」
霧花は、言った。
「大地と六つの欠片……大地の元に欠片たちは集結する……でも、欠片たちを呼び寄せるに
は、あなたの力は不完全なのよ」
ジャンは、知っているよと、いうように苦い笑いを浮かべる。
「レインボーヘブンへの真の道標を見つけなさい。そして、一心にその道を進めばいい。あなた
はきっと、その過程で足りない箇所をおぎなってゆく。その時、初めて欠片たちはあなたの存 在に気づくでしょう」
警護隊の足音が近づいてくる。
「行くわ。明日、ココとサライ村の住民は、ガルフ島を出るそうよ」
霧花は早口に伝えるとふわりと空気に溶けこんだ。ジャンの頬にびゅうと冷たい風が通り過
ぎる。
「ココ達がガルフ島を……」
ジャンは驚いたように、風の後を目で追ったが、霧花の姿は、もうどこにもなかった。
「……だが、それが彼らの意思ならば、僕はそれを止める事はできない……」
ジャンは、霧花の残した剣と鞘を床から拾い上げ、静かに刃に残った三連の蓮の模様を見
つめた。白銀に輝く剣。ジャンは圧倒的な不安に襲われていた。その不安を隠すかのように、 ジャンは急いで剣を鞘におさめた。
日食の日に何かが起こる……
ジャンの心は揺れていた。
日食の日は快晴だった。ゴットパレスの大通りには普段より多くの露店が軒を並べ、日食の
瞬間を見ようと集まった人々で賑わっていた。それとは対照的に火の玉山周辺には人気が全 くなかった。日食の日、火の玉山に邪気が集まる。ガルフ島の誰もがそれを知っていた。
「そろそろ八合目にかかるぞ。邪気なんてどこにもないじゃんか、これじゃただのハイキング
だ。なら、もっと別の奴と一緒が良かったなぁ」
ジャンは、先をゆくゴットフリーの背に皮肉たっぷりに言った。
「お前はどうしようもない楽天家だな。そんな戯言を言ってられるのも今のうちだぞ」
ジャンは、次はどんな悪たれ口をきいてやろうかとほくそえんだ。ゴットフリーをこうやってから
かえるのも、今のうちだ。
日食の日には護衛をつけてやるから安心しろ。
リリアの館でそう言った、ゴットフリー自らが護衛につくとは、ジャンにとっては、以外な事だっ
た。それも、護衛はゴットフリー、一人。他の護衛隊は一人もいなかった。
ジャンは、ゴットフリーの剣を背中にしょっているだけの軽装だったが、ゴットフリーは、さすが
に腰に剣を携えていた。だが、完全武装というにはほど遠い姿だった。
ゴットフリーは、ジャンを振りかえりもせず、先に進みながら話を続ける。
「やたらに人数を集めるとかえって動きづらくなるからな。今年は三年前の日食は違って、完全
に太陽が月の影に入る。その時、真昼の闇がガルフ島を包み込む。日食の日に集まる邪気 の数も半端ではないぞ」
「ゴットフリー、お前、警護隊を危険にさらしたくなかったんだろ?」
ゴットフリーの背中がぴくりと揺れた。
「どういう意味だ?」
ゴットフリーは語気を強めた。
「今日は、あのうっとうしい帽子もかぶってないんだな。よく見ると、けっこう、女の子にウケそう
な顔してるじゃん」
ジャンは人の悪い笑いを浮かべる。ゴットフリーの黒い髪が、陽のあたる部分だけ紅に染ま
り風に揺れていた。
「俺に向かってよくそんな口が聞けるな」
うっとうしいのは、俺の髪を見る奇異な目つきだ。神々しい?……馬鹿馬鹿しくて聞いていら
れるか。
「くだらねー理由。だから、かぶってるのか?あの帽子」
一人言のようなゴットフリーのつぶやきに、ジャンが返した言葉。ゴットフリーは、思わす、腰
の剣に手をまわす。
だがその時、ジャンは急に足を止め、その場にしゃがみこんだ。そして、足元の地面をじっと
見つめだした。
どこかでキーキーという野生動物の鳴き声が聞こえる。先程まで、快活に鳴いていた鳥達の
声が微妙に高くなる。
地の気が変わった……
「……どうした?」
後ろを振りかえり、ジャンを見遣るゴットフリーはまだ、何も感じていないようだった。だが、ジ
ャンにはわかった。火の玉山に何かが来る!すると、
ガサガサッガサッ!
ジャンの脇の草むらが揺れ、いきなり、黒い塊が飛び出してきたのだ。ゴットフリーは、思わ
ず剣の柄を握りしめた。だが、
「ココッ!?」
それは、苦しそうに息をきらしたココだった。ココはジャンを見て破顔した。
「良かった……ジャンに会えた!」
「ココ、お前、サライ村に帰ったんじゃなかったのか?何でこんな所に来たんだ!」
「だって、ラガーから、ジャンはゴットフリーに火の玉山へ行かされるって聞いたから……荷物
用のロープウェイに乗って登ってきたのよ。ジャンに会いたかったから」
ゴットフリーが冷ややかにココを見つめている。
「また、この娘か。BWがうまく館から逃がしてやったというのに、懲りない奴だ」
ゴットフリーの姿を見つけ、ココはぎょっと目を見開いた。
ゴットフリー!トンネルを知ってた……
その瞬間、辺りは静寂につつまれた。そして、日差しが急に翳り始めた。すると、空気は一変
し、鳥達はキーキーと奇声を発して空をさまよいだした。
「いけない。ココ、日食が始まる前に早く麓にもどるんだ。ここは危険すぎる!」
ジャンはあせってココの腕をぐいと引いた。すると、ゴットフリーが言った。
「もう、遅い。鳥達がねぐらへ帰りだした。日食が始まる!その娘、一人で帰れば邪気の餌食
になるぞ」
その時だった。
“大丈夫、私がサライ村まで送るから”
風の中から、しなやかな声が聞こえてきた。ジャンは、破顔した。
「霧花か!?助かった」
「え、霧花?霧花がいるの?いったい何処に?」
ココは狐につつまれたように、辺りを見渡してみる。だが、誰もいない。
「ココ、早く帰るんだ。風がお前を助けてくれる」
ジャンは、ココの肩に両手をかけると、その体をくるりと、ココが飛び出してきた方向に向け
た。だが、ココは再び、ジャンの方へ向き直る。
「いやよ!だって、今日、サライ村のみんなはガルフ島を出るの。ここでジャンと別れたら、も
う、一生会えないよ」
ココは、はっとゴットフリーの方を見た。ゴットフリーは微妙に口をゆがめ、苦い笑いを浮かべ
ている。
「大丈夫。レインボーへブンを見つけたら、必ず僕が迎えにゆくから。」
「何?レインボーへブンだと!?」
ジャンは、驚いた表情のゴットフリーにきっぱりと言った。
「レインボーへブンは万民が憧れる至福の島。僕がそれを探していたからって、何を驚ろく?
お前もまた、彼の地を求めているのだろう」
空は目に見えて暗くなり、鳥達の奇声が再び、鳴り響きだした。ココはいきなり、ジャンに抱き
つくと、わっと泣き出した。
「だって、ジャンはレインボーヘブンを見つけたら、大地にかえってしまうのでしょ?今のジャン
にはもう会えない。それに、ジャンは迎えになんて来てくれない。来てくれるほはずがない。だっ て、私は、私は……レインボーヘブンの住民じゃないんだもん!」
ジャンは、泣きじゃくるココを抱きしめずにいられなくなった。だが、そっとその頭に手をやる。
そして、言った。
「もう、関係ないんだ。レインボーヘブンの住民であろうとなかろうと……僕が何であろうと……
そんな事は問題じゃない。僕はレインボーヘブンを見つける。そして、ココ、必ずお前を迎えに ゆくよ!」 ジャンは、ココを自分からぐいと引き離すと、ココが元きた方向にどんとその背を押 した。そして、叫んだ。
「霧花、たのんだぞ!」
風がびゅうと舞い上がり、ココの足元に吹きつけてきた。ココは自分の意志とは別に、元来た
道へと駆け出した。
無言でココとジャンの会話を聞いていたゴットフリーを、きりと見つめると、ジャンは山の頂を
指差した。
「行こう!お前もレインボーヘブンを見つけるんだろ!」
ジャンとゴットフリーが九合目にたどりついた頃、太陽は三分のニが月の影に入り込んでい
た。もう、辺りはほとんどが闇だった。鳥達は絶叫にも似た奇声を放ちはじめる。
わずかに木々を通り過ぎた木漏れ日は、地面に欠けた太陽の像を投影する。
「来るぞ!気をつけろ!」
三年前と同じか……いや、この圧倒的な悪寒は、やはりそれ以上だ。
ゴットフリーの額に汗が浮かび上がる。地面が震えている。前方から黒い影がやってくる。邪
気!正体はわからない。たまりたまった灰汁を日食のこの日に、火の玉山に捨てにくるのか?
ジャンとゴットフリーが構える間もなく、それらは、攻撃をしかけてきた。黒い風が通りすぎた
かと思うと、ゴットフリーの右肩からは、鮮血が吹き出していた。ジャンは、その黒い塊を素手 でつかみとると、ぐいと握りつぶした。
「おい、大丈夫か?」
ジャンに聞かれて、ゴットフリーは不敵に笑う。そして、腰の剣を抜くと空を真一文字に切り裂
いた。どさりと、落ちた塊はどす濁った血の色をしている。
「いったい、これは何なんだ?とてつもなく醜く、混沌とした……これが邪気?」
「俺が思うにこれは、怨念だ。人のみならず、すべての物の悔恨の思い。ガルフ島はその思い
にいつかは、滅ぼされる」
ゴットフリーは、ジャンの問いにそう答えると上着の胸元からガラスの小壜を取り出した。ぐい
と一気に中を飲み干すと、にやりと笑い、後ろにくるりと向き直った。後方からは無数の百足の ような昆虫達が這い登ってくる。ゴットフリーは、壜を捨てた手を口元にもってゆく。そして、指 にはさんだ火打ちの石を二度ほど鳴らした後、這いあがってくる昆虫達に口の中の液体を吹 きかけた。その瞬間、断末魔の叫びと共に昆虫達は炎につつまれた。
太陽はもう完全に月の影に入っていた。完全な日食そして……闇。空にはダイヤモンドリン
グに縁取られた黒い太陽が浮かんでいる。
「まるで、奇術師だな」
ジャンは、下から沸きあがってくる邪気の塊をたたき壊しながら笑った。
「三年前にはやれなかったからな。一度やってみたかった」
ゴットフリーは、ふくみ笑いをしながら空を仰いだ。その灰色の目に映った、帯のように連なる
真紅の光は……海の鬼灯! ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |